15.俺のバディは相棒としてどうなんだ?
しばらくして、霧島は疲れた顔で乾いた木の根に座り込んでいた。
出てきた屋敷に戻るつもりでいたのだが、暗い森の中を歩くうちに、気付けば自分が何処にいるのかわからなくなってしまったのだ。
霧島が目撃したのは、一言で表現するなら "バケモノ" だろう。
正にホラー映画に出てくるような、人間の形を保つ事が難しいような状態のナニカが、意思も目的も無く部屋中をウロウロと動いていた。
枝から落ちた後、自分は冷静でいたつもりだったが、やはりかなり動揺していたようだ。
霧島は、完全に途方に暮れていた。
空には、明るい月がある。
ウェストバッグの中には、懐中電灯も方位磁石も携帯している。
しかし、周囲に目印になるような物が何も無く、館がどっちにあるのかも判らない。
唯一の幸いは、人間の汗の匂いを嗅ぎつけて血を吸うような害虫が、この気温のおかげかほぼいない事かもしれない。
「どうしたもんかね…」
一般的には、遭難したら動かないのが鉄則だが、遭難した事を知らせない状態では、救助は来ない。
やはり、何があってもバディである荒木を叩き起こして連れてくるべきだった。
と思ったが、カンテラのほのかな明かりに照らし出された人物の顔を思い出すと、それが本当に正解なのかは、判らなくなる。
「ありゃ、完全にアニキの方だったよな」
同じ顔をしていても、有郎と無郎ではその佇まいが全く違う。
荒木的な表現をするなら、毒花と無害な花の差…とでもいった感じだ。
「屋敷の研究室はカムフラージュで、こっちのが本物…だとしたら…」
蠢いていた "生きている死体" の記憶を払いのけるために、霧島は意識的に思考を切り替えた。
水神が渡してきた資料には、教授は無機物から有機物を造る研究をしていると書いてあった。
その内容の荒唐無稽を、霧島は頭から信じてはいなかった。
だが、その研究は実在した。
しかしあの "生きている死体" の様子は、無機物から有機物を創造したというよりも、フランケンシュタインの研究成果という方がしっくりくる。
その異様な研究に水神が出資をしているのなら、水神も教授の "共犯" と捉えるべきだ。
もしも水神に、その技術を軍事産業に流用したい…などの目論見があれば、渡された資料に正確な詳細など明記されていないだろう。
「やっぱ、受けなきゃ良かった、こんな仕事…」
ウェストバッグを開いて、中身を眺める。
そこで目に入ったタバコを取り出すと、霧島は火を点けて深く煙を吸い込んだ。
先程は禁煙キャンディで誤魔化したが、事ここに至っては先方に霧島の存在が知られようが知られまいが、どっちでも良い気持ちになっていた。
もし見つかって追われたとしても、逃げる方向すら判らない。
いっそ騒ぎになった方が、荒木が目覚めて野次馬根性丸出しに見に来る可能性があるかもしれない…などと考えながら、霧島は煙を吐き出した。




