17.それじゃあ俺が悪いみたいじゃないか
無郎は、二人を置いて先に客室に戻っていた。
どうにかこうにか階段を登り、霧島が部屋にたどり着いた時には、客室に備え付けられていたバスタブには、たっぷりと湯が張ってある。
おかげで冷え切った体と強張った関節を、ゆっくりとほぐす事が出来た。
更に湯から上がった霧島の足は、無郎が用意した救急箱で、適切な処置をして貰えたのである。
だが、それでほだされる訳にもいかない。
霧島は、人心地がついたところで、改めて無郎に向かって言った。
「坊っちゃん、色々と手間を掛けて済まなかった。だが、悪いが席を外してくれないか?」
「ちょっとぉ、タキオちゃん。それってあんまり失礼じゃん」
自分でも、この対応はかなり礼を欠いていると思う。
だが無郎の態度が演技である可能性を否定出来ない限り、無郎が同席している場で話をするのは危険だと判断するしか無い。
「仕事の話だ。部外者にいられちゃ困る」
「なにそれ。仕事の話なら構わないじゃないの。コネコちゃん、依頼人なんだからさ」
「まだ話す段階じゃない」
「三人寄れば忍者の知恵って言うじゃん」
「それをゆーなら文殊だ」
「そうそう、それそれ。だから、考える頭は多い方が良いに決まってんのよ」
「俺達の商売は秘密厳守だろーが!」
なんとも緊張感の無い荒木に腹が立って、思わず声を荒げてしまう。
もっとも、霧島が何かに付けて荒木にキレるのはいつもの事なので、怒鳴られた本人はどこ吹く風と言った体だが。
二人のやり取りに、無郎は驚いた。
「あの荒木さん。…僕、出てますね…」
無郎は片付けた救急箱を抱えて、霧島に会釈をするとトボトボと部屋を出て行った。




