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第27話 スカイ・ハイ

─相撲。

 それは二人の戦士が裸でぶつかり合う競技である。

 日本では元々神への祈りを捧げる行事であったが、江戸時代に競技・興行として大相撲が生まれ現在に至る。

 そして、モンゴルの 「ブフ」や朝鮮半島の「シムル」など、服装やルールなどが似ている競技をモンゴル相撲や韓国相撲などと呼ぶが、日本の相撲とはルーツ等を共にするわけではない。

 しかし、モンゴル相撲ことブフの猛者達はその力と才能を活かし、日本へ渡り大相撲の力士となる者達が数多く居る。横綱旭宝山(きょくほうざん)ことブャンバスレン・グルジャルガル、現在のアサヒもその内の一人だ。

 さて、大相撲は我々日本人に最も馴染みの深い武術・格闘技ではないだろうか。 テレビ放送がなされ、髷を結ったマワシ一丁の大男という勇ましくもコミカルな存在が、両足以外を土俵に着くか土俵の外に出れば負け、というシンプルなルールの下で闘うのだ。 詳しくなくとも日本人なら誰もが知る競技、それが相撲である。


『ニホンというのはテル選手の出身地でしたが、彼の国ではプロレスよりも人気なのですね』


『日本のプロレスや総合格闘技には、元力士の人も結構いるんだよ。なんせ、大相撲の力士は“強い”から……』


 リング上ではリコとアサヒの闘いが仕切り直される。アサヒの突進「ぶちかまし」に対し、リコはティヘラを合わせる。

 リコの両足で頭部を挟まれたアサヒは投げられる寸前で側転を行い、それを回避した。

 リコは転がってアサヒから距離を取るも、アサヒは走って迫る。追い付く否や顔面を踏みつけようとする。

 が、その足をリコは捉えて瞬く間に関節技「カベルナリオ」の体勢へ持ち込も うとするが、アサヒはブレイクダンスでもするかの様にするりと抜け、立ち上がる。


「こいつ……スモウレスラーのくせに何て俊敏なんだ!」



『それがアサヒの強みなんだよねー』


 武術・格闘技の最強議論で上位に挙がりがちなのが「相撲」である。力士と他の格闘家の大きな違いは、「体格差」にあるのだ。

 厳しい稽古の末に鍛えられた筋肉の上に脂肪の装甲を纏ったその巨躯は、多少の衝撃をものともせず、張り手の一撃はキャノン砲の如し。喩えるならば戦車。それが力士の強さたる所以である。

 しかし、リング上のアサヒは身長140cm、体重48kgほどの矮躯をした少女の姿である。力士の強さを象徴する巨躯とは似ても似つかない。


『馬って生き物はね、とてもパワフルなんだ』


 午の干支乱勢であるアサヒに備わった能力も、「馬」に由来する。それは、単純且つ圧倒的な「筋力」。野を駆け、時には人を載せ、荷を引く馬の働きぶりはエンジン等の単位 「馬力」 の由来になる程である。


『つまりアサヒ選手は、干支乱勢の小さな体に馬のパワーと力士の技量を備えていると……?』


『持久力もだね。カニスほどじゃないけど強化されてるよ』


 力士の欠点を敢えて上げるならば、その巨体が故の重鈍さと、相撲という短期決戦型の競技から来る持久力の短さである。しかしアサヒは軽快な体に馬の筋力と持久力を持ち、カ士の弱点を克服した存在へと生まれ変わったのだ。


「こげな細か女子おなごの姿になった時はどげんするか思うたが、ばってんアタリの能力を引いたもんでゴワス!!」


 アサヒはリコの首を掴み、持ち上げる。


『チョークスラム!!』


 別名、喉輪落とし。元は相撲の技である喉輪を力士出身のレスラーが改良したプロレス技。


「どすこい!!」


 片手で抱え上げたリコの体を、アサヒはリングへ叩き付けた。


 (ウーヌム)

 (ドゥオ)

 (トリア)


審判ゴーレムはリコに対しダウンカウントを取り始めた。


Tranquilo(トランキーロ)!!」


 そう叫ぶと、リコは跳ねる様に立ち上がった。


「リングに叩き付けられるのは慣れてるんでね」


そして、次はこちらの番だとでも言わんばかりに走り出す。

 接近し、 アサヒの頭部めがけてドロップキックを狙うも当のアサヒはサイドステッブで回避。


「甘いぜ!」


 リコは空中で素早く横に回転し、両足首の辺りでアサヒの首を挟む。 そして今度こそティヘラを炸裂させた。


『なんとリコ選手、空中で静止するかの如き滞空を見せ、素早く枝を切り替えました!!』


『あれがハルコンの干支乱勢に与えられた能力。空を飛んだりは無理でも、空中での動きが俊敏になるんだよ』


『仕合開始後間もなく、アサヒの張り手で吹っ飛んだリコ選手が空中で体勢を立て直したのも、この能力のお陰なのですね!』


 酉の干支乱勢は鳥類が持つ鳥類の特性、それは遠距離を見る視力と三半規管の強化により、落下時における感覚の鋭敏化である。空中殺法の使い手であるリコにとって、最も適した特性と言えるだろう。

 素早く立ち上がるアサヒ。リコに組み付こうとするその両手首を、組まれるより早くリコは掴んでいた。


「そして、僕は君の弱点が解ったぞ!!」


 リコはその場で跳躍し、交差させた両足の脛、足首、足の甲部分をアサヒの首へと掛け、尻餅を着くように引き倒した。


「あれは……イタリアン・ストレッチ No.32!!」


 仕合を見ていたテルが思わず叫んだその技名は、名前にイタリアとあるが考えたのは日本人レスラーである。

 頭部を絞めつつ両肘を極めるのが、この関節技の効果だ。


「スモウには関節技や絞め技の決まり手ほぼ存在しないだろう。そして、ルチャは飛び回るだけじゃない、関節技ジャベも僕達ルチャドールが代々引き継いだ技術だぜ!!」


 転生前、リコことスペル・リンピオ最後の対戦相手となったルチャドール、ドクトル・ゾンビ。その好敵手もこの技の名手であった。彼から食らい学習ラーニングしたイタリアン・ストレッチ No.32 が、現時点で最大の敵であるアサヒの首と両肘を攻める。


「……アサヒ、失神並びに両肘の脱臼を確認。勝者、リコ!!」


 審判ゴーレムの宣告ののち、決着のゴングが鳴らされるとリコはジャベを解く。

 アサヒは降参する事なく最後まで戦い抜いた。それは彼が日蒙両相撲の横綱であるが故の誇りから来るものに他ならなかった。


「グラシアス、アミーゴ!」


 仔馬へと姿を変えたアサヒに背を向け、リコはリングを後にした。

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