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第6話 目に焼き付けろ、赤い変身

 何度も繰り出される早く強い拳。

 なんとか避けても、風圧で姿勢が崩されてしまう。


「おいちょっと離れとけよイカれ研究者、巻き込まれるぞ」

「問題ないさ、モルモットくんが変身してくれればね」

「しねぇって」


 攻撃をかわすのに精一杯だが、横からイカれ研究者が変身しろとしつこく要求してくる。


「この頑固者め! 良いじゃないか変身くらい!」

「変身したら最後、いろいろ研究させろと言うだろ」

「それはそうに決まっているだろう? ボクが作ったアイテムで変身するということは研究に同意するのと同義だ」

「じゃあしねぇよ! 絶対! あいつなんとかしてくれよ! 改造したのお前なんだから……っ! なんとか出来るだろ!」


 攻撃をかわそうにも動きが早すぎて掠ってしまう。

 反撃する隙はもちろんないし、攻撃を受け止めて形勢逆転を狙うにも力量差がありすぎる。


 パワーも防御力も完全に生身の人間では勝てない。

 このイカれ研究者、マジで変身しないと勝てない強さにしてやがる。


「緊急停止ボタンとかっ! 付けて……ないのかよっ!」

「付けてるに決まってるじゃないか。実験はなにが起こるか分からないからね。筋肉を硬直させて動きを止める機械と、高圧電流で動きを止める機械の2つを体内に取り付けてるさ」


 さすがは研究者、不測の事態に備えるモラルはあったようだ。


「じゃあさっさとそれで止めてくれ、このままじゃ俺たちはここでくたばるし、街に出たら大惨事だぞ」

「ああ、そのリスクはボクも恐れている。だからさっきから2つとも起動しているさ、何を言っても君は変身しなさそうだからね。別の手段を考えるよ」


 どんな手だろうと小細工されたら引き受けないからな。素直に頼んで筋を通せば変身してやるのに、どうしてそれが分からないんだ? 何かして欲しいなら取引じゃなくお願いからするのが1番のはずだろ。


「だがねぇ……」

「なに? 何かトラブルか?」


 攻撃をかわす俺の動きと同調するようにイカれ研究者も攻撃をかわしつつ、必死にスマホを操作して男の動きを止めようとしている。


「ああ、2つとも作動しないんだよね。困ったね」

「マジかよ!? 大ピンチじゃねぇか!」


 両手を上げて首を横に振ってやれやれと言わんばかりの態度だが、表情には少し焦りが見え隠れしている。

 どうやら嘘ではなく、本当に緊急停止の機能が作動しないらしい。


「本当に困ったね。あ、変身してもらうための嘘だと疑ってるのかい? 見たまえエラーだ。動かない」

「いや疑ってねぇよ。画面見せられても俺そういうの分からないから見せなくていい、攻撃をかわすのに集中しろって死ぬぞ」

「潰すぅっ! 全部ぅ!」


 くそ、このままじゃ俺もイカれ研究者もやられてしまう。仕方ない、少し無理するか。


「ぐっ……! ちょっと止まれ! 落ち着いて話を聞け! お前はそんなヤツじゃないだろ! 冷静になれ!」

「うぅ……潰すぅ」


 骨折覚悟で男の攻撃を受け止めたのは良いものの、ガチで折れたかもしれない。痛すぎるだろ。


「聞け! お前は暴れるだけの怪物じゃないはずだ!」

「何してるんだいモルモットくん?」

「説得だよ。改造されてても人間なんだ、きっと分かってくれる」

「バカなのかな? 理性が完全にぶっ壊れてるよ彼は」


 くっ、なんだこいつ。このまま俺を吹き飛ばすつもりか?

 拳を俺の腕に当てたまま力をドンドン込めてきている。


「おいイカれ研究者! 今のうちに逃げてこいつを止める手段をなんとかしてくれ! このままじゃジリ貧だ!」

「何を言ってるんだモルモットくん。逃げるなら君だろ? この件の責任はボクにある、リスクを負うのはボクであるべきだ!」


 イカれ研究者は、俺の首根っこを掴んで男の攻撃から助ける。

 だが攻撃はイカれ研究者の元へ向かう。


「避け――」


 俺の言葉が届く前に、イカれ研究者はホンキチェンジガンを盾にしてその攻撃をいなした。


 本物だというホンキチェンジガンは鉄製だからか、少しだけ男にダメージを与えれている。


「体に合わないが、ここはボクが変身して止める。自分がしでかした責任は取るよ巻き込んで悪かったね。逃げたまえ赤井陽色くん」


 こいつ……イカれなりに通すべき筋を持ってるってわけか。


「もしここを生き残れてもボクはもう君に、マジダマンに、研究に固執するのを辞めてひっそり生きるよ。自分の研究が出来ればそれで良かったが、人に害を加えたい訳ではないからね」


 そう言うイカれ研究者の顔は、とても切なく見える。

 あそこまで実験したがっていたやつが、そんなにすぐ切り替えれるのかよ。


 あぁ、くそ。心の底から自己中なクズならなんの同情もしなかったのに。


「イカれ研究者なら最後までイカれとけよ。不気味に笑って研究したがってろよ」


 猛攻をホンキチェンジガンでなんとか凌いでいるイカれ研究者だが、体勢を崩してもう避けきれそうにない。


 俺はそんなイカれ研究者めがけて飛び込み、とっさに攻撃から守る。


「わお、大胆だね。人間、死の直前には子孫を残そうと発情するって話は本当なんだね」


 イカれ研究者は、攻撃から守るために飛び込んで腰に抱きついた俺を抱きしめ返す。


「君になら初めてをあげても構わないが彼はそんな時間をくれそうにないよ? おっぱいだけでも揉んでおくかい? それで罪滅ぼしになるかな」

「ふざけてる場合か! ホンキチェンジガンを貸せ! あとマジ色ストーンも」


 頬を赤く染めるイカれ研究者は無視して、手からホンキチェンジガンとマジ色ストーンを奪い取る。


「正直に答えろ、研究したいんだろ? 俺で実験したいんだろ?」

「ああ、もちろんだ。だが、君は変身したくないんだろう? なぜホンキチェンジガンを構えるんだい?」

「したいなら素直に頼め、実験させてくださいってな。してやるから」


 イカれ研究者は、呆然としながら俺の顔を見上げている。


「いいの……かい?」

「小細工無しで頼めばな。お前みたいなイカれ研究者の手綱を握れるのは、目をつけられてる俺くらいだろ」


 俺の言葉に、安堵するような笑みを浮かべるイカれ研究者。


「お願いするよ、赤井陽色くん。ボクのために実験体になってくれ」


 イカれ研究者は、どうやら理解したらしい。

 ちゃんとお願いすれば望みを聞いてくれる人間がいることを。


「いいぜ! 後でリスクは説明しろよ? それにいいか? 俺はただの実験体じゃない! イカれ研究者の監視者であり、相棒でもある。忘れるなよ」

「ああ、絶対に忘れないよ。君には感謝してもしきれないな」


 監視者だのなんだの言っても、きっと俺の本心では、本気のごっこ遊びがしたかったんだろうな。


「俺も感謝してるよ、憧れのヒーローになれるんだからな。ちゃんと見とけよ、お前の研究の成果だ」

「ありがとう赤井陽色くん……!」

「陽色でいいぜ、佑」


 変身のモーションは頭に入っている。

 何度もシュミレーションしてた。変身する機会なんてないのにな。


 だが今こうして変身アイテムを構えている。


 俺は赤いマジ色ストーンを手前に向けて軽く投げる。

 肩幅に足を開いて構え、左手で持ったホンキチェンジガンを右肩の上あたりに持っていく。


 その途中ホンキチェンジガンの側面にある穴にマジ色ストーンがピッタリとハマる。


 すごいな、作中では編集でハマっているように演出されていたが、これは磁石が採用されているんだな。


 マジ色ストーンがハマった瞬間に、ホンキチェンジガンを胸まで下ろしてくる。


 そして。


「マジ色ストーン装填完了! ホンキチェンジ!」


 ホンキチェンジガンのトリガーを引くと、バキュンという銃声とともに赤い光が全身にまとわりつく。


 視界は薄い赤に染まり、体全体には密着するスーツの感触。

 ……マジで変身したのか俺。


 それに、変身中は相手が待ってくれるってのは演出ではなくマジだったのか。


 いつの間にか鏡を準備していたイカれ研究者によって、俺は自身の姿を確認する。


 その鏡には、マジダレッドが映っている。

 ピースをしてみると、鏡に映るマジダレッドもピースする。

 本当に俺が変身しているらしい。


 だったら俺の第一声は。


「滾る赤き正義! マジダレッド!」

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