序章 ❲幼子転移❳
真っ白な壁、様々な光を放つ精密機械が並ぶ大きな一室。
何処かの研究所のようである。
研究所のようと感じる理由は、十数人の男女全員が同じ白衣を着しているからである。
「隊長、時間です」
一人の成人女性が、四十半ばの白衣の男性に発言すると、隊長と呼ばれた男性は無言で頷いた。
「今回は五歳と四歳の兄妹と聞いたが、何故、この年齢になるまで気付かなかったのだ?」
「それが……」
「しかも、兄妹で、更に言えばランクもかなりの上位らしいではないか?お前達の怠慢が地球を崩壊するのかもしれないのだぞ!」
隊長は弁解しようとする女性の言葉を遮り、この室内にいる全ての者達に叱責する。
「……大袈裟だな、おっさん」
黙りする白衣の男女の中、一人の男が隊長を貶すように発言した。
黒い長髪を束ねた高身長の二十代半ばの男は、辺りの機械を見渡し、室内の中心にあるカプセルのような場所を見ながら隊長に近づく。
「貴様は相変わらず、口が悪いな。那賀龍神……」
隊長は男の名前を呼び苦笑いする。
「口が悪いのはお互いさんだろ?セレケのおっさん。まあ、それはそうと、これから来る兄妹……」
那賀龍神はセレケと呼んだ隊長の肩を軽く叩き、カプセル部を見つめた。
カプセル内部が光り始める。
「隊長、転移開始です!」
「全員、油断するな!」
「おお、来るか!」
セレケを始めとする白衣の男女が構える。中には銃や歪な剣や刀を握りしめる者もいる。
那賀龍神だけ、不適な笑みを浮かべカプセルの内部が再骨頂に輝いた。
「いらっしゃい、未室兄妹……」
輝きが一瞬で消えると、カプセルの内部に二人の幼子が手を握り気を失っていた。
「……成功、だ」
セレケが二人の幼子を確認し、安堵し、すぐに白衣の男女達に指示をする。
「目覚める前に、すぐに母なる地球の記憶を封じ込めるのだ!」
「やること酷いねぇ……」
「仕方ないだろ!暴走したらそれこそ始末しなければならないのだ!その為に貴様を呼んだのだ!那賀龍神!」
那賀龍神の言葉に、セレケは真剣に怒鳴る。
「……確かに、いや、失言だった。わりぃ、おっさん」
那賀龍神は素直にセレケに謝罪をし、手を握りあう兄妹を離し、迅速に対応する男女達を見つめる。
「兄の未室希跡……、妹の未室愛亜……」
室内から別々に搬送される兄妹の名を口ずさみながら、那賀龍神はセレケから離れた。
「龍地球ヘ召還されたお前達を、俺は見捨てはしない……」
那賀龍神はそう呟き、研究所のような場を後にした。