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ロイド:魔族との対決

「おい、今何しやがった?」

「へっ。話すと思ってんのかよ。だとしたら、とんだ甘ちゃんだな。何をしたのか聞く前に、足りない頭使って自分で考えてみろよ、三下」


 蹴られたのか殴られたのか、腹が痛えって言ってもこちとら身体強化をしてたんだ。ほんのちっとの弱いもんだったけど、単なるガキを吹っ飛ばそうとした程度の攻撃だったら痛みを軽減することができる程度には役に立った。


 だから、喋って油断してた魔族の一人の横っ面を、強化の度合いを強めた状態で突っ込んで殴ってやった。


 殴ったこと自体は他の二人も見てただろうけど、なんで俺がこんなに動き回れて力があるのかってのは不思議だろうな。まさか、俺みたいなガキが身体強化なんてもんができるとは思わねえだろうし。


「……あー、そうかよ。だったらいいわ」


 多分こいつがリーダーなのか? 三人の中で一番偉っそうな態度の魔族が苛立たしげに言い捨てると、突然動き出した。


「聞かねえでそのままぶっ殺す」


 そんで、またさっきみたいにいきなり俺に近づいて、まともに戦う気のない格下に向けるような蹴りを繰り出した。

 けど、その程度でやられるほど弱くはねえんだよ!


「ぐっ! この!」

「あ? 避けた?」


 蹴りを躱して、間抜けにも呆けてる魔族の男の股間を思いっきり殴りつける。

 けど、魔族の男が体を捻ったことで股間じゃなくて腰に当たっちまった。くそっ。今のが決まってれば一撃で沈められたのによお。


「反撃? 雑魚虫の人間如きが……しかもそこらのガキが、俺に反撃だ?」


 魔族の男は俺から反撃されるなんて思ってなかったのか、俺の攻撃が当たった腰に手を当てて呟いてるが、ありゃあ多分頭に来てんだろうな。


「あんまし調子に乗ってんじゃねえぞ。なあおい」

「なっ!?」


 苛立った様子の魔族の男が近くにあった木を殴りつけると、それだけで木はでかい音を出しながら倒れた。なんだよそれ。なんつー力してんだよ。


「……いってぇ〜」

「こんなガキに殴られやがって。こいつは俺がやるから、てめえは肉でもまとめとけ」

「あ? あー、おう。精々そいつと遊んでやってくれや」


俺がぶっ飛ばしたはずの魔族が、頬を押さえながら起き上がったけど、こっちに加わるつもりはないみたいだ。

舐められてることがムカつくけど、ありがたいことに違いはない。こいつら相手に〝ありがたい〟なんて思うこと自体、自分にムカつくけどな。


「お前はそれなりに動けたとしても、もう一人はどうなんだろうなあ?」


 魔族の男がそういながら向いた先では、気持ち悪く笑ってる男の仲間がいた。なんだあいつ。なんであんなキモい笑顔なんだ。


「へへっ、任せろよ」


 キモい魔族はニタニタ笑いながらマリーに向かって突っ込んでいったが……馬鹿にすんなよ。


「何が任せろだ! 気持ち悪いんだよ! あたしに釣り合うくらいいい男になってから出直してこいっての!」

「ぐごっ——!」


 だろうな。その程度でマリーがやられるわけねえだろ。


「バッカでー。やられてんじゃねえのか」

「そっちのガキもか」

「どうだっ! 俺達はお前らなんかに負けやしねえんだよ!」


 こいつもつええのかも知んねえけど、俺たちだってつええんだよ。なんたって、身体強化が使えるんだからな!


「そうか——よっ!」

「っ! くうっ……!」


 なんて思ってると、魔族の男が急に動き出して蹴りを繰り出してきた。

 今度は油断しないで真面目に攻撃してきたからか、その速さも重さもさっきまでよりも全然強い。

 でも、まだ対応できないわけじゃねえ。この程度なら、今の身体強化をしてる俺たちなら反応することも防ぐこともできる。


 ……でも、どうする。このまま戦っても勝てるか? ……実戦じゃ使い物にならねえって言ってたけど、強化を五倍にすれば、いけるか? っつーかそうするしか道はねえだろ。それで戦えるのかって言われたらわかんねえけど、五倍になって一撃で仕留めればなんとかなるはずだ。頭か首か股間に一撃入れる。それで俺たちの勝ちだ。


「これも避けるか。決まりだな。お前ら、身体強化使ってんな? ……どうなってんだ。こんなところに二人揃ってだあ?」


 バレちまったか。でも、どうだっていいさ。ここでお前達を仕留めりゃあ、それで良い話なんだからな。


「へっ! 俺達がただのガキじゃねえってことわかったかよ!」

「……まあ、ただのガキじゃねえってのは認めてやってもいいぜ」


 魔族の男は怠そうにため息を吐き出すと……


「多少は丈夫なガキになっただけだがな」


 急に俺の目の前に現れた。


「あが——」


 違う。急に現れたように見えただけだ。実際には一瞬で移動したんじゃなくて、俺が反応できないくらい早く動いただけで、そのまま俺は蹴り飛ばされたんだ。


「身体強化を使えんのがお前らだけだと思ってんじゃねえよ、クソガキ」


 くそ、痛え……。なんだよこれ。魔族ってのは元々人間よりも強いんだろ。そんな奴らが身体強化を使えるなんて反則だろ。

 何倍だ、これ。二倍か? もしくは三倍? ……流石に五倍なんてのはねえよな?

 なんにしても、元々俺たちじゃ強化してようやくこいつと戦えてたってのに、向こうまで強化されたら届くわけねえ。こいつらが身体強化を使うと、こんなに強くなんのかよ……。


 っつーかなんでこいつらが身体強化なんて使えるんだよ。身体強化なんて、戦王杯に出るような一部の戦士しか使えないすげえ技なんじゃなかったのかよ。


「ここは田舎だが、仮にも最前線だぜ? お前ら人間はただ俺達魔族に飼われてるだけの存在だが、俺たち魔族はこんなところに来るにはそれなりに力がねえとやってらんねえんだわ。身体強化なんてのは、できて当然の技なんだよ。なあおい。自分がイキがってるだけのクソガキだってことがわかったかよ」


 そう言いながら魔族の男は、さっきみたいに消えたように思える速さで動いた。

 けど、今回は警戒してたからか、実際に消えたように見えたわけじゃなく、少しはまともに奴の姿を捉えることができた。


「くっ……」


 後ろに回ってからの蹴りをなんとか防ぐ。でもそのまま防いでるだけじゃやべえ。だから、やるしかねえ。成功するかどうかなんてわかんねえけど、五倍……いや、六倍くらいやらねえと、こいつには奇襲を仕掛けて一撃入れることも——


「甘えよ」

「ぐあっ!」

「そんなチンタラしてて強化させてもらえるわけねえだろ。実戦じゃあ一秒もありゃあお前程度何回だって殺せんだっての」


 ぐっ……! 強化したいのにできねえ。集中しようとしても、その度に体のどっかしらに脚が襲いかかってくる。


「ほら、また強化してみろよ! なあ! 散々イキってたんだ! この程度どうにかできるだけの自信があるんだろ! さっさと足掻いてみろよ三下ァ!」


 ディアスの言ってた通りだ。俺たちなんて、まだまだ弱かった。集中してないと身体強化を使うことができないのに、使うことができたからってだけで調子にのっちまってた。

 けど、後悔したってもうおせえ。どうする。どうする。どうすれば……


「ロイドッ!」

「ほらほら。お前はこっちだぞー。俺がたっぷり遊んでやるからよお。なあ? 楽しみだろぉ?」


 マリーはマリーでキモい魔族の相手をしてるから助けに来られるような状況じゃねえ。

 くそっ。なんで俺はこんなところで丸まってることしかできねえんだよ。本当なら、俺がマリーを助けに行くべき状況だろうが!


 こんな時、ディアスだったら……あいつがいたら、なんとかなるのか? あいつがいたら……


「はっ! てめえらみてえな雑魚種族じゃどう足掻いたって無理なんだよ! 俺達を倒したいってんなら、剣王とかいうやつでも連れてこいよ!」


 魔族の男が俺を蹴りながら叫んだ直後——


「そうか。ならば期待に応えるとしよう」

「——は?」


 俺を蹴っていた魔族の間抜けな声が聞こえたのと同時に、俺を蹴っていた脚が止まった。


「ロイド、マリー。今日は狩りは中止だと伝えたはずだが?」

「あ……ディ、ディアス……」

「その……あたし達……」

「まあいい。説教はあとで時間がある時にしよう。今のお前達は話を聞いているのも辛いだろうからな」


 今の今まで危険を感じてたのに、なんだ? こいつが来ただけでスッゲー安心する。

 さっきまで感じてた危機感なんてもうどこにもねえ。むしろ、ディアスとの約束を破って俺たちだけで獲物を狩ったことに対する説教があるんだって考える余裕すらある。


「てめえなんだよ。そいつらの仲間か?」

「そうだ。私はディアス。この二人の友人で、貴様らを斬る者だ」


 剣王ってのは、きっとこいつみたいなやつのことを言うんだろうな。強くって、そこにいるだけで安心できるようなすげえやつ。


 ……俺も、こいつみたいに強くなりたい。

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