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荒木探偵事務所  作者: 琉斗六
事件簿2:山麓大学第一学生寮下着盗難事件
35/36

35.再びコネコが面倒を背負って現れた

「いつから折れてたんだよ。その肋骨」


 事務所のソファを寝椅子代わりにして、荒木は横たわっている。

 霧島は、向かい側で林檎の皮を向きながら、不機嫌を隠しもせずに問うた。

 不機嫌の理由は、単純にして明快。

 荒木が入院先から、逃げてきたからだ。

 駐車場で倒れた荒木を、霧島は目についた救急病院に担ぎ込んだ。

 だが、そういう場所は基本的に救急車で運び込まれた人間以外は、急患として認められない。

 てんやわんやの末に順番待ちをさせられて、ようやく診察してもらったら、医者の診断は「肋骨が折れてますね」だった。

 幸いにして臓器を傷付けてはおらず、一本が折れていて、二本にヒビが入っていた。

 霧島は、久しぶりに事務所の徹底的な大掃除がしたいと思っていたので、これ幸いと水神氏から貰ったばかりの報酬で、荒木を入院させようとしたのだが。

 主治医の顔が好みではない…と言う理由で、荒木がノコノコ帰ってきてしまったのだ。

 掃除どころか、医者から『本来なら絶対安静』と宣言された荒木の面倒まで、増えてしまった。


「たぶん〜、爆風にブッ飛ばされた時にヒビが入ってたと思うなァ。なんか、ず〜んとしてたから。でも、折れたのはタキオちゃんが押したからだと思う」

「ふざけんな、この莫迦。胸苦しさを感じた時点で、医者にかかっとけ」

「うまそー♡ リュウイチ君幸せ♡」

「絶対安静だっつーとろーが!」


 向いたリンゴに伸びた荒木の手を、霧島がすかさず叩く。


「ひどォい。…あれ、誰か来たよ」


 鉄製の扉を叩く音が響き、パタパタとした軽い足音が近づいてきた。


「荒木さん、大丈夫ですか?」


 ヒョッコリと無郎が顔を出した。


「コネコちゃん♡ 来てくれたんだぁ♡」

「どうして、坊ちゃんが…?」

「駐車場で霧島さんが荒木さんを担いでいったのを、水神のお父さんが教えてくれて、ここまで送って下さいました」

「高層ビルで、なんで俺が荒木を担いでいったの、見えるんだよ」

「ヤダなァ、タキオちゃん! 監視カメラに決まってンでしょ! でも、コネコちゃんのお見舞い、嬉しいなァ。てか、インテリ美人さんが車で送ってくれたの? ボクにお見舞い、してくれないのかなァ?」

「帰ったに決まってンだろ」

「ひどいなタキオちゃん。ボクの夢を打ち砕かないでよ」

「解った、解った。でも、よく水神さんが寄越してくれたなぁ、坊ちゃんの事」

「はい。その事ですけど、しばらく霧島さん達のところで『庶民の常識』を身につけて来るように、と言われました」

「「えっ!!」」


 霧島と荒木は、ほぼ同時に全く逆の感情を込めた音声を発した。


「しばらくって、何時まで…?」

「さあ、水神のお父さんが迎えにいらっしゃるまでだそうですが…」

「いやっほー。じゃあ当分コネコちゃんに看病してもらえるんだ♡ ウフフフ…、嬉しいなァ♡」


 霧島は、荒木の台詞に目眩を感じた。

 少なくともそれは室内の暑さの所為だけではない。

 『絶対安静』の荒木の面倒だけでも頭が痛いのに、その荒木の側に『マタタビ』同様の無郎が現れたのだ。

 これから先の事を考えると『頭が痛い』程度ではすまない霧島であった。



*俺と荒木とマッドサイエンティスト:おわり*

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