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第83話 春のイベント

 最近すっかり季節ごとの新作スイーツがうちの恒例となっていて、来てくれるお客さん達はそれを楽しみにしてくれている。

 南官舎に引っ越してきたカムラールさんの家族とセイムスさんの家族には小さい子供達がいて、その子達もうちのスイーツがお気に入りらしい。

 この間も、早く次のお菓子も作ってねと言われてしまった。

 お子様に期待されるのも、なかなか気分がいい。


 母さんに相談しながら、新作を考える。

「うーん……ふわふわの焼き菓子もいいんだけど……そろそろ別の趣向もいいんじゃないかと思うんだよね」

「タクトは何か考えてるのかい?」

「小豆が手に入るようになったから、これを使いたいんだ」


 そう、今まで市場で手に入る小豆は南の方で育ったものばかりで、正直あんまり甘みがなく渋みが強くて美味しくなかった。

 しかも小豆は連作ができないせいか人気がなくて、作っている農家がイスグロリエストにはほぼなかったのだ。

 しかし!

 試しにシュリィイーレの西側で少しだけ作ってもらったら、これが滅茶苦茶美味しかったのである。


 なのでその畑はうちの専属買い取り契約で、小豆→ジャガイモ→小麦→ビーツそしてまた小豆……というように輪作で作ってもらっている。

 去年はもう一区画、畑を増やして同じように輪作を始めたのだ。

 両方で同じ物を作らず、一年ずらすことで、小豆も他の野菜と小麦も少し多く手に入るようになってきている。

 もちろん、畑の方はたまに見に行ってちょっと手伝うくらいで、基本は農家の方に任せている。

 プロの方が、絶対にいいものができるからね。


 今年は二回目の小豆の収穫があったので、あんこを沢山作ろうとしているのだ。

「おまんじゅうか……どら焼き? いや、いっそあんこ玉とか……」

 うーん、ピンと来ないなー。

 新しいお菓子で、春祭りに店頭売りをしたい。


「まだ肌寒いから、温かいお菓子がいいねぇ」

 母さんからそんな言葉を聞いて、やっぱり温かいのならあんこものは悪くないと思ったが、温かくて冷めても美味しいもの……というと。

 ……よし。

 ちょっと冒険してみよう!


「思いついたものがあるんだ。作ってみる!」

「あら、楽しみだねぇ」


 そして、俺は父さんと相談してこの菓子を作るための道具を作製するところから始めた。

 練習したいから早めに作らなくては!



 春の祭りは碧の森と錆山を開くため、安全と感謝を神に祈る祭りである。

 この頃が暦的にも新年なので、祭りは今年一年の豊穣を願う祭りでもあるのだ。

 朝の祈りの時間が終わると、秋の収穫祭より早めに町が賑わい出す。

 屋台と出店が沢山並び、冬の間に家の中で作った品などを売るのである。


 うちの食堂の前にはでかいテーブルが置かれ、その上に菓子を作る器具を設置した。

 そう!

 今年は、実演販売である!

 できあがりを売るだけではなく、できあがる課程をご覧いただくことによって、購買意欲と食欲を煽るのである!

 更に『できたて』という付加価値。


 そして、あんこものスイーツの実演販売と言えば!

 今川焼きなのである!

 大判焼き・御座候・回転焼き・おやき・太鼓焼き……などなど、数々の呼び名があった人気あんこスイーツ。

 俺的には今川焼きがしっくり来るのだが、『今川』とか『大判』が説明できないので、とりあえず『餡入焼き』と呼ぶことにした。


 父さんと作ったこの焼き機も、自信作である。

 日本では実演販売が大好きで行くと必ず見続けてしまっていたおかげで、器具の形も仕様もかなり細部まで覚えている。


 火を使うと危ないし加減が難しいので、丸く窪んだ部分だけがいい焼き加減の温度で保たれるように魔法を付与してある安全設計なのだ。

 焼き方もバッチリ練習して、父さんと母さんには合格点をもらっているのである。


 そして客が来る前から焼き始め、あんこを入れる頃にちらほらと人が集まり始めて俺の作業をじっと見ている。

 ぱん、と左右の焼き機を合わせて、別々に焼いていたふたつが重なると、おおー、と声が聞こえた。

 ふふふふ……食いついてきているぞ。


「さあ、焼きたての温かい『餡入焼き』ですよ! 歩きながらでも食べられるけど、熱いから気をつけてね!」


 実演販売は大盛況になった。

 焼いても焼いてもすぐに売り切れてしまうので、俺も手伝ってくれた父さんも汗だくで焼き続けた。

 楽しいけど、すっげ疲れる。


 祭りならではのイベントなので、前を陣取ったカムラールさんのふたりの息子達とセイムスさんの長男と次女はかぶりつきでずっと見続けている。

 見ちゃうよね、こういうの。

 子供だったら尚更だよね。



 そして材料がすっかりなくなったのは、そろそろ陽が傾きかけた頃。

 疲れた……

 五時間以上ぶっ続けになるとは……まぁ、大人気は予想していましたけどね。


「お疲れ様、父さん……はい、水」

「お、おう……こんなに滅茶苦茶売れるとは思わなかったぜ。何度か買いに来たやつもいたなぁ」

「そうだっけ? 俺、買ってくれた人の顔、ろくに見てなかったよ」

「はははは、無理もねぇや」


 まだ小豆は残っているから、これからも食堂のスイーツタイムで使ってもらおう。

 今川焼き……じゃない、餡入焼きもたまーにつくろっかな。

 でも実演販売は、暫く止めておこう。

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