序章❲龍地球創世神話❳
太古の昔、宇宙空間を飛来する巨大な龍が存在した。
龍の大きさは宇宙に浮かぶ数々の星のように巨大であった。
その巨大過ぎる龍にも寿命があり、龍の飛来の目的は、自らの死地を求める理由であった。
龍は生命が誕生したばかりの水の星を見つけ、最後の魔力を使い、星を二つにした。
二つにしたと言っても、同じ場所、同じ空間が重なった世界二つで一つの星(例えるならばコインの表と裏、一つの身体に二つの性格を持つような感じと思えば解りやすいかもしれない)
一つの世界は陸地が存在し、もう一つの世界には水しかなく、龍は水だけの星を選び、その星を死地とし降りた。
水の星ヘ身を沈めると同時に龍は、永劫と呼べる程の長い生命を終えた。
龍の巨大な屍は幾千の昼夜を越え、やがて大地となった。
更に幾千の昼夜を越え、大地は五つに分かれ、五つの大地は大陸へと変わった。
更に幾千の昼夜が過ぎ、様々な生命が誕生し、生命が知恵を身に付け、文明が開化した。
後に知恵のある者達は、この星の名をこう呼び、未来永劫、浸透するようになった。
この星の名はーーー
龍地球と呼ばれた。
「……………おい!ジジイじゃなかった!王さんよ!こんな説明じゃ解りにくいだろ!見ろ、子供達を!みんなポカーンと口を開けてんじゃねぇか!」
「コラッ!那賀く……、那賀先生!国王様になんて事を!」
天井、壁がステンドグラスのような細工をされた広い空間で、黒い長髪の青年が、壮年の男性に叱ると、青年の横に立つ女性が慌てて制止する。
煌びやかな衣装を着し、その衣装に隠れてはいるが、中々の筋肉粒々の体格をした壮年の男性は、赤面し、今にでも切れそうなオーラを醸し出している。この壮年の男性はルイ・ディザー・アールド。
この場所は、とある王国の城の中であり、ルイ・ディザー・アールドが住まう場所である。
ルイ・ディザー・アールドはこの王国を背負う国王であった。
ちなみに、国王はこの王国で一番、偉くて最高の地位を持つ者であり、その国王に歯向かう、反逆等の害をなす者は逮捕、最悪は処刑されても仕方ない行為である。
その行為が今し方、行われたのだ。
国王に向かって暴言を吐く愚かな男が……
女性は慌てた表情で周りを見渡すと、数十人の幼子が座りながら男性と国王をポカーンと見つめ、更に壁際の数十人の鋼鉄の機械の防具を羽織った兵達が、銃や剣、槍等といった武器を長髪男に向かって構えている。
兵や側近達は、長髪男を憎々しげに睨んでいたが、長髪男は希にした表情を見せずに女性に話しかけた。
「だってよ、俺でも解りにくい説明だったぜ。弥生さんよ」
「もう、キミは喋るな!申し訳ありません、国王様!このバカはあとでワタシがシバきますゆえ……」
弥生と呼ばれた女性は国王ルイに深々と頭を下げると、国王ルイの赤面した顔が次第に元の色に戻っていく。
「まあ良い良い。ここには余の可愛い可愛い孫達も居るしな。事は荒立てんよ」
ルイはそう答えると、身構える兵を手で鎮め、更に屈託のない笑顔で近くに座る孫娘の頭に手を置いた。
「へっ、孫バカジジイが……」
長髪男がケチを付けると、すかさず兵達が更に身構え、弥生が男性の脛を蹴り鎮めた。
「否定はせぬぞ!那賀龍神……、余にはこの大事な孫娘のキャルが、否、横に居るアストやパラガスにピット、エリア、ミレアそれにこの場に居る他の児童達を余は可愛く思っておる」
国王ルイは長髪男の名を呼び、幼子達の頭を撫でていく。
那賀龍神は国王の言葉に口元を緩め、弥生に向かって無言で頷くと弥生も笑顔で頷いた。
「じいちゃん!今のじいちゃんの話し解んなかったけど、オレもじいちゃんが好き!」
「ずるいぞ!希跡!じいちゃんを好きなのはボクだからな!」
「アストなんかには負けねぇよ!勉強も戦いも、全てにおいてな!」
幼い男子二人が立ち上がり言い合う姿を見ながら、国王ルイは豪快に笑い出した。
「よしよし、では希跡にアストよ!お前達は将来、余を守る最強の英雄か勇者になってみるか?」
国王ルイは希跡少年とアスト少年の頭を撫でて、からかうように言うと二人の少年が力強く頷いた。
「勇者か~、オレは勇者になる!」
「英雄か~、ボクが英雄になってキャルと結婚する~」
アストの一言に国王ルイが一瞬、額に青筋を立てた。
「ずるいぞ!おいら達も勇者や英雄になってやるんだから!」
「そうだ!」
黙って聞いていた他の児童達も騒ぎ出した。
その光景を目にしていた那賀龍神は、大笑いを見せていた。
「いいぞ!それでこそ、お前達は俺の生徒達だ!夢はデッカく持て!」
「たまには良い事を言うではないか?那賀龍神」
那賀龍神の言葉に国王ルイも大笑いする。
「お前達はきっとなれる!何せお前達は地球を股がける者、アースストライダーなのだからな!」
これはアースストライダー(地球を股がける者)の物語。
これは那賀龍神を巡る物語。
これはアストが英雄を目指す物語。
これは三十人の少年少女達が地球を護る物語。
これは希跡が…………
そして十年の昼夜が過ぎるーーーー