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ぜったいに おもしろくない H


 ――キリギリが目にしたそれは、世界の終わりだった。

 果て、と言い換えてもいいだろう。線引かれたように大地はピタリと途切れ、そこに在ったであろうものを想像することすら難しい。自分のちっぽけな手では到底どうにもできない暴力的なまでの〝無〟が、そこには残されていた。


『これが、世界の真理……!』


 始めこそ、おそれからきていたキリギリのふるえは、いつの間にか武者ぶるいへと変わっていた。数歩先にある境界の向こう側へ、自分も行ってみたいという想いばかりが胸に積もる。


『貴様! 我が同朋たちをどうした!』


 とつじょ現れた原住民、アン。始まる戦い、舞い上がる砂けむり。なかなかつかない決着に、太陽が沈み始めた。

 西日がひときわ強くなったそのとき、長い拳闘に終わりは訪れた。これを最後とくりだされた拳は交差し、互いの喉元を打つ寸でのところで止まる。


『ふっ……次は飛べぬようにしてやる』

『は! 言ってろよ』


 どちらともなく上げた笑い声が響く中、今日も夜は始まった。

 襲いかかったことを詫びたあと、アンは、狩りから帰ると集落一帯が消失していたのだと話した。居なくなった同朋たちを想い、途方に暮れるその肩を、キリギリが叩く。


『お前、運がいいな。大冒険家キリギリ様とは、この俺のこと! いっちょ一緒に探してやんよ!』


 共に旅するうち、強まるキズナ、深まる友情。もろもろの壁も越え、いつしか二人はマブ・ダ・チの盃を交わす仲になっていた。

 この平穏な日々がずっと続くことを願い始めたある日、アンの集落を襲った犯人、ジャン・ボエネミーが二人の前に立ちはだかる! 勇敢に立ち向かう二人だったが、あまりの巨大さ強大さに、膝を折るしかない。

 見えない壁に阻まれ、逃げ場を断たれる。そのとき、壁の向こうから大きな声援が届いた!


『生きていたか、同朋たちよ!』

『へっ……こんなに期待されたんじゃ、おちおち休んじゃいられねぇな』


 再び立ちあがる、キリギリとアン。そのとき、二人の体が不思議な光に包まれた! 顔を見合わせ、目で語り。言葉なく片ひざをついたキリギリの背に、アンが乗る。


『合体! くらえ――』

 それぞれにクロスさせた腕を重ね、えがかれるひし形。二人は叫ぶ!

『キリギリアン・ビィィーームッ!』


 やった! ヤったぞ、ジャン・ボエネミー! アンの同朋たちから歓声があがる。

 安堵して二人が合体を解くと、空からは白いものが舞いおり始めた。


『ちっ、もう来やがったか』

 持病のシャクが。と言わんばかりのつぶやきを残し、とつぜんキリギリが倒れる!

『キリギリ、君はまさか……!』


 全てを察したアンは、帽子の中からイチゴの欠片を取り出し、キリギリを抱き起こした。


『ははっ! 食べるものが無いなら無いと、遠慮なく言いたまえよ。我らの備蓄力、あなどってもらっては困る』


 初めて見るアンのほがらかな笑みに、戸惑うキリギリ。その頬がどことなく染まって見えるのは、沈み始めた太陽のせいか否か。


『いいのか?』

『ああ。君はもう、我が同朋の一員だからな』

『……すまない。世話になる』


 重なり合う二人の影に、雪は積もっていった。





 そうして、うっとり、としか言いようのない顔で、紙しばい屋のニーチャンは自分の肩を抱きしめた。心なしかクネクネして見えるのは、このさい、気のせいってことにしておこう。

 そうして、ほう、と気持ち良さげにため息をついている一方。待ちぼうけを食らっているこちらは、アクビをかみころして涙目の子がチラホラ……。


(前置き、はやく終わらないかなぁ)


 この場にいる、みんながそう願ってると思う。無いのも味気ないけど、こんなに長いのも困る。ボクらが待っているのは〝コーフンする本編(おもしろいハナシ)〟であって、〝退屈なだけの後日談(おもしろくないハナシ)〟じゃあないんだから。


(さぁ早く。早く、終わりにして!)


 心の叫びが届いたのか、「――ってなわけで」と仕切りなおして、キキンッと、ニーチャンが拍子木(ひょうしぎ)を打った。

 おしまいの合図に、ボクらはピンと背筋をのばして両手をかまえる。前にも何度か長いときがあったけど、どのハナシもサイッコーにおもしろかったから、きっと今回のだってとみんなの期待は強かった。……というより、〝待ったカイ〟があってほしかった。


「お待ちかね!」


 高らかに宣言して、ニーチャンは紙しばいの木枠――舞台のトビラを上に左右にパタパタあけはなち、自信たっぷりにその題名を読みあげた。


「『キリギリ・スーの冒険! アン・トのヒモになる余生(ふゆ)』の、はじまりはじまり〜ぃ!」



===

ぜったいに おもしろくない (ハナシ)

〔2017.03.30作〕

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