第69話 ビィクティアムさんからの依頼
「……まさかビィクティアムさんだったなんて、思ってもいませんでしたよ」
翌日に持ってきてくれた、三十三番のケースペンダントの所有者。
「妹が買ってきてくれてな。俺はどうもこの鎖が痒くて苦手だったのだが、タクトのは平気で助かってる」
そしてまさかの金属アレルギー……腫れるほどではないにしても、痒いのは嫌だよな。
「で、意匠証明、入れますか?」
「うむ……それも頼みたいのだが……すまん、ちょっとこの魔道具を使っていいか?」
これ、音を外部に漏らさないようにする魔道具だ。
もしかして、あの銃絡みの話か?
「構いませんけど……じゃあ、奥に行きませんか?」
「解った。助かる」
工房側に移動してもらって、俺も忘れないうちにケースペンダントを加工してしまおう。
ビィクティアムさんには、青で名前とマークを書き込み、一体化と強化。
お世話になっているからついでに、防汚とかも付けてあげちゃおうかなー。
「本当におまえの魔法は、均一に入るんだな……見てて気持ちいいくらいだ」
この人も、ある程度は見えているんだよなぁ。
鑑定ほどではない、魔力の揺らぎってやつっぽいけど。
「そうですか? 俺にはこれが普通なんで、よく解らないです」
「妹が、目の前で見たおまえの魔法に感動していたぞ? もの凄く効率の良い魔法だって」
妹さん、誰だろう……気になる。
効率まで見えているか、感じているってことは、看破か少なくとも鑑定が使えるんだろうな。
「妹さんも衛兵隊なんですか?」
「いや、医師だ。西・茜通りの病院に勤めている」
お医者さんかぁ……じゃあ、鑑定とか持ってて当たり前だよなぁ。
魔道具を発動させて、改めてビィクティアムさんがゆっくり話し始めた。
意匠証明を入れるのは口実で、こっちが本命の話なんだろう。
「まずは、銃の件は助かった。感謝している。あのあとはどこからも出てきていない」
「この町で売れていないだけでなく、持ち込みもされていないってことですか?」
「ああ、隠し持っていた者が三人ほどいたのだが、立て続けの暴発・溶解などの事故で自ら衛兵隊に提出してきた。他に件のミューラ商人と接触した者は見つかっていない」
「じゃあ、取りあえず収束したってことですか。良かった……」
「実は……別件で頼みたいことかある」
別件?
「奴らが水源に入れようとしていた毒がどういうものかは知ってると思うが、あれと同じ物を別の場所からも押収している」
「まだ……あったんですか。町の中で?」
「ああ、町の中と、何人かの商人が中身を知らずに運び込もうとしていた。だが、問題は別のものなんだ」
「別のもの……とは?」
ビィクティアムさんは、溜息を吐きながら言葉を続ける。
「それは、薬でな。薬効はありそうなんだが、今までシュリィイーレでは見たことのないものだ」
「医師組合とか、薬品組合でも解らなかったんですか?」
「解らなかった。外部からほんの少しだけ持ち込まれたもので、どうもあの毒に効きそうではあるのだが……確信も持てない」
……まさか。本当に、新薬の実験だったとか?
「おまえが言った『臨床実験』だとしたら……と考えると、腑には落ちるのだが、数量が圧倒的に足りない。あれでは実験になどならない」
「それで……俺に頼み……とは?」
「おまえは【加工魔法】が使える上に、分解ができるのだろう? そうでなければ違う素材の一体化など不可能だ。魔力量の多さだけでできるとは思えん」
できます。
そうですよね。
解っちゃいますよね。
「今、この町でこの件を知っていて、その重要性が理解できる者の中で、成分分解を含む【加工魔法】が使える者がおまえだけしかいない」
「その薬と毒の組成分解と、成分比率を調べたい……ということですか」
「おまえは話が早くて助かる……この件は、魔法師組合を通すわけにはいかない。秘匿しなくてはいけない重大な事件だ」
そうだよなー……
組合を通すとなると、全部情報を開示しなくちゃならなくなる。
町のみんなを実験台にするための毒とか薬とかの鑑定してくださいーなんて、言えるわけないもんなー。
「解りました。俺も片足どころか、ガッツリ踏み込んじゃってますからね……決着つけるためにできることなら、ご協力します」
「本当に……すまないと思っている。ライリクスは視る事はできても、分けることはできんし、タクトほど精度の高い魔法が使える者が見当たらないんだ」
「でも、無料奉仕はお断りします」
「勿論、報酬は用意する。何か望みのものはあるか? 衛兵隊でも俺個人でも、できることならなんでもするぞ」
「実はー……手に入れて欲しい素材があるのです」
「素材……?」
「はい、錆山のできるだけ奥の鉱石を……何個か」
あの山の鉱石は、もの凄く色々なものが入っている。それもかなりの多種多様な、レアメタルばかりだ。
今はまだ利用価値のないものもあるけど、絶対に貯めておいて損はない。
狙っているのは貴金属系かタングステン鉱石なんだが、これらはちょっと難しいだろう。
ふっふっふっ、最近鉱物もコレクション対象になってきたのですよ。
どの色のインクと組み合わせたら、どういう変化が現れるのかを調べるのが楽しいんだよねー。
「……欲がないな。おまえは……」
はぁ? 何を言っているんですか! あの山は宝の山ですよ!
全部組成分解して単一素材にしておけば、配合次第でなんだって作れちゃうようになりますよ!
魔法と組み合わせれば、もの凄く有用な……何か、は、できますよ!
まだ全然、プランはないですけどね!
交渉は成立した。
俺は昼時間が終わったら訪ねるという約束で、ビィクティアムさんにはうちで昼食など取ってもらうことにした。
勿論、ちゃんとお支払いをしていただく。




