エピローグ
カチャッとドアノブを開ける音と共に、懐かしい人たちの顔が見えた。
「お姉様!」
「リーゼロッテ様!」
口々にリーゼロッテを呼んで駆け寄ってきたのは、妹のシャーロットとかつての侍女──ライラだ。
「シャーロット! ライラ!」
リーゼロッテは思わず立ち上がり、ふたりのほうを向く。笑顔を向ければ、ふたりは泣きそうな顔をした。
「お姉様。本当にお綺麗です」
「本当に。世界で一番素敵ですわ」
口々に褒められ、リーゼロッテははにかんだ。
「遠いのに、来てくれてありがとう」
今日、リーゼロッテはテオドールと結婚式を挙げる。
王命による紙一枚の結婚から早三年。いろいろと順番は逆転してしまったが、テオドールの提案で結婚式を挙げることになったのだ。
今更結婚式をするのも気恥ずかしい気がしてリーゼロッテはふたりだけで挙げようとも思ったが、アイリスに絶対に大事な人たちを呼んだ方がいいと説得された。いざ手紙を出すと故郷からは両親に加えて妹夫婦やライラ、それに学生時代からの友人達まで駆けつけてくれた。
「とても素敵なドレスね。お姉様が選んだの?」
「えっと……、旦那様とふたりで」
「まあ!」
ふたりは照れ笑いするリーゼロッテを見つめ、目をキラキラさせる。
裾が大きく広がる純白のウエディングドレスは、テオドールと一緒に選んだ。とは言っても、どれを着てもテオドールは『可愛い』『綺麗だ』と言うので、ちっとも参考にならなかったのだが。
「お姉様、今幸せ?」
「ええ、とても」
リーゼロッテは心からの笑みを浮かべる。
たったひとりで辺境の地にやって来て、最初は心細かった。
けれど、アイリスやセドリック、それに商工会の会長から広がる縁で、色々な人達に支えられてきた。そして、今はテオドールが惜しみない愛情を注いでくれる。
満ち足りた表情を浮かべるリーゼロッテを見つめ、ライラが目元をハンカチで拭う。
「私、ずっとリーゼロッテ様を置いて王都に戻ったことを後悔していたんです。リーゼロッテ様がひとりで辛い思いをしていないかって」
「まあ、ライラ。わたくしは大丈夫よ。むしろ、ライラからの手紙に励まされたわ。ありがとう」
リーゼロッテはライラにお礼を言う。
リーゼロッテがラフォン領に嫁いできた当時婚約していたライラは、あのあと結婚して一児の母になった。定期的にくるライラからの手紙は、少なからずリーゼロッテの癒しになっていた。
リーゼロッテ達の挙式はラフォン領で最も格式のある聖堂で行われる。
父親に手を引かれたリーゼロッテはまっすぐに前を見る。祭壇の前には、式典用の黒い軍服を着たテオドールが立っていた。
ゆっくりと近づき、目が合うとテオドールは蕩けるような笑みを浮かべた。
「必ず幸せにする」
「ふふっ、ありがとうございます。もう飽きても離婚しませんか?」
「そもそも飽きること自体、あり得ない。リーゼロッテこそ、もう離してやらないぞ」
「望むところです」
ふたりは顔を見合わせ、くすくすと笑う。
顔が近づき、影が重なった。
〈了〉
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