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第168話 模擬試合

剣の稽古は予想通り、体験組は手も足も出ず終わったようだ。

なんとか打ち合う事が出来た者達も、かなり手加減されていたらしく衛兵隊は誰ひとり息も上がっていない。

やはりシュリイィーレ隊は素晴らしい。


そのあとも槍術、弓術などの訓練を見学させてもらい、最後に体術の訓練に参加する。

剣は毎日訓練してる衛兵が強いに決まってる、取っ組み合いなら負けない、と体験組はリベンジを目論んでいるようだが、喧嘩と体術は違う。

身体のどこをどう攻めれば効果的かなんて、衛兵隊が知らないわけは無いのだ。


「君が魔法師だからって手加減はしないからね」

「はい。宜しくお願いします」


俺の体術の相手は、ポスターを貼りに来たオルフェリードさんだ。

この人、細いけどかなりの手練れっぽいな。

ちゃんとした武術をやっている人なのかもしれない。

なら、勝てないまでも負けないをコンセプトに予測技能フル回転で掴ませない方向で。


空手に似たような型で構えるオルフェリードさんに対し、身体鑑定と予測技能でどこまで逃げられるか。

うわ、さすがに速い!

ちょっとでも油断したら直ぐに捕まる。

あ、やばっ!


避けられない…のなら、このまま突っ込んでやれ!

体勢を低くして、相手の利き腕の下に潜り込むように身体を滑り込ませる。

俺の肩がオルフェリードさんの右脇腹に当たり、ほんの少しよろけさせることが出来た。


そして更に身体を低くし、オルフェリードさんの左手で掴まれないように後ろに回り込みながら左足を残し、更に大きく体勢を崩す事に成功した。


が、ここまでだった。

オルフェリードさんの見事な体幹はそれ以上バランスを崩すことはなく、俺の小手先の技など通用しなかったのだ。

結果、床に転がされたのは俺の方だった。


「ふぅ…なかなか良い動きだなぁタクトくんは」

「付け焼き刃じゃ駄目ですねーやっぱり…」

「いや、ここまで出来れば大したものだよ」


取り敢えず合格点は貰えたらしい。

そのあと、衛兵隊の皆さんにお疲れ様と言われて、詰所の広間で立食パーティーとなった。

…これはうちの料理だ。


なるほど、父さんと母さんもグルだったのだな。

でも敢えてうちのだって言わないし、母さん達もここには来ていないので俺が態々言うこともないな。

てか、ポスター貼りに来た時点でなぜ俺は気付かなかったのか…。

まぁ、面白かったからいいか。

……やっぱり誰とも親しくなんてなれなかったけどね。



「おい、おまえ、どうして剣を使わなかった?」

俺が2皿目の唐揚げに手を伸ばした時になんと、ミトカの奴が声をかけてきた。

相変わらず、俺を睨んではいるが。


「俺は魔法師だし、剣を使うより盾の方が使いやすいからな」

「使いやすい?」

「ああ。食堂で毎日おぼんを使ってるから」


そう、俺はおぼんでいつも新人騎士達の攻撃を防ぎ、躱しているのだ。

おぼんの裏にはちょっと中央から外れた所に取っ手を付けてあるのでそれを持ちながら操るのである。

あ、ミトカが『なんだこいつ?』って顔してる。


「相手を傷つける必要も殺す必要も無いから、武器は要らないんだよ」

「…なんだ…臆病なだけかよ」

おお、煽ってくるねぇ。

「そうだよ。俺は臆病だからね。防御力と速度を最大にしておけば、攻撃力は必要ないのさ」


さて、どう出るのかな?

捨て台詞で去っていくのがいつものパターンだけど、今日は衛兵達が見ている。

絶好のアピールタイミングだぞ。

最強の誉れ高いシュリイィーレの衛兵達から称賛のひとつでも貰えれば、兵士に志願するにしても、冒険者になるにしても自信と自慢話になるだろ。


「じゃあ俺と勝負しろよ」

予想通りの台詞だが、先ずは衛兵隊長官殿に承認をいただかなくては。


「…受けても宜しいですか?」

「いいだろう。但し、剣は模擬戦用、盾はさっき使った小盾だ。攻撃魔法の使用は認めない」

「はい、充分です」

「君もそれでいいか?」

「ああ!」


パーティー会場は真ん中が大きく開けられ、模擬試合会場となった。

俺もちょっと煽っちゃおうかなぁ。

「左手は使わない。右の盾だけだ」

案の定、ミトカの表情がきつくなった。


立ち合いはオルフェリードさんだ。

「では、始め!」


ミトカは真っ直ぐに俺の正面から斬りかかって来る。

なんて馬鹿正直な剣だ。


俺は半歩引いてミトカの左手側に移動しつつ、盾で剣を受け流す。

ミトカの次の攻撃は、開いたままの身体で大振りの橫なぎが来る。

このまま後ろまで回り込んで足を縺れされてもいいんだが、いくらなんでもそこまで体幹は弱くないだろう。


後ろに飛び退いてもう一度距離をとる。

ミトカの二撃目は空を切る。

今度は奴の右手近くに低い姿勢で飛び込み、まだ体勢の整っていないミトカの右腕を盾で叩き上げる。

丁度肘が当たったのだろう、うっ、という短いうめき声が聞こえて剣が手から離れ床に転がった。

すかさずその剣を、ミトカの手が届かない所まで蹴り飛ばす。


そして盾を奴の首元に当てつつ、足を掛けて右肘で肩を押すと呆気なく倒れた。

これはさっき俺がオルフェリードさんにやられた方法だ。

オルフェリードさんは盾じゃなくて、腕だけだったけどね。

「そこまで」


オルフェリードさんの制止の声と同時に拍手が起こった。

そして…真っ先に飛び込んで来たのは、なんと、レグレストさんだった。

「君!君の剣は実に惜しい!動きが直線的過ぎるな!」

そう言うとミトカの指導を始めたのだ。

「もっと!上下にも動くように!そうだな、足腰がまだ弱い」


良かった。

あいつもちゃんとした指導をしてもらえたら、きっともっと強くなれるに違いない。

そうしたら、やりたいことを諦めないで続けるかもしれない。


「おまえは思っていたより足腰が強いな」

いつの間にかビクティアムさんが後ろに立っていた。

「魔法師って意外と体力勝負なんですよ。俺はほぼ毎日走り込みと体操をしてますからね。食堂の昼時も足腰第一ですから」

「…そこまでちゃんとしてるとは思わなかった。道理で良い動きのはずだ。あの盾術は誰かに習ったのか?」

「…強いて言えば…『毎年来る馬鹿な新人騎士』に…ですかね。お陰であいつらの剣くらいなら、うちのおぼんの方が余程強いですよ」


ビクティアムさんの大笑いにつられてか、周りの衛兵達も笑い出した。


「それにしても、君は随分身体の使い方が上手い。何も習っていなかったとは思えないのだが」

オルフェリードさんは体術に関してかなり興味があるのだろう。


でも、カルチャースクールでもボクササイズとかを見てただけだからなぁ。

習ったわけじゃなく、理論だけなら結構いろいろ読んで知ってはいる。

筋肉の働きとかそういうのは解るけどね。


「俺のは理論だけなんで…まぁ知ってるから動かそうと思えばなんとかなる…くらいですかね」

「理論…?体術にどういう理論が?」

え?こっちではやらないのか?

オルフェリードさんが真顔でずずいっと寄ってくる。


ジムに行くとトレーナーさん達が喋りたくてウズウズしてる『筋肉理論』を、ガンガンに聞かされたものだが。

「どこの筋肉がどう働いて、どこと連携して動きが生まれるか解ってれば、相手の筋肉見てると動きの予測が立つじゃないですか」


俺がそう言った時、衛兵隊からざわり、とイヤーな声が上がった。

そしてにっこりとしたビクティアムさんに、両肩をガッチリホールドされて断れない雰囲気のお願い事をされた。


「その『理論』とやら、衛兵隊に講義してもらえるか?」


……これ以上強くなってどうするつもりですか、シュリイィーレ隊は!

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