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三下魔族の企み

「チッ! なんっだよクソッタレがよお。なんでここで負けちまうかねえ。情けねえったらねえぜ。仮にも魔族の代表だろうが」


 まじでイラつくぜ。せっかくこんな辺境までやってきて地道に自分の領域を広げてたってのに、まさかたった十年も経たずになくなっちまうなんてよ。くそがっ!


 それもこれも、魔族の代表どもが戦王杯に負けちまったからだ。何だよ、今回は歴代最高のメンバーだとか言ってた奴は。嘘っぱちじゃねえか!


「つっても、ここ最近は勝ったり負けたりしてたから、まあこんなもんだろ」

「ああ? そもそも、そうやって勝ち続けることができねえからこんなことになってんだろうが。魔族代表だってんなら、人間どもくれえドカッとぶっ潰しちまえばいいってのによお」


 人間側の一位と二位を殺したっつっても、負けてちゃ意味ねえだろうが。

 おかげで、これまで築いてきた支配領域を捨てなきゃ難なくなっちまったじゃねえか。


「まあ、そろそろここも潮時じゃねえか? 肉もねえし女もねえ。男どもだって甚振っても諦めた目しか見せねえ。いくらルールの内だっつっても、ここを治めてたやつに目をつけられたらたまったもんじゃねえぞ」

「だなあ。最近はちっとばかしやり過ぎてた感もねえわけじゃねえし、それを考えっと他んところに移るにはちょうどいい機会、ってことなのかねえ」


 ……ちっ! 確かに、仲間が言うようにここは境界の端ってこともあって、かなり使い勝手が悪い。魔族がわの都会から離れてっから食いもんも高えし、自分で獲るにしてもこの辺の森は奥に行くと俺たちじゃやべえ魔物がいる。

 昔は人間の首都だったっつーから、他の辺境よりはちっとはまともな状態かと思ったらそんなことはねえ。昔の人間どもは何考えてこんな場所に首都なんて作ったんだ? こんな場所じゃ、魔族よりも弱っちいあいつらがやってけるわけねえだろうに。それとも、昔はこんな魔物なんざいねえ土地だったのか? わっかんねえけど、どうでも良いわな。重要なのは、今の俺たちが面倒な目に遭ってるってことだ。


「つっても、他んところなんて行ったら遊べる相手がいねえじゃねえか」


 そんな食いもんもまともに手に入らねえ土地だが、それでも俺たちがここに居続けたのは、手軽に遊び相手が手に入るからだ。遊び相手——つまりは人間の女だな。男でもいいが、そっちはぶん殴って殺すくらいしか使い道がねえが、女は他にも使い道があるから攫ってくるのは主にそっちだった。


 だが、それはここが前回まで人間の領域だったからで、これが他の場所だったらそう簡単には手に入らない。


「遊べる相手っつか、遊んでもいい相手、だけどな」

「人間なぁ……あいつらで遊ぶのは楽しいけど、脆いのがなぁ」

「昔いたっつー、剣王くらいのやつだったらいくら遊んでも壊れねえんじゃねえのか?」

「剣王って、あれだろ? 昔の、あー……五、六回くらい連勝したやつ。流石にそいつは無理じゃねえか?」

「ケッ! 剣王なんてたいそうな名前がついてても、所詮は人間だろ? 俺たち魔族が本気出せば余裕だっての。昔は魔法も大して進歩してなかったし、大方昔の奴らが弱過ぎただけだろ」


 昔は今より魔法が発展してなかったらしい。だから人間なんかに……それも、魔法も使えねえ剣士なんかに負けてたんだろ。今じゃぜってえそんなこと起こるわけがねえ。現に、人間だって剣士なんてもんを捨てて魔法で戦うようになってんじゃねえか。


「……あ? ……おい、何見てんだよ。なあ?」


 イラつきながら道を歩いてると、なんか知らねえ男が俺たちのことを睨んでた。なんだ? 何様のつもりだてめえ。


「目えそらしてんじゃねえよ。なあおい。今俺と目があっただろ? しかも睨んでたよなあ。魔族である俺を。お前ら人間如きがよお!」

「な、何をするんだ! 今回の戦王杯は人間が勝ったんだぞ!」

「だからなんだってんだ? ああ? まだあと半年は移住期間が残ってんだろうが。その間に変更になった地域で魔族が何をしようと、お前らにゃあどうにもできねえ。何せ、魔族は魔族の法で裁かれんだからなあ。そんでえ!」


 怯えながら反論してきた人間の腹を思い切り蹴り飛ばす。


「魔族の法に人間を傷つけてはいけません〜、なんつーもんはねえんだよ! おら! クソ雑魚種族の分際で、何調子に乗ってんだ!」


 人間が勝ったからって調子に乗ってんじゃねえぞ! 今回は運良く勝ったみてえだが、そもそも魔族と人間は種族としての性能がちげえんだよ。クソ雑魚格下種族が、俺達魔族を睨んでんじゃねえよオラ!


「ラ・グーラ。その辺にしとかねえと死ぬぞー」

「怪我させんのは問題なくても、死なせたら面倒だろ」

「チッ!」


 教会が変更になった地域では、移住期間中は確かに人間の領土内でも魔族の法律で扱われるが、殺しが面倒なのに違いはねえ。なんか罰されることはねえだろうが、だりいことは避けた方が利口だ。


 んなわけで、この程度で勘弁してやらあ。ありがたく思え、クソ雑魚種族。

 まあ、やめてやる代わりにてめえの店のもんをもらってくが、文句なんてねえだろ?


「マジぃな」

「ならなんで持ってきたんだよ」

「あの雑魚を蹴ってたら腹減ったんだよ。クソが」


 イラつくと腹が減るから持ってきたが、大して美味かねえ。こんなもんを商品として扱ってんじゃねえよ。

 ……はあ。もっとまともな飯が食いてえぜ。


「肉食いてえなぁ。最近食ってねえし、そう言う意味でもここからの撤退はアリだろ」

「肉ねえ……ああそうだ。そういやお前ら知ってるか? なんか、この町で肉が出回ってるみてえだぞ?」

「はあ? そんなもん見てねえぞ」

「どこの店だ?」

「店じゃなくて普通の家らしい。なんか、あー、どの辺だったか道を歩いてたら、肉の焼ける匂いがしてよお。探したんだが店なんてやってなくてちっと調べたんだが、ガキが三人で肉を運んでるのを見つけたんだ。そん時は後ろ盾でもあるんだろうと思って手ェ出さなかったんだが……」

「今話したってこたあ、しょぼい後ろ盾だったのか?」

「それどころか、なーんにもなしだ」


 はあ? 何言ってんだこいつは。この街で、なんの後ろ盾も無しに肉を……いや、食いもんを扱えるわけねえだろ。さっきの男だって、デカくはねえだろうがどっかしらと繋がりがあるはずだ。

 繋がりがなきゃ、いざって時に守ってもらえねえんだから当然っちゃ当然だ。こんなところだと、その〝いざ〟って時は結構な頻度で訪れるもんだろうからな。だから後ろ盾がねえなんてことはねえだろ。


「なんだそれ。そんなことあんのか? そもそもそんなガキ三人で肉なんて獲れんのかよ。……あ、小さな鳥とかそんなんか?」

「いや、もっとでけえ感じのだな。ガキっつっても三人で分けて持つようなサイズだからそれなりの大きさだろ。まあ、罠でも使ってんじゃねえのか?」

「肉かあ。そいつらを襲ったら、大した苦労もなく、金も使わずに肉を食えるってわけだな」


 確かに、ガキっつっても正面から獲物を倒す必要なんてねえよな。罠を仕掛けりゃ、運が良ければ森の浅い部分だろうといくらだって手に入るもんだ。


「ラ・グーラ。どうするよ」

「そろそろ移る必要があるし、最後にでかく遊ぶか」


 そいつらが肉を獲ったのを掻っ攫って、ついでにそのガキどもで遊んでおさらばするとすっか。

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