30.5 リシュリューとラドーレク
「あの子は随分、聡い子ですね……十九歳とは思えませんでしたよ」
「故郷をなくして、暫くひとりで生きてきたようだからね、タクトくんは」
「……故郷をなくした?」
「国境の山崩れで、周辺の村がいくつかなくなった事があっただろう? そのどこかの生き残りのようだよ」
「なるほど。名も知らぬ民族の国が点在していましたからね。あの文字は初めて見ました」
「私もだよ。きっと、彼の故郷独特の魔法なのだろうねぇ」
「あの魔道具……マンネンヒツ、でしたか。あれも未知のものでしたから、そうなのでしょう」
「彼には【付与魔法】の才能がある。加えてあの魔力量だ。かなり期待しているのだよ」
「魔法師組合としては大事に育成したい逸材……ということですか」
「そうだよ。だから、なんとしても護ってやりたいね」
「とても理性的に見えたのですが、まさかあそこで飛び出すとは意外でした」
「正義感ではなく、勢いと言ってしまえるのも……少し怖いねぇタクトくんは」
「ええ、彼がガイハックさんに保護されて、本当に良かった」
「そうだねぇ。もし、タクトくんが先に出逢っていたのがミトカ達だったら、もっと大変な事になったかも知れない」
「確かに……それにまだ、危ういですしね、彼自身も」
「子供だ。当然だよ。でもタクトくんは、我々の言葉をちゃんと聞いて判断できる子だ」
「……大人の責任は重大ですね」
「だから、ガンゼールのような奴を、子供達に接触させちゃいけない」
「ガンゼールはもう捕らえられているでしょう。彼の話も……一応は聞きます」
「頼むよ。ミトカの具合も心配だ」
「実は、少し不思議なのですよ……」
「ん? 何がだい、リシュリュー?」
「二階から見た時、ミトカの傷はもっと深く、深刻なものだと思っていたのです」
「ああ……派手に血がとんだからねぇ」
「それに、ミトカを傷つけた角狼は、毒の最も強いはずの成体。にもかかわらず、毒は殆ど検出されなかった」
「……それは、運が良かったのでは?」
「そうかも知れませんが、服の裂け方の割に、傷も浅すぎる……」
「何が言いたいんだい?」
「彼は……【回復魔法】も使えるのでは……と思ったのですよ」
「それは、荒唐無稽な話だ」
「ええ、解っています。おそらくそんな事は有り得ない。でも……他に説明が付かないのです」
「偶然、だよ。仮に【回復魔法】が使えたって、あの短時間では治せない」
「そうですね。絶対に無理でしょうね」
「その上、毒は【回復魔法】ではなくならないよ」
「解ってはいるんですが……納得できていないというか……」
「珍しいねぇ、そんなに歯切れの悪い君は初めてみるよ、リシュリュー」
「……私も……自分の魔眼鑑定を疑ったのは、初めてですよ」




