表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
荒木探偵事務所  作者: 琉斗六
事件簿2:山麓大学第一学生寮下着盗難事件
18/36

18.なぜ俺のバディはこいつなんだろう?

「あれはナイんじゃないのぉ〜? コネコちゃん、タキオちゃんがいないって聞いてから、めっちゃ心配してくれてたんだよ?」

「部屋に引き止めたのは、オマエだろ」

「タキオちゃん、なぁんかコネコちゃんのコト、嫌ってるよね? イイコなのにさぁ」

「イイコかどーかなんざ、今は関係ねェだろう!」

「なんかタキオちゃん、らしくなくない?」

「今はそれどこじゃない、つっとんだろーがっ」

「じゃあどれどこなのよ?」


 無郎を邪険に扱われた事で、荒木は機嫌を損ねているらしい。


「昨日の夜、俺が部屋を抜け出したのは、そこの窓から、屋敷を出て行くアニキを見たからだ」

「ほえ〜、コネコちゃんのオニイサンってば、夜這いとはオツだねぇ」

「真面目に聞けよ」

「ボクちゃんいつだって大真面目だよぉ」


 そういえば、この男は真面目な時もこうだった…と思い出し、霧島はそれだけでも気分がげっそりと萎えた。

 捻挫したために、自分は全く自由に身動きする事が出来ない。

 となれば、荒木に調査を託すしか無い。

 その荒木がこのノリでは…と考えて、うんざりした。


「それで?」


 げんなり顔の霧島に、荒木は先を促すように言った。

 少しは真面目に話を聞くきになったのかと、霧島が顔を上げると…。


「オニイサンのあと、追けて行ったんでしょ? んも〜、タキオちゃんってば、実はムッツリスケベなんだからぁ〜」

「誰がムッツリじゃあっ!」

「きゃー! タキオちゃんが怒ったぁ!」

「あだだだだ…っ!」


 思わず激高した霧島だが、動かした途端に足が痛んだ。


「だめだよぉ、タキオちゃん。怪我人は怪我人らしく安静にしてなくちゃあ」

「いちいち、人の話の腰を折るんじゃねぇよっ!」

「え〜、ボクちゃん、腰に乗るのは大好きだけど、折るのは全然好きじゃないよ?」


 ガッつと、荒木は霧島の肩を掴んだ。

 学生時代にバスケ部に所属していた霧島は、身長が平均よりもずっと高い。

 だがラグビー部所属の荒木は当然というか、肉弾戦を頻繁に行う種目の特性上、筋肉の上に脂肪もある程度乗っている体格をしており、この体勢でのしかかられたら、簡単に押し倒されてしまう。


「ほうら、ほうら、いい子にしてないとリュウイチ君の愛のチッスをかましますよぉ」

「放せ、このド変態ヤロウ!」


 口をタコのように尖らせて、顔面をグイグイ寄せてきた荒木に対して、霧島は渾身の力で抑え込んでいた腕を振り切り、掌底打ちを決めた。


「いっったぁっ! ヒドイよタキオちゃん! 先に暴れだしたのタキオちゃんじゃんかっ!」

「テメェが真面目に話を聞けば、俺だっておとなしく会話出来たちゅーんだよっ!」

「ちゃあんと聞いてたじゃんっ! オニイサンが夜中にお出掛けして、その後ろをタキオちゃんがストーキングしたんでしょ? ロマンチック〜」


 霧島は頭を抱え、深く深く溜息を()いた。

 そして、肺から全ての空気を吐き終わったところで、その間に思っていた様々な葛藤、例えば "なぜ自分はこの男とバディを組んでいるのだろうか?" といった気持ちをリセットして、顔を上げる。


「ここじゃない "もう一つの館" で、なにやらアヤシゲな研究をしてるっぽい。俺はこの足で出掛けられないから、オマエが代わりに探しに行ってくれ」

「ほえ〜、この家の他に、洋館があるんだ。良いよ、コネコちゃん誘って、お散歩しながら探してくる」

「誰にも気付かれないように、一人で、きっちり、探しに行けっ!」

「怪我して動けないからって、怒りっぽすぎるよ〜。ほんじゃま、名探偵サマが直々に調査に出向きますかね。イイコにして、安静にしてるんだよ」


 朗らかに「いってきま〜す」などと行って、荒木は部屋から出ていった。

 が、直ぐにも扉が開く。


「ねえ、タキオちゃん」

「なんだよ。さっさと行けよ」

「だって、誰にもナイショで…ってコトはさ、タキオちゃんにもナイショじゃなきゃ、ダメだったってコトだよね?」

「……………」


 あの長い長い溜息で吐き出し尽くしたはずの怒りが、新たに腹の底から込み上げてくる。


「ふざけんな、このアホンダラっ!」


 霧島は手近にあった枕を掴むと、扉に向かって投げつける。


「わあっ! いってきますっ!」


 枕が扉に到達する前に、荒木はさっさと逃げていなくなる。

 うんざりした顔で、霧島はベッドに仰向けに倒れた。


「あ〜、ちくしょう。頭が低くてイライラする……」


 とはいえ、一晩そのまま放置した捻挫は、熱を持って腫れ上がっている。

 当然、起き上がって枕を拾いに行く事は出来ない。


「クソッ!」


 腹立たしげに掛け布団を被り、霧島は目を閉じた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ