創造主の始め方
『さぁさ皆さま、お耳を拝借!
これからご紹介致しますは我が社の最高傑作。
なんと〈セカイの種〉でございます!
何だそれはとお思いのアナタ様にはガッカリ。
そんなまさかとお思いのアナタ様にはこう言いましょう
「えぇ、その〝まさか〟です!」
このセカイに強い不満をお持ちではありませんか?
であれば、好みのセカイを作ってしまえばよいのです。
気に入れば住むもよし、眺めて愛でるままもよし。
手入れ次第でどんな絵空事も叶うのがこの種のスゴイとこ!
さぁ信じる方は始めましょう、夢の創造主ライフを!』
「……コイツ、俺のセカイでも売ってやがる」
ハリセンを合いの手に叩き鳴らす口上。初めてではないのについ聞き入ってしまったことが、なんとなく悔しい。
そらしかけた目を戻すと、運良く種をお買い上げした人物が見えた。それがヒトだった時の自分にしか見えなくて、奇妙な笑いがこみ上げてくる。
――そいつも〝神〟を始めるのか、と。
*
職を失い貯蓄も底が見えた頃、俺の手にはビー玉大の種に化けてしまった夕飯がコロリ。やけに陽気な売り口上と湧き出た興味に負けて買った怪しげなそれは、鍋で育てる〈セカイの種〉だという。
「明日の楽しみより、今日のメシをどうして取れないんだろな俺……」
思い返せば、衝動買いで〝いいもの〟を手にした記憶はとんと無い。食べたり使ったりする前に熱が冷めてしまって、最悪、一度も手をつけなかったことさえある。けれど、冷静になってもなお期待感がゼロやマイナスにならないのは今回が初めてだ。
「ま。それだけ密かに求めてたってことか」
そうなると、いくら腹の虫が喚こうが食べてしまうわけにはいかない。
鑑賞して癒されるも、干渉して神さま気分を満喫するも、全ては創造主の俺次第。――さて、どんなセカイにしてやろう。
紙ペラ1枚の取り扱い説明書を元に、セカイ創造の用意を始めた。
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創造主の始め方
〔2009.01.23 初/2023.03.03 改〕
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