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【書籍化】嫌われ悪女の白い結婚 のはずが、最強幻獣騎士様の溺愛が始まりました⁉  作者: 三沢ケイ


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第三章 二年越しの顔合わせ(5)

女性への乱暴を示唆する表現が出ます。苦手な方は前半部分を読み飛ばしてください。

 リーゼロッテの顎を掴んで口づけると、元々大きな彼女の目がますます大きく見開かれる。


「んー!」


 リーゼロッテはどんどんと両手でテオドールの胸を叩く。

 その両手を纏めて頭の上に捻り上げると、唇をこじ開けて舌を差し入れた。詰襟のドレスの下から現れた真っ白の陶器のように滑らかな肌に触れる。温かでしっとりとしていて、いつまででも触りたくなる柔肌だ。


「だ、旦那様……せめて灯りを消してください」

「なぜ?」


 顔を上げて冷ややかに聞き返すと、リーゼロッテは「恥ずかしいです」と消え入るような声で言った。

 頬は真っ赤で、瞳には薄らと涙が浮かんでいる。


(これも男を陥落する演技なのか?)


 なるほど、まるで初めてのような態度で男の征服感を満たし、嗜虐心を煽る。事実として彼女の動きは硬く、テオドールの一挙手一投足に戸惑うような男慣れしていない様子が見えた。


(大した演技力だな)


 もしもリーゼロッテが毒婦だと事前に知らなかったら、完全に騙されていたかもしれない。この演技力には脱帽だ。


    ◇ ◇ ◇


 いつにない気だるさを感じながら、リーゼロッテはゆっくりと目を開ける。寝ぼけ眼のまま、視界にもぞもぞと動く人影を見つけた。


「アイリス? もうそんな時間?」


 声がかれているのはどうしてだろう。そんなことを思いながら、リーゼロッテはそこにいる人に問いかける。


「朝の六時二十分だ」


 低い声がして、リーゼロッテはハッとしてぱちっと目を開ける。そこには昨晩と同じく、軍服をきっちりと身に着けたテオドールがいた。


「旦那様⁉」


 慌てて飛び起き、すぐに自分のあられない姿に気づき「きゃっ」と悲鳴を上げて慌てて布団を引き寄せる。


「これが素なのか、初心に見せる演技なのか……本当に大したものだ」

「え?」


 言われた意味がよくわからず聞き返すが、テオドールはそれには答えることなくはあっとため息をついた。


「俺は仕事があるからもう行く」


 それだけ言うと、テオドールは自分の私室側のドアから寝室を出て行く。ドアが閉まると、かちゃりと鍵が閉められる音がした。

 リーゼロッテはベッドに座り込んだまま、しばらく呆然としていた。だんだんとテオドールの足音が遠ざかり、聞こえなくなったタイミングでようやく我に返る。


「嘘でしょう?」


 予定では、今日にもリーゼロッテは離縁されて近日中にこの屋敷を出て行くはずだったのに。こんな展開、完全に想定外だ。


「とにかく服を……」


 立ち上がると、今まで体験したことがないような体の軋みを感じた。子供のようによちよちと小股で歩き、クローゼットから一番着やすそうなワンピースを取り出してなんとか身に着ける。そうこうするうちに、トントントンとドアをノックする音がした。


「リーゼロッテ様。朝のご準備に参りました」

「は、はいっ!」


 リーゼロッテはピシッと背筋を伸ばし、大きな声で返事をする。

 ドアを開けて入ってきたのはアイリスだ。アイリスはリーゼロッテが既に起きて着替えまで済ませていることに不思議そうな顔をした。


「今朝は随分お早いのですね」

「ええ、ちょっと」


 何も疚しいことをしているわけでもないのに後ろめたく感じてしまうのはなぜだろう。アイリスは顔を洗うためのお湯とタオルを用意し終えると、寝室へと向かう。


「あら? リーゼロッテ様、月のものの乱れですか?」

「ち、違うの」

「では、どこかお怪我を?」

「え?」


 アイリスに心配そうに聞かれ、リーゼロッテは口ごもる。


「実は、昨晩旦那様が──」


 その瞬間、アイリスの表情がパッと明るくなる。


「まあ! 旦那様が?」

「ええ」

「ようやく! 長かったですわね。遂に旦那様もリーゼロッテ様の魅力に気づいたに違いありません!」


 アイリスはきゃっきゃと嬉しそうに盛り上がると、ハッとしたような顔をする。


「そうだわ。リーゼロッテ様、お体は辛くないですか?」

「少し足がふらつくけど大丈夫よ」

「初めてなんだから、まだゆっくり寝ていてくださいませ!」


 アイリスはそう言うと、立ち上がりかけたリーゼロッテを無理やりソファーに戻す。


「セドリック様にご報告しないと」

「アイリス?」

「リーゼロッテ様。私、少し外します!」


 アイリスは唖然とするリーゼロッテを残し、軽やかな足取りで部屋を出て行ったのだった。


   ◇ ◇ ◇


 ひゅん、ひゅんと剣を振る音が獣舎の広場に響く。


〈テオ、どうした?〉


 腹に響くような低い声で尋ねられ、テオドールは剣を振る腕を止める。こちらをじっと見つめているのは、テオドールの相棒であるグリフォンのルカードだ。


 通常の幻獣騎士が乗るヒッポグリフは喋ることができないが、ルカードは幻獣の中でも頭がよく聖獣とも呼ばれるグリフォンだからなのか、テオドールの言葉を理解し、さらに自身もしゃべることができた。


「どうしたとは? いつもと同じだが」


〈同じ? 剣捌きに切れがない。本当にそう思っているなら、腕が落ちたんじゃないか?〉

「なかなか言うね」


 テオドールは顔を顰め、ルカードの首をポンポンと叩いた。ルカードはテオドールに鼻を寄せる。


〈初めての女の匂いがする〉

「お前、よくわかるな?」

〈グリフォンの鼻のよさを舐めるな。甘い匂いだな〉


 ルカードはふんと鼻を鳴らすとテオドールを見つめ、探るように目を眇める。

 テオドールは居心地の悪さを感じルカードの隣に腰を下ろした。ルカードは察しがよすぎて、ときどきやりにくい。


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