168.5 衛兵隊の人々
「さて、どうだった?シュリィイーレでは初の試みだったが」
「面白かったですね。町の若者達が我々をどう思っているかも聞けましたし」
「今後も指導して欲しいと言っていた者達もおりますが、いかがいたしましょう?」
「そうか…月に一度か二度くらいで見てやる日を作るか。そうすれば無闇に森に出て怪我をする奴も減るかもしれんな」
「賛成ですね。力が有り余ってるって奴もいますし、実力を過信している奴も多いみたいですから」
「では、それは今後の予定に入れ込みましょう」
「頼んだぞ、オルフェリード。担当者も交代制にした方がいいな」
「楽しみですな!見込みのある奴もいましたからな!」
「タクトくんと模擬試合してた彼ですか?」
「彼の他にも剣が上手くなりそうな奴はいたな。まぁ…タクトが鍛えられたら、あいつが一番伸びそうだが」
「毎日走り込みと体操…でしたっけ?」
「そういえば朝の巡回の時によく会いますね」
「オルフェリード、おまえは西側の担当だろ?」
「ええ、南から西門廻って北西まで行ってるみたいでした。冬場は経路を変えてる…と言ってましたね」
「魔法師は体力…ですか。基礎が解っていたからあの魔力量でもなんとかなってるんですね…」
「体力に関しては杞憂だったようだが、魔法の使い方は…課題だろうな」
「それにしても彼は『体術に理論がある』と言ってましたが、いったいどこでそんな知識を得たのでしょうか?」
「あいつの出身国は魔法だけでなく、そういった方面も秀でていたのだろうな…いや、魔法に身体の作りを理解することが必要だったのか?だとすれば、タクトなら学んでいて当然だな」
「学べる環境があったと?」
「なんでも、16年間もほぼ毎日1日数時間の座学の時間がある国だったようだ…俺達貴族ですら4年ほどしか勉学の時間は取られていない。しかも毎日と言うわけではない」
「……私だったら耐えられませんな…」
「レグレスト、それは多分殆どの者が同じ感想だと思うよ。僕だって嫌だ」
「タクトくんは頭で考えることに慣れているんですね。それに身体が付いてくれば理論通りの動きが可能になるのでしょう」
「なるほどな。だから先ず体力向上を図ったわけか。子供の身体では使えない理論も足腰を鍛えれば使えるようになると解っていたわけだ」
「レグレスト、タクトの盾術はどうだった?」
「受け止めるのではなく、流す技ですな。だから小盾の方が都合が良い。動きの素早さと低い体勢の維持は足腰の安定があればこそ。相手がどういう動きを次にとるかの予測が上手い。だから効果的に『流せる』のでしょう」
「習っていたね、タクトくんに」
「当然ですよ、副長官!優れたものはいち早く取り入れなくてはなりませんからな!」
「おまえとタクトでは体格が違うのだから、参考にならんのでは?」
「そんなことはありません。力の流し方は良い見本となりました。タクト程予測が早く出来ない者でも、盾の大きさや重さを調整すればあの技は大変有効と判断いたしました」
「楽しみですねぇ『理論』の講義」
「…座学…はキツイですなぁ…」
「資料を作ってくるって言ってましたね…本格的な講義になりそうですねぇ」
「何を面白がってる?お前も参加するんだぞ?ファイラス」
「は?」
「何回かに分けて全員参加だ。これは確定だからな」
「……はい…」
「あなたの家系は文官でしょう?」
「僕が文官に向いていたら、シュリイィーレに派遣されると思うかい?」
「……確かにそうですね。弓術の指導時間も設けますか?」
「仕事が増えるのは勘弁。これ以上働いたらお菓子を食べる時間が無くなる」
「弓術も入れろ。1ヶ月に5回でも構わん」
「はい」
「えええーっ?」