コビトさんの夢
みらーい、みらい。あるところにとても小さな〈コビトさん〉が住んでいます。田舎での暮らしは悪くないけれど、そこはそれ。刺激のほしくなるお年頃なので退屈な日々を過ごしています。
ある日のこと。いつものように夜空を眺めていたコビトさんは思い立ちます。
「そうだ、月へ行こう!」
目標ができたそれからの日々は、やっとかかった青春エフェクトで何もかもが輝いて見えます。
どうしたら月まで行けるだろう? とガラクタ山を散策すれば、扇風機を見つけて閃きの神が降り立ちます。
「この羽根を使えば、きっと飛べるに違いない」
さっそく解体してトンカン工作します。
月に行きたい、えんやこらトンテン。
空飛んで行きたい、トンカラカン。
そうして完成する一号機〈ハネコプター〉をかぶり、コビトさんは空へ――飛べるのは一瞬だけ。急転直下、しりもちドタリ。羽根は確かに頭上で回るものの、自分自身も一緒に回ってしまうのではそれも当然です。
逆回転する羽根がもう一つあれば飛べるのですが、田舎者のコビトさんはそのことを知りませんし、気付いたとしても羽根は一つしかありません。
これじゃあ空を自由に飛べないなぁ。とガラクタ山を散策すれば、自転車を見つけて閃きの神が降り立ちます。
「これと羽根を組み合わせれば、きっと飛べるに違いない」
そうしてまたトンカン工作します。
月に行きたい、えんやこらトンテン。
空飛んで行きたい、トンカラカン。
そうして完成する二号機〈トンボンチャリ〉にまたがり、コビトさんは空へ――浮き上がることなくガラクタ山をスイスイ二周して終わります。推進力を浮力に変える昇降舵がないのではそれも当然です。
右翼・左翼があって、進路を操る補助翼・方向舵と、着陸時に必要なフラップもあれば飛べるのですが、そんな加工技術がコビトさんにあるわけもありません。
カゴに何か乗せていれば飛べたかも。とガラクタ山を散策すれば、何かを掲げたスタチューを見つけて閃きの神が降り立ちます。
「ここにあるもの全部を使えば、きっと届くに違いない」
そうしてまたトンカン工作します。
月に行きたい、えんやこらトンテン。
空のぼって行きたい、トンカラカン。
そうして完成する三号機〈バベレーター〉に乗り込みスイッチを押すと、コビトさんは空へ――飛ぶがごとき勢いでグングン昇っていきます。予想外の出来事に少しだけ驚いて、あとはワクワクしながら近付く月を眺めます。
ポーン、という音とともに弾き出されるそこは、目指した月の上です。たどり着いてみれば、月は凪いだ海のように静かで、どれだけ見回しても何もない寂しげな場所です。
『ナンジ、ニンジンをアイしますか?』
『はい。アイさずにはイられません』
ふいに聞こえる声に振り向くと、そこには伝承の生き物〈赤目の白いフワフワ〉が。そしてカイブツたちのゲッシにかかり、コビトさんは食べられてしまうのです。
「――となる夢を見たから、行くのやめたら?」
「お前のへっぽこ予知夢なんて誰が信じるんだよ。あと少しなんだからジャマするな。あと、コビト呼ばわりもやめろ」
「いいじゃないか小人参。どうしても素直にニンジンと読めないおちゃめ心が、私にそう呼ばせるんだよ」
お前だって小さい大根のくせに。そう言って笑った彼はその日、月に行ったきり帰らなかった。私が見た夢のとおり、きっとカイブツに食べられてしまったのだ。
人参ではない私がついて行ったなら、帰還することもあっただろうか。彼の夢に私を見たことは一度もないから、願いでしかない想いを正夢にするために動くことは絶対にできなかった。
だから毎日、私は月に祈る。コビトさんの夢を誰かが共に見ていますようにと。
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コビトさんの夢
〔2022.03.21 作〕
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