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第4話 パワーホール

 干支乱勢大武繪の開催は、現地時間であとひと月にまで迫っていた。


「ひと月!?」


 テルはウスマとモルモに問う。


「何か問題か?」


「問題だらけだ!見ろこの体を!!」


 テルは両手を広げて自らの肢体をアピールする。


「こんなヒョロヒョロの体で戦えるかよ!」


 現在のテルは身長140cm、体重38kgほど。小柄な女子中学生くらいの体躯である。腕も足も、首もか細く、脂肪も筋肉も日常生活を送る程度の最低限しか付いてない。


「戦いに必要なのは力を生み出す筋肉という武器!そして打撃を受ける脂肪の鎧!鍛えて食って体を作るしかねえ!!」


 テルはその場でスクワットを始める。


「でも、女の子の体ってそう簡単には筋肉が付かないんじゃないですか?」


 モルモの言う様に、哺乳類の体は性別によってホルモンバランスが大いに異なる為、女性は男性に比べ筋肉の肥大が難しい。


「それでも、やらないよりはマシだ!なぁ、この国にジムは無いのか?」


「じむ?」


「ゲッシの国は、ここ『ピカラバ』の街が一番栄えています。ここに無いものはこの国にはありませんよ」


 そもそもゲッシの民は全てネズミである。 彼らには『戦うために体を鍛える』という習慣がまず存在しない。


「なんてこった!ジムどころかダンベルもプロテインもねえなんて!!」


 現代の地球から異世界へと来た者がぶつかる文化の壁に、テルは早くも激突した。


「筋トレが無理ならスパーリング……」


 目の前にいるウスマとモルモ、そして街中を歩いているゲッシの民達を見回すも、みんな二足歩行で服を着てはいるが、身長は1メートルに満たない幼児くらいの大きさで、骨格も地球の齧歯類達とほぼ変わらない事に気付く。


「どこへ行くんじゃ」


 無言で立ち去ろうとするテルにウスマが声をかける。


「ちょっと町の周りでゴブリンと戦ってくる。人型だから技の練習台くらいにはなるだろ」


 テルは転生初日、モンスター達に襲われた時の事を思い出した。


「モンスター相手なら、もっといい場所があるぞい。 ……モルモよ、テルを『力の(パワーホール)』へ連れて行ってやれ」


「ぱ、パワーホールへですか!?」


「何だそのパワーホールってのは」


 ウスマの提案に驚くモルモに対し、テルは怪訝そうに問う。


「パワーホールとは、このパントドンの地中深くに通じる穴であり、この世界の力が湧き出す根源へと続いておるのじゃ」


「中には地上のモンスターとは比べ物にならない強さの魔物達がウヨウヨいるので、我々ゲッシの民の様に弱い存在はまず近寄りません」


 要するに『ダンジョン』的なものか、とテルは解釈した。


「パワーホールは12の国々各国に入口があり、中で繋がっておる。そして、大武繪の開催が近くなると、各国の干支乱勢達は修行を兼ねてそこへ潜る習わしがあるんじゃ」


「って事は、中で俺みたいな干支乱勢とバッティングする可能性もあるわけだな?」


 テルは目を輝かせる。 何故なら喋るネズミ以外の相手……それも自分と同じ、地球から来た人間と会えるかもしれないのだから。


「そこが一番の問題なんですよ。テルさん、パワーホールの中で他国の干支乱勢と出くわしても、絶対に手を出さないで下さいね?」


「なんで?」


「……大会前における干支乱勢同士の非公式試合は規定違反により失格となるからじゃあ!!」


 と、ウスマは干支乱勢大武繪のルールブックを開き該当項目のページをテルに見せる。因みにバントドンの言語で更にゲッシ語に翻訳されているので、テルにはその文字を解読できない。


「不戦敗か。それだけは避けてえな」


 テルは残念そうにつぶやく。いくら彼女が闘いに飢えていても、ただの野試合で公式戦どころか生き返りのチャンスすら無駄にするわけにはいかない。


「わかった。中で他の干支乱勢に会っても、干渉はしねえよ。だからそのパワーホールって所へ連れて行ってくれ!」


 テルは拝むような仕草と同時にウスマとモルモへ頭を下げる。


「わかりました。パワーホールには、各国の民は4人まで入れますので、頭数を揃えてきますね」


 モルモは部屋を出て、共に迷宮へと潜る仲間を呼びに行く。

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