70.5 ビィクティアムとファイラス
「お騒がせいたしました、長官」
「もう具合は良いのか、ファイラス?」
「はい、あの痛みが嘘のようですよ。一過性の毒で助かりました……」
「商人達はどうしている?」
「五人ほど毒を吸い込んでしまった者がいたようですが、彼等ももう大丈夫です」
「渡す先は、やはり神官だったか?」
「いえ、私が聞き出したのは……薬師組合の組合長です。もう捕らえられましたので、もうすぐ連行されてきますよ」
「はぁ……司祭と、神官と、組合長と……うちのバカか……」
「前長官は、とことんバカでしたねぇ。横領だけならまだしも、この計画にまで荷担していたんじゃ……王都に送りますか?」
「罪人をわざわざ皇王の御前に送ってどうする。ここで処分して、事後報告だ」
「はい、了解です」
「なんでのんびりできるかと思った赴任先で、こんな面倒に巻き込まれるんだ……」
「どこに行っても、有能な人間は忙しいものです」
「おまえに全部やらせるから、覚悟しろよ?」
「僕にやらせると絶対に手を抜きますけど、いいですか?」
「安心しろ。監視はつけてやる」
「ええぇ……お菓子の時間だけは、死守しますからね」
「ライリクスに恨まれるぞ。なんだってここの衛兵達は、皆甘いもの好きばかりなんだか……」
「美味しい店が多いですからね。でも、最近の一番はやっぱり、タクトくんとミアレッラさんの焼き菓子ですね」
「昼飯も旨かったな、そう言えば」
「……タクトくんの出身国は、全く情報がありませんでした」
「そうか。貴族の文官であるおまえの家系なら、何か手がかりがあるかと思ったが」
「うちはしがない傍流貴族ですよ。長官の家系の方が、よっぽど情報量は多いでしょうに」
「あまり知られたくないんだよ。俺が不用意に動くと目立つ」
「それにしても凄い家系だったんですね、きっと。南の国で魚を自由に捕れる方とお知り合いなんて」
「交易もそうだが、医療の知識があそこまであるとは驚いた」
「そうですね……毒についてあんなに詳細に……皇家の御殿医だって、なかなか持っていない知識量です」
「薬のない毒だということも解っていた。しかも対処法まで。あんな知識は普通、必要ないだろ?」
「毒殺の危険があった……って事なのかも知れませんね。あの毒を十日で治せる程医療が進んだ国でありながら、その知識が子供まで必要だったということでしょうか」
「彼の周りは、なるべく警戒しておけ」
「了解です。毎日必ず様子を見に行きます」
「おまえ……菓子を食べに行きたいだけじゃないだろうな?」
「……」




