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第8話 No Way Out

 ブラジリアン柔術 【Jiu-Jitsu Brasileiro】


 その歴史は100年以上前に遡ると言われる。日本から地球の裏側へと渡った柔道家たちによりブラジルの地へと伝えられた国技・柔道が現地で独自の進化を遂げ生まれた競技である。投げなど立ち技による攻防を極力廃し、寝技の攻防に重きを置いた柔道の姿……それがBJJことブラジリアン柔術である!


 日本の格闘技史を語る上でも、BJJは避けては通る事の出来ぬ存在である。1990年代後半、米国で行われた格闘技大会に一人の男がブラジルからエントリーした。純白の道着を纏ったその男の体格は、お世辞にも強そうには見えない。にも関わらず、彼はヘヴィ級のキックボクサーを始めとする世界各国の強豪たちを次々と破り、トーナメントを制覇した。 決して打ち合わず、寝技 (グラウンド)での締め技 (チョーク)と関節技 (サブミッション) のみを使ってだ。そして、その技は誰しもが見た事も聞いた事もない技術だった。その男曰く、この技術は彼の祖父達が日本から来た柔道家から伝えられた武術『Jiu-Jitsu』であると。更に、彼の兄弟達は彼を上回る達人たちであるとも……


 米国でのトーナメントを制したブラジリアン柔術の名は次第に世界中へと広まる事となる。 日本の格闘技界もBJJ を無視する事は出来なくなり、あらゆる格闘技イベントがブラジルから柔術家を招き、あらゆる格闘家達が彼らに挑んだ。そして、未知の技術に対抗出来ず、敗れ去った。その中にはプロレスラー達も存在し、アトラス星野もそこに名を連ねた。


 2000年代初頭、BJJ が猛威を奮った時代の日本には空前の格闘技ブームが巻き起こる。ボクシング、ムエタイ、相撲、サンボ、そしてプロレス……数ある競技の内、何が、そして誰が最強なのか!?人々は答えを求めた。そして、プロレスは答えを出せなかった。レスリング五輪銀メダリストの星野すら、 キックボクサーの打撃に、柔術家の寝技に勝てなかったのだ。次第に人々はプロレスに対し、「弱い」「所詮はショーである」というイメージを抱き始め、プロレスの人気は未だかつて無いほど低迷したのだ。人呼んで「プロレス冬の時代」。奇しくも星野はプロレスラーとしての全盛期を冬の時代で終える事となった。




 リビングアーマーの鎧を関節技で瞬く間にバラバラにすると、ヒカルは座したまま一息つく。それとほぼ同時にテルの鼠ヒゲが気配を察知する。


「おい、アレ!」


 うつ伏せのままテルが指さした方向・・・対面の通路から5匹のゴブリンが押し寄せて来るではないか。


「いくらゴブリンでも複数相手じゃ無理だ!僕達も闘わなきゃ!!」


 テルと同じく、うつ伏せで背中をトカゲに押さえられたリコが言うが、


「トスター!メレオ!ゲッコ!······ そいつらを押さえておけ!!」


 ヒカルは片膝を突いた体勢のまま、仲間である二足歩行の爬虫類達に命令する。


「あいつ、何言って……ぐげっ!」


 テルとリコの背に、更にトスターが左右それぞれの足を乗せ仁王立ちになる。


「黙って見ておれ!……ヒカル様ー!VAMOLA(バモラ)ですぞー」


『ゲキャァー』


 ゴブリンの群れがヒカルに襲い掛かる。 が、突如逆立ちになったヒカルは両足を振り回しゴブリン達の顔面を滅多打ちにする。 テルとリコはその動きに、一瞬だけ言葉を奪われた。その動きの華麗さは、まるで舞踊の如き芸術性を帯びていた。


「カポエイラ!?」


 その発祥には諸説あるが、手枷をはめられた奴隷達が手を満足に使えない事から足を主体に戦う為に考案されたという説が有力である。


 ヒカルのバックボーンは一つだけではなかった。 BJJ とカポエイラ、ブラジル生まれの異なる二つの武術を駆使する様は、格闘の才に恵まれている証明に他ならない。


「ジウジツもカポエイラも、オレのバックボーンの一つに過ぎない。オレのファイトスタイルは……ルタリーブリだ!」


 ヒカルは最後のゴブリンを、フォーリャという蹴り技で一蹴した。


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