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第2話 Fantastic City

 時は来た。


 彷徨いし魂よ、現世に未練を残し、死せる者たちよ。 その願い、叶えたくば、闘え。 やり直したくば、戦え。


  満たされぬ渇きと燃える闘志を以てこの地へ集え。


 己の誇りと爪牙をぶつけ合い、掴み取れ、栄冠を。


 汝らの名は干支乱勢えとらんぜ


 闘いのさだめから逃れられぬ12人の獣なり。





 星野は全く知らない地を疾走していた。目が覚めると、煉瓦造りの神殿の様な場所にいた。状況を把握しようにも、そこにただ独り。誰に聞く事も出来ない以上、彼は神殿の外へ出るほか無かった。そして、なぜ走っているかと言うと……


「げぇっ!また出やがった!!」


 彼の目の前に立ちはだかったのは、緑色の体色に不細工な顔をした猿のような生き物。 それは、星野が学生時代にファミコンで遊んだゲームによく出てきた雑魚モンスター『ゴブリン』そのものだった。


「ゲキャー!」


 ゴブリンは不細工な顔を更に歪ませ、星野へと飛び掛かる。


「うるせー!」


 隙だらけで飛び掛かってきたゴブリンの顔面に、星野はトラースキックを叩き込んだ。湾曲した鼻をへし折られて悶絶するゴブリン。星野はゴブリンの上半身を強引に前へ屈ませると、上から腹に両腕を回して保持し、抱え上げた。逆さ吊り状態になったゴブリンは暴れるも、星野はかまわず跳躍し、ゴブリンの頭を両腿で挟む。


「オラァーッ!!」


 跳躍の落下エネルギーを利用し、腿で挟んだゴブリンの頭を地面に叩きつける。『脳天杭打ち』こと『パイルドライバー』だ。ゴブリンは頭部および頸部に受けた衝撃から動かなくなった。体を鍛えぬいたプロレスラーですら受けを間違えば大怪我をし、時には死に至る……それがプロレス技なのだ。

 本日遭遇したゴブリンはこれで3体目。一体目はチョークスリーパー、2体目はインディアンデスロックで先ほどと同じように戦闘不能にした。


「ちくしょう、夢なら早く醒めてくれよ……」


 星野は目が覚めるまで、東京ドームでプロレスの試合をしていたはずである。しかし、3カウントを聞いて気を失った以降の記憶が無い。あのまま眠ってしまい、今は夢を見ているのだ……そうでもなければこの状況に説明が付かない。


 ゴブリンを倒し、どことも知れぬ道を進む星野。その時だった。レスリングシューズを履いた足の裏に違和感を覚える。


「ゲェーッ!?」


 彼が踏んでいたのはゼリー状の半透明な物体。それはただの液体ではなかった。不気味な眼球が一つ、液状の体に漂う生命体。


「スライム!!」




 スライムに遭遇し、戦闘になった星野を小高い岩の上から見つめる2つの人影があった。


「よろしかったのですか?あの者をほったらかしにして」


 眼鏡をかけた女が問う。


「構わん。これは試験 (テスト) じゃ。ゴブリンやスライムごときに負ける様な奴では『大武繪』を勝ち抜く事など出来ん」


 問われた老人は答える。


「では、あの者が魔物に殺されでもしたら……」


「……此度は棄権じゃ。 次の100年後までな!」


 二人の会話などつゆ知らず、 星野は戦っていた。


「このやろう!!」


 直径60センチの球体に近いスライムに対し、星野のローキックが叩き込まれる。が、


「クソッ! 全然効いてねえ!!」


 スライムの体はまるでウォーターベッドの様に打撃を吸収してしまう。


『ビギー!』


 半液体状の体をした敵は跳ねるように体当たりでぶつかって来る。


「痛ぇっ!!」


 蹴った時とは違い、体を高質化させての体当たりはまるで逆水平チョップの如く星野の胸を打った。


「……ん?」


 星野は、自らの体に起きていた異変に気付く。試合中は黒パンー丁だったはずなのに、何故か今はアマレスのシングレットに似た服を着ている。そして、攻撃を食らった胸板は、はちきれんばかりの大胸筋が盛り上がっていたはずなのに、今の体はその見る影もなく薄く弱々しい。


『ビギギーー』


 そうこうしている内に、スライムは再度体当たりを仕掛けてきた。


「二度も同じ手を食うかコノヤロー!!」


 星野は両手でスライムの突進を受け止め、そして……


「おりゃぁ~!!」


 スライムを抱え込んだまま、ブリッジをするように背を反らし、抱えたスライムを地面に叩き着けた。フロント・スープレックスである。

 打撃やサブミッションによる【点】での攻撃が効かないスライムは、投げ技による【面】での攻撃には弱かったらしく、水分が破裂するように飛び散った。転がったスライムの眼球を星野は踏み潰す。


「ゴブリンにスライム……俺は《《ファイファン》》の世界にでも来ちまったのか?50にもなってどんな夢だこれは!!」


 苛立ちの限界が来たのか、星野は大声で叫ぶ。


「夢ではない……」


 ふと、背後の茂みから老人らしき声が聞こえる。


「合格じゃ。我らがゲッシ の『エトランゼ』よ」


「誰だ……ウワーっ!?」


 星野が声の主を見て、驚く。その正体は、灰色の体毛に覆われ、丸い耳と尖った前歯をした二足歩行の獣だった。


「スライムの次は喋るネズミのバケモノか!?」


 構える星野。


「誰がバケモノじゃ!!!」


「すみません、我々は敵じゃあないんです。まず話を聞いてください!」


 老ネズミの後ろから、眼鏡をかけた雌のネズミが現れる。 星野は彼女の言う通り、まず話を聞く事にした。

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