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カリグラファーの美文字異世界生活   〜コレクションと文字魔法で日常生活無双?〜  作者: 磯風
第二章 慣れてくるといろいろあるものです
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第70話 取りあえず、解決

 さて、そろそろビィクティアムさんの昼食も終わるし、混雑もなくなってきたので出かける用意を……と支度し始めた時。

「ここで印、入れてくれるって聞いたんだけど」

 食堂に入ってきていきなりそう言った男性は、いくつかのケースペンダントをじゃらじゃらさせている。

 誰だ?

 こいつ。


 取り合わないのが一番だな。

「……ここは食堂だよ。どっかの鍛冶師工房と、間違えてないかい?」

「ここの食堂にいる奴が作ったもんなんだよ、これは!」

「そんなもの作った奴は、ここにはいないよ」


 男はそんなバカな……みたいな顔をして辺りを見回す。

 お客さん達は、黙って男を睨んでいるだけだ。

 突然、男はびくっとして、そそくさと出て行った。


 ああー、衛兵隊長官殿と目が合っちゃいましたか。

 そりゃあ、しっぽを巻いて逃げ出すよねぇ。


 製作者の情報も知らないで乗り込んでくるとか、バカの極みだ。

 しかも持っていたケースの意匠は、あまりに雑で酷いものだった。

「偽物ってあれかぁ……」


 クオリティが低すぎて、腹が立つというより呆れ果てる。

「よく偽物と判ったな?」

「判りますよ。鎖と台座の金属部分は全部俺が作っているんだし、石細工も全て目を通してから、魔法付与で仕上げているんですから」

「……凄いな、全部か? 結構な数だろうに」


 ビィクティアムさんが驚いているが、一日十個で魔法自体が小さいものだからね。

 ……たまに十個以上、有るけどね。

「それに、俺が作った原型で印がない物はもうひとつもないですよ。全部付与が終わっていますから、印のない物は全て、俺の作った品ではありません」


 貼っていたお知らせの羊皮紙を剝がす。

 俺がいない間に今みたいな不埒者が現れても、取り合う必要はないって父さんと母さんにも伝えておかなくちゃ。




 衛兵隊詰め所地下の一室で、あの毒と薬の組成を調べる。

 粉とか飛んだりするとまずいし、吸い込んでも大丈夫だけど吸い込みたくない。

 でもここで、防塵マスクとかは出せない。

 俺は持っていた鞄から出す振りをして、コレクションから硅砂の粉と和紙を取り出した。


 硅砂で両手が入る穴を作った硝子ケースを作り上げる。

 ゴムとかラテックスはないので、放射線状に切れ目を入れた和紙を穴に貼る。

 組成分解の指示を書いた紙二枚を中に入れ、それぞれ上に毒ともうひとつの粉を置いた。


 先ずは、毒の方だ。

「……分かれない、ですね……? これって、合成物じゃないみたいです」

 人工的に作った物ではなく、自然のものを抽出して粉状にしただけっぽい。


「作られた毒でないというのか……? では一体、何の毒なんだ?」

「この毒はおそらく、この皇国のものではないのでしょう。関節や筋肉に毒性がある……ということが解った程度でしたから」

 ビィクティアムさんとライリクスさんは、視えてはいても知らない物だから特定できないのだろう。


「そういえば、三人ほど他の商人から毒を押収した時に吸い込んで、症状が出た者がいたな?」

「発熱と関節痛を訴えた者はひとり、下痢をしたり嘔吐した者がふたりでした……もしかしたら違う毒なのかと思ったのですが、全く同一に視えました」


 ん?

 んんん?

 なんか……思い当たる気がする。

 えーと、じいちゃんが言ってた……えーと……

 もう少し情報が欲しいな。


「あの……その人達、今は?」

「今はもう何ともないそうだ。水を飲ませて横になっていただけだが、吸い込んだ量が少なかったのだろうな」

 それは……魔法付与した浄化水で、デトックスされた可能性が高い。


「そういえば、ファイラス副長官殿は水がピリピリして飲めないって、なかなか口をつけませんでしたねぇ……」

 ピリピリ……?

 水が?

 あ……あああっ!

 思い出した!


「ミューラって、南の方の国ですか?」

 ふたりは突然なんだという顔をしたが、そうだと答えてくれた。

「海に面していて、色の鮮やかな魚が捕れたり?」

「その通りです……どうしてそんな事を?」


「多分、これ、魚の毒です」

「……魚? どうしてそんな事が……?」

「昔、祖父の知り合いが南国で魚を捕って食べた時に、毒に当たって大変な思いをした……という話を聞いたことがあります」


「それが、今回の毒と症状が似ているのか?」

「関節・筋肉などの神経毒で、人によっては下痢や嘔吐、脈の異常なども起こります。普通の水がもの凄く冷たく感じ、ピリピリして触れなくなります」


「では、こちらの物はその薬か?」

「いいえ、これは薬ではありますが、治療薬ではないです。おそらくただの痛み止め。その魚の毒は薬がないのです」

「では、治療は……」

「体内に入った毒物を洗い流すしかありません。つまり、大量の水を飲ませて吐かせるとか、洗浄する」


 沖縄で自分で釣った魚を食べたじいちゃんの友達が、そんな症状で病院に担ぎ込まれたことがあった。

「でも、死亡する毒ではないのか…」

「軽度の人で七日ほど、重症だと一ヶ月から一年くらい関節痛などが続くようですが。祖父の知り合いは、十日ほどで治っていました」


 だから、これが実験だというのなら。

「こっちの薬は、もし仕掛けた者が毒に侵された場合の、当座の痛み止めではないでしょうか」

 毒の方が大量にあった理由は……効果期間か、範囲をかえるため?


「実験だというなら、薬の方ではなく毒の方の実験です」


 冬場、この辺りは交易には向かない。

 隣町経由の商人達も、まったく来ない。

 冬の間は碧の森も錆山も閉まるから、素材の買い付けに来なくなるのだ。

 その上、雪が積もって入れない。

 だからこそ、冬場この町が機能しなくなっても被害は最小限……と考えやがったのかもしれない。


「水源に段階的に毒を入れていき、どのくらいの量でどこまで広がるか……というような実験だったのではないか、と思います」


 ああああーっ!

 むかっ腹が立つ!

 俺の第二の故郷に、なんて事仕掛けようとしたんだ!

 ミューラ、許すまじ!

 いや、まだ確定はできないな。

 焦ってはいけない。


「ミューラでは……内乱の噂がありますね」

 ライリクスさんの声が一段と低くなり、冷気を帯びているかのようだ。

「政敵に仕掛ける毒でも作ったか。殺してしまうと民の支持は得られない。が、敵の動きは封じたい……と」

「その効果と範囲を……我がシュリィイーレで、試そうとした……?」


 バキッ!


 ライリクスさんの持っていた筆記具が割れた……

 マジ怒りだ。

 ライリクス・ボルケーノの爆発だ!


「あいつ等、ただじゃおきません。長官、私にお任せいただいてもよろしいですか?」

「ああ、頼む。全部吐かせろ。何をしても……殺さなければいい」

「了解です」


 何を……されちゃうのかは、聞かない方がいいかもしれない。

 多分、ビィクティアムさんは教えてはくれないと思うけど。

「犯人……全員、捕まっているんですか?」


「この町にいた奴らは……な。ミューラの商人も似顔絵が手に入ったので捕らえられたし、協力者も……」

「もしかして……結構上の地位や役職の方に……一味がいたとか?」

「……」

「あ、言わなくていいです! そういう暗部は、覗きたくないですっ!」

「賢明な判断だ」


 取りあえず、この一件はこれでお終い……なのだろう。

 黒幕がどこにいるか解らないし、ミューラの思惑って考えも今の時点ではただの想像に過ぎないし。



 本当に、水源が汚染されなくてよかった……

 俺の浄化の魔法も、役にたてたみたいで安心したよ。

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