表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/11

第7話 ホンキワザ――マジメラパンチ

「すごい! すごいよ! 陽色! 君今、本当にマジダレッドになっているよ! 戦えそうかい?」

「ああ、スーツがまるで強靭な筋肉みたいにサポートしてくれてる気がする」

「それはナノマシンが補助しているんだよ。ナノマシンが君に適応できて安心だよ」


 何も着てないみたいに軽いのに、体が動かしやすい気がする。


「潰すぅ!」


 変身前までは、早すぎる動きだと思っていたが、今は違う。


「視力がこいつの動きに慣れた……いや、違うな」

「スーツの視界部分には行動分析機能が付いているからね」


 なるほど、要するにこれを介することで自然と相手の動きが肉眼より鮮明に分かるんだな?


「っし! 見切ったぁ!」


 腰を入れて、軽く男のボディーに拳をたたき込む。

 さっきは出来なかった反撃が簡単に出来てしまった。


 拳の速度、重さが明らかに自分のものでは無かった。

 別次元の強さだろこれ。


 これを1人の人間が作ったとなると、とっても恐ろしいな。


「うぐぅ……潰すぅ、全部!」

「防御力は高いが確実にダメージ入ってるな」


 俺は少し溜めるようにしゃがんでから飛び上がり、男の側頭部に回し蹴りをお見舞いする。


「んぐぅ……! 全部ぅ……!」

「やっば、体が思い通りに動きすぎる」

「素晴らしい! なんて適応能力! もうスーツを使いこなしている! これがファンの実力か」


 相手に攻撃する隙を与えず、急所を狙い続けろマジダレッド!


「はっ! ふっ! おらぁ!」


 俺は男の動きを解析しつつ、確実にダメージを与える。


「もうフラフラじゃないか。生身ならこうなっているのは俺たちだったろうな」

「うぅ……全部潰すぅ……」

「やめときな、もう休め」


 俺はホンキチェンジガンからマジ色ストーンを1度取り外し、再び装填する。


 すると作中通り慌ただしいリズムが流れて必殺技の準備が完了する。


「陽色、彼の心臓部を狙いたまえ! そこには緊急停止装置がある! そこをホンキワザで攻撃して強制的に装置を作動させてくれ!」

「分かった!」


 マジダレッドの定番技。

 現実世界では再現不可能だと言われる技だが、今の俺なら確実に出来る。


 そんな自信がある。


 変身システムを作り上げた佑の技術なら、スーツでの肉体強化も的確に調整しているはずだ。


「ホンキワザ!」


 俺はホンキチェンジガンの照準を男に合わせて、トリガーを引く。


「潰すっ――」


 トリガーを引かれたホンキチェンジガンからは高火力の炎が放出され、瞬時に男へ着火すべく火の手が伸びていく。


 着火と同じタイミングで拳を当てなければマジダレッドの技は成立しない。

 だが、勢いよく放出された炎に追いつくわけがない。生身なら。


 俺はスーツの性能を信じ、全ての力を極力に変換するイメージで地面を蹴る。


 間に合うかは賭けだったが、そんな不安すら無くなるほど圧倒的な脚力だった。


 スーツに身を守られていてもGを感じるほどの速度。

 気付けばもう男と炎の前にいた。


 これが本気のごっこ遊びか、まさか平凡な人生の中で必殺技を出せる日が来るなんてな。


「マジメラ――パンチ!」


 男の心臓部に炎が当たる寸前で、ねじ込むように拳を打つ。

 確実な感触の後、炎が拳に収束。


 そして。


「潰すぅっ……! ぐ、う……うぅ……」


 爆発を起こして男の動きを完全に停止させる。


「よくやってくれた陽色、すぐに拘束する。君が戦っている間に拘束装置を強化しておいた。万が一暴れても解けないさ」


 佑がスマホをポチポチと操作すると、どこからともなく拘束具が飛んできて男の手足を拘束する。


「彼は責任をもって元の体に戻すよ」

「分かった、待ってるわ。リスクの説明聞きたいから」

「そうかい、すまないね。そこにコーヒーマシンがあるから自由に飲んで待っててくれ」

「了解」


 拘束した状態で男を奥の研究室に運んでいく佑の背中を見ながら、俺は変身を解除する。

 作中通りの仕様で、マジ色ストーンを外してトリガーを引くと変身が解除された。


 マジ色ストーンを持っている方の腕を伝う形でスーツが消えていったから、ナノマシンがマジ色ストーンの内部に戻ったんだろうな。

 作中ではスーツの仕様についてはうやむやできっとこのホンキチェンジガンは佑の解釈で作られているはずだし、そうなるとイマイチ操作方法が分からない。

 じっくりとホンキチェンジガンをいじりたいが、何かへんなところを触って壊したくないから遠くから見守ろう。


 俺は大人しくコーヒーを飲みながら、遠巻きに佑製のホンキチェンジガンをじっくりと眺めて時間が過ぎるのを待った。


 ***


「――お待たせ、無事片付いたよ……って何してるんだい?」

「おつ。佑が作ったホンキチェンジガンとメモリアルエディションを並べて外観の違いを見比べてる」

「そ、そうかい。それで、違いは分かったかい?」

「よく分からないけど、佑が作ったほうが本物って感じだな。メモリアルエディションは当然凄いクオリティだけどやっぱり玩具って一目で分かっちゃうんだよなぁ」


 佑が作ったものは鉄。メモリアルエディションはプラスチック。塗装されていてもその差は埋まらないな。


「で、改造した人はどうなった?」

「無事元通りに戻せたよ、同意のうえとは言えど危険なことをさせてしまったから謝罪と、契約通りの報酬を渡して帰ってもらったよ。この部屋にいたのに気付かなかったのかい? 通ったはずだが」

「おー、ちゃんと元通りになってよかった。目先の玩具に夢中で全然気付かなかったな」


 致し方ないことだとしても、殴って爆発させたことはお詫びしたかったな。


 もし今度会うことがあればちゃんと伝えよう。


「さて、さっそく君が求めるリスクの説明に移ろうか」

「ああ頼む。そこが1番怖いんだよなぁ」


 変身すれば人間離れした力を得れる変身アイテム。

 そんなものが、ノーリスクで使えるわけがないんだ。


「まずはシステムを簡易的に説明しよう」


 佑は大きなモニターに資料を映し出す。


「マジダマンに変身するにはホンキチェンジガンとマジ色ストーンを使用する。作中の原理はよく分からないがボク個人の解釈で作ったシステムは、マジ色ストーンにナノマシンを搭載し、それをホンキチェンジガンで打ち出すことで変身するシステムだ」

「どうしてそのナノマシンがスーツになるんだ? それに体にぴったりだったがいつ採寸したんだ?」


 ナノマシンは万能な物だと認識しているが、そこまで便利なものなのだろうか。


「ナノマシンは瞬く間に体全体をスキャンしてピッタリなサイズのスーツに変わるのさ。ナノマシンをスーツに使用したのは、利便性からさ。トリガーを引いて変身が実現できるのはそれくらいだしね」

「なるほどなぁ……そういうことねぇ」

「陽色、それは理解してない人の相槌だね」


 問題ない、きっと概要くらいは分かっている。

 ナノマシンとか難しい話されたら、ほとんどついていけねぇ……。


「仕組みなどについては気になった時に都度聞きたまえ。君にはそれがよさそうだからね」

「助かる、そもそも俺が1番知りたいのはリスクだしな」

「リスクについては実はそんなにないんだけどね」

「そうなのか?」


 俺が思っているよりは、ローリスクで変身できるのか?


「大きなリスクとしては体への負荷がシンプルにデカいということだね。ナノマシンで肉体を刺激して本来以上の力を出すからこれは致し方のないことだね」

「言われてみれば、体にだるくて重い疲労感がある」

「言われないと気付かなかったのかい? これもしかして君にとってのリスクではないのかな」

「ホンキチェンジガンに夢中で気付かなかったんだよ。意識するとすっごい疲れてきたし体中が痛い」

「痛みは彼の攻撃を生身で受けてたからだろうね」


 佑は救急セットを取り出して、慣れた手つきで俺に処置を施す。


「まぁなににせよ。体への負担は大きいから変身は1日に1回が限度だね。それを超えるとどうなるか、ボクにも分かりかねる」

「だな。別に敵が街で暴れてるわけじゃないし、戦うわけじゃない。実験するだけなら今日よりは疲れなさそうだけどな」

「ボクの実験はそんなにヤワな物じゃなくハードだよ。耐久性や攻撃力を試したいし、変身までの速度の向上もしたいな。あと、関節の可動域をもう少し無理のない仕様にする必要があるかな。さっきの戦闘を見る限り、下半身が動かしづらそうだった」


 どこで使用するわけでも、活躍の場があるわけでもない。

 強いて言うなら街のごろつきから治安を守るくらいか? なのに真剣に性能向上を目指して試行錯誤を繰り返している。マジでハードな実験に付き合わされそうだ。


「リスクは今のところ体への負担だけだが、改めて。ボクの実験体であり、監視者であり、相棒になってくれるかな? 陽色」

「正直ハードな実験になりそうでここから逃げ出したいが、何かに本気になれる。そういうのは大好きだ。体の負担は問題なさそうだし、既に乗りかかった船だ。命大事に頼むぜ相棒」


 嬉しそうな顔を浮かべる佑と熱い握手を交わし、俺は晴れてマジダレッドとして実験に参加することを約束する。


 実験するうえで発生するリスクに対する同意書や、技術の漏洩に関する契約書にサインしていると、もう後戻りできないんだなと実感する。

 賛成したのは判断を早まったか?


 多少の後悔がないとは言わないがこうして、俺の人生にマジダマンがより濃く根付いたのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ