第三章 二年越しの顔合わせ(12)
テオドールはゴホンと咳払いをした。
「最近始まった少額融資の制度はきみが発案者らしいな。ほかにも色々と……商工会の会長から聞いた」
「あ、はい! こうしたらいいのではというアイデアを話すと、会長が必要な人や物を確保して前に進めてくれて」
リーゼロッテはパッと表情を明るくすると、嬉しそうに今まで実現させたことを話し出す。
新しい商店街、職業学校、輸入商品やラフォン領特産品のイスタール全土へのプロモーション──まだまだ出てくる事例は、たしかにここ二年ほどで次々に実現化されたものばかりだ。
「てっきり、あの会長がやり手なのだと思っていた」
「会長はやり手ですよ」
リーゼロッテはきょとんとした顔でテオドールを見上げる。
「わたくしは、アイデアを彼に伝え、お金を出すだけです。彼はそれを聞いて、実現可能性の検討から必要な人・物を集めて実現させるところまでやってくれます。わたくしひとりではとてもできません」
こういうものはアイデアを出すところが一番のハードルなのではないかと思ったが、リーゼロッテはむしろ周囲に感謝しているようだった。
「どうしてそんなことを?」
「どうしてって……ラフォン領の民がより豊かに暮らせるようにです」
リーゼロッテはなぜそんな当たり前の質問をするのかわからないと言いたげに首を傾げる。
「なるほど」
テオドールはふっと笑う。
そのとき、餌を食べ終えたヒッポグリフがリーゼロッテに頭を摺り寄せた。
「わわっ!」
リーゼロッテは驚きこそしたものの、すぐに笑顔でその個体を撫で返す。
「この子達は、これからどうなるのですか?」
「幻獣騎士の候補生とマッチングさせる。ただ、野生のヒッポグリフは人が育てた個体に比べて懐きにくい。全部にパートナーが決まるまでにはしばらく時間がかかるかもしれない」
「そうなのですね」
リーゼロッテはヒッポグリフを撫でながら相槌を打つ。
「お前だけの素敵な幻獣騎士様が早く見つかるといいわね」
リーゼロッテはヒッポグリフをわしゃわしゃと撫でる。
「話を戻すが──」
テオドールが口を開く。
「もしまた何かいいアイデアが浮かんだら、俺にも話してくれないか? ものによっては民間で取り組むより効率的なこともあるだろう」
「え? よろしいのですか?」
リーゼロッテは驚いたように目を瞬かせる。
「ラフォン領の民がより豊かに暮らせるならば、ダメと言う理由がない」
それを聞いたリーゼロッテは花が綻ぶような、満面の笑みを浮かべた。
「旦那様、ありがとうございます」
「……っ、これくらい構わない」
テオドールは咄嗟に目を逸らす。
頬がほんのり赤くなったのは、リーゼロッテの赤面症が移ったからだ。




