病か、あるいは。
「先生。またこの患者です」
担架で病院に運ばれてきた患者を診て医師はため息をつく。
「またか」
「はい。それも重傷です」
「見るだけ見るか」
そう言って医師は患者を見つめた。
見た所、どこに異常はない。
「ふむ……」
次に近づいて声をかける。
返事は返ってこない。
「聞こえるか?」
さらに手を触れる。
反応はない。
そして呟く。
「もうダメだな、これは」
「ダメですか?」
「あぁ、どうしようもない」
「ではどうします?」
問いかけに医師は答えた。
「普段と同じだ。放っておけ」
「分かりました」
医師は大きくため息をついて椅子に座る。
またこの病だ。
毎日のように病が蔓延する。
本当にうんざりしてしまう。
「ふざけた病だ」
医師は呟く。
この病は現代になり急速に流行し始めた。
長い歴史の中で一度も見られなかった病だ。
いや、当然か。
そもそも『このような状態』になることを人間はおろか『生命』は想定していないのだ。
医師はため息をつきながらこの病の原因を思い出す。
『つまり、これは実に合理的な進化の形なのです』
偉そうな先生はそう語っていた。
『人間は強くなり過ぎました。弱者であっても銃を握れば力の関係はあっさりと変わる。しかし、これでは強い遺伝子が残るというルールを果たせない』
故にこそ人類は『進化』したのだ。
より強い種を遺すために、新たな生態を獲得したのだ。
つまり、自らが劣っていると判断した時から『生存を放棄する』ように。
「馬鹿らしい。そんな進化あってたまるか」
故に医師は今日もこの『病』と向き合う。
これを『進化』だと認めないために。