8.コネコは好奇心で殺されない
結局のところ、自分はいわゆる "好奇心は猫をも殺す" を地でやっているんだろうな…と、霧島は反省していた。
現在、霧島と荒木、それに無郎の三人は知床に向かう列車に乗っている。
「タキオちゃん、スルメ食べる?」
「行楽じゃねェんだぞ。ビールまで飲むな」
窘めたところで、荒木が飲酒をしない訳が無い事も解っている。
霧島は窓の外に目をやり、深く溜息を吐いた。
無郎の言っていた「ラウス」は、北海道の根室にある "羅臼町" の事だった。
父親と住んでいる家は、羅臼町から車で一時間ほどの山の中らしい。
「到着時間は知らせてありますから、町までお兄さんが迎えに来てくれていると思います」
「えっ、コネコちゃん、お兄さんいるの?」
「はい。…実は僕、お父さんを捜しに行く事を、お兄さんには黙っていました。だから、とても怒っているだろうと思ったんです。でも、東京を出る前に電話をしたら、お兄さんは僕の事を心配しているだけで、怒ってはいませんでした」
「電話…? いつしたんだ?」
秘書が水神に指示を仰ぎ、無郎がテコでも動かない事を告げたところで、水神は電話口に無郎を出すように言った。
通話口でも無郎は秘書に対した時と同じように、自分の言い分を決して曲げなかった。
結果として、水神は無郎を引き止める事を断念し、水神の方から正式に、荒木探偵事務所に教授の捜索依頼を出すと言ってきたのだ。
更に無郎が屋敷に戻る事も拒んだために、無郎の自宅である教授の研究室に向かうまでの数日、無郎は荒木探偵事務所で共に過ごし、その間無郎に必要な物は全て水神から手配されてきた。
その数日の間に、無郎が事務所の電話を使った様子は全くなかったので、霧島はそう問うたのだ。
「羽田空港で、荒木さんがお弁当を買っている間に、公衆電話から連絡をしました。家に電話で連絡をする時は、必ず公衆電話を使うようにと言われているので」
奇妙な話だと思ったが、その反面、霧島はこの謎だらけの少年に興味が湧いてしまっている事を、もう否定出来なくなっていた。
元々推理小説が好きで、荒木が探偵事務所の手伝いを申し出てきた時にも、その "探偵" と言う響きに魅了されて引き受けたのは、霧島にとっては一種の黒歴史の一つである。
謎解きのような物を好んでいる性格故に、今回の一件も前述の "猫の好奇心" を反省しているのだ。
今も、必ず公衆電話から連絡をしろと言う指示と、出資者であるはずの水神が、教授の居場所を知らない事を絡めると、教授が意図的に "蒸発" していて、電話履歴の逆探知などから居場所を知られないようにするための対策なのでは? などと考え始めている。
「コネコちゃん、チータラもオイシイよ」
「ありがとうございます。本当だ、美味しいですね」
荒木の声に、霧島はハッとした。
奇妙な無郎の態度に気を取られ、返事をせぬまま数秒の間が出来てしまっていたのだ。
今回ばかりは、この荒木のふざけた態度に助けられたな…と霧島は思った。