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on my own way

今は亡き貴女に捧ぐ


 八月十三日 日本武道館

 目を開くと数えきれないほどの観客の中にまばゆい光を放つ物があった。それを追い求めるためにこの世に生まれてきたと感じた。それと同時にそれは失われてしまった物でもあり、これから手に入れる物でもある様な気がした。それに関して深く考えたかったが、その時間は無い。多くの観客がその瞬間を今か今かと待っている。

「レミングの王」と一言だけ言うと会場から歓声が上がった。

 相棒のDJに合図を出すとイントロと共にShag senseという言葉のネームタグが広い水槽を泳ぎ始めた。その優雅な姿に誰もが見惚れる。会場はselfabsorptionの掛け声で溢れ、観客達の熱気を肌で感じる。歌い始めると同時に会場は一体となり、気分が高揚する。サビに入る手前、誰かが大きな声でLil Peace Downerと叫んだのがわずかながら何度も聞こえた。聞き慣れない名前に一瞬思考を巡らせたが、なにもわからなかった。

 人生初の日本武道館ライブを一九歳という若さで成功させたその日、楽屋に戻り高鳴る胸を抑えながらも相棒と喜びを分かち合った。

「ありがとな。これで俺らの夢が叶ったよ」と相棒のシャグっちゃんが悲しそうな顔で言う。

 シャグっちゃん、Shag senseという名前のアーティスト兼DJ。昔はマイクを持っていたらしいが今はほぼ俺の相棒としてDJをしている。俺の代表曲、レミングの王は彼がビートとリリック全てを担当している。育ての親でもありながら兄貴みたいな存在なので敬意を込めてあだ名でシャグっちゃんと呼んでいる。

 スマホを見ると二十一時を過ぎていた。歳の離れた姉から動画が送られてきており、昔からの癖で首のアザを隠す様に不自然な位置で手を振り頑張れと言う姿が記録されていた。ありがとうとだけ返信し、体の力を抜き暗転した画面を眺めていると姉には無い左目の下に二つ並んだほくろがある自分の顔が映った。

「Lil Peace Downerって誰?」と聞くとシャグっちゃんが吸っていたピースを落とした。付き合いは長いがそこまで驚いた顔をする彼を見るのは初めてで、何かいけないことを聞いたかと動揺した。

「お前その名前どこで聞いたんだ?」

「観客席の方から聞こえた気がしたんだ。ライブ中興奮してたから空耳かと思ったけど、何度も聞こえてきて」と言うとシャグっちゃんは落としたピースを拾い上げ、しばらく黙り込んでしまった。

「気のせいかもしれないし、俺にもピースくれよ」

 彼はどこからか新箱を出し、封を開けこちらに差し出してきた。その手が震えていることに気がつく。

「聞きたいか?お前のお父さん。Peace Downerについて」いつもより真剣な顔をした彼に不安を覚えながらも渡された煙草を手に取りお願いしますと答えた。

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