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第167話 衛兵隊体験入隊

また今年も、もうすぐ新人騎士達を迎える季節が来る。

正直、うんざりである。

毎年どうしてああも、うちの食堂で問題行動をする奴らがいるのだろう。

もしかして、衛兵隊で落ちこぼればかりにうちの食堂を紹介している訳じゃないだろうな?


「体験入隊?」

よくうちに食べに来てくれる衛兵さんのひとり、オルフェリードさんが食堂に貼らせて欲しいと持ってきたポスターに書かれていたのだ。


「そうなんだよ。今年は各地で新人騎士を迎える前に、どういう訓練をしているかの体験入隊をやるんだって」

「へぇ…有能な人材の発掘ですか?」

「どちらかと言うと衛兵隊がどういう訓練をしてるのか見てもらうのと、町の人達との親睦が主な目的かなぁ」


なるほど…。

最近、馬鹿新人達のせいであまり衛兵隊の評判が良くないのか?

この町の衛兵隊にはみんな良い印象だと思うけど、他の場所では違うのかもしれない。

だから国全体でイメージアップ作戦ということなのだろうか。


「で、シュリイィーレでは25歳、26歳の男性は、数もそんなに多くないし強制参加ってことで。その他の年齢の方々は希望者のみなんだよ」

「は?」

「ま、体力測定位に思って気軽に来てよ!」

強制だと?

この冬の前の忙しい時期に!


「あら、面白そうじゃないか。行っておいでよ、タクト」

「そうだな。1日位こういうのもいいんじゃねーか?…おまえ、同世代の友達いねぇから気の合う奴でも出来るといいな?」

父さんはニヤリと笑って、俺の肩を叩く。

……確かに友達はいないけどねっ!

それとこれとは別でしょ!


しかし、面白そうではある。

友達なんか…期待はしていないが、まぁ…行ってみるか。

陸上自衛隊の体験入隊はかなり過酷だと聞いたことがあるが、こちらの衛兵隊はどうなんだろう。



体験入隊当日、集まったのは30人程だった。

思っていたより多いな。

強制参加者は8人で、確かに同世代男性は少ないみたいだ。

…ミトカも参加してる…。

こういうの馬鹿にするタイプかと思ったけど…あ、力試しのつもりで来たのかな?

衛兵隊に自分の実力が通用するかどうか。


よくよく見てると、そういう奴は半数位いるようだ。

普段衛兵さん達は町の人達には温厚だから、舐めてる奴もいるのかもしれない。 

なるほど、無鉄砲な若い奴等にガツンとやるのも目的のひとつなのかもな。


先ずは東門詰所近くの新人用宿舎で、見習い衛兵の制服に着替える。

こういう普段着ることの無い『制服』って奴は、なんだかテンション上がるな。

みんなもどうやら同じみたいだ。


庭に集められ、俺にとっては懐かしい小学校の朝礼のように並んで衛兵隊長官からの挨拶を聞く。

こういう時のビィクティアムさんはめちゃくちゃカッコイイよなぁ。


そして軽く身体をほぐして、剣の稽古を体験…。

剣…は、正直、好きじゃない。

うん、拒否しよう。


俺はラジオ体操第一をやりながら、そんなことを考える。

あ、なんか悪目立ちしてる気がする。

そっか、動的ストレッチなんてやる奴はいないのか。


しかしこれは運動の前には大変有効なのだ。

いきなり身体を動かすと危ないし、静的ストレッチでは運動能力がかえって落ちると聞いたことがある。

自動的に音楽が頭の中に流れるラジオ体操は、一番身体に染み付いてる良い準備運動なのである。


皆が剣を選ぶ中、俺は小さめの盾だけを持った。

「君、剣を」

衛兵さんが渡してくれようとする。

「いえ、俺は魔法師なので必要ありません」

「しかし…」

衛兵さんは戸惑うが、ビクティアムさんが要らないと言うならそのままでいい、と言ってくれた。


「盾への魔法付与は認めるが、身体強化や攻撃魔法は認めていない。よいのだな?」

「はい。充分です」


ふっふっふっ、俺の体力を甘く見ないでいただきたいものだ。

こちらに来てから大雪の日以外は、必ず毎朝走り込みをしていたんだぜ。

筋トレもそれなりに。

魔法の安定には体力も大事だからね!

マッチョまではいかないけど、割りといい身体なんですよ、俺は。


剣の稽古は全体で素振りなどをやる訳ではなく、ひとりひとりに衛兵さんが付き、型や振り方などを指導してからその人と立ち会い稽古になる。

だいたいが軽ーくいなされて、自分の剣を相手の剣に当てることすら出来ないみたいだ。


お、剣の音が聞こえるペアもあるぞ。

「余所見とは余裕だね」

「あ、すみません。剣の稽古って初めて見るから、つい」

俺の相手はこの方もうちの常連、ライリクスさん張りの甘党で、ガッツリマッチョのレグレストさんだ。


「どうして剣を使わないんだ?魔法師だからってだけじゃないなんだろう?」

「単に嫌いなんですよ、武器は。相手を傷つけたり殺したりしなくても、負けなければいいんで」

「言うじゃないか…ただの強がりじゃなければいいんだがな!」


なんと見事な踏み込み。

さすがだ、シュリイィーレ隊。

だが、俺は右手に構えた盾で剣を受け流す。

相手の突進を別の方向の力に変えるように、こちらの身体をかわして視界から消えるように動く。


これは『身体鑑定』で相手を見切る事が出来るから可能なことだ。

ついでに『予見技能』で行動予測も立てているので、相手がどの筋肉に力が入っているか、どう動こうと準備してるのかが解るようになったのである。

やはり技能は複合で使うと格段に精度が上がる。


二度、三度とレグレストさんの剣をいなし、隙を見て足を掛け、転ばせる事に成功した。

レグレストさんは目をぱちくりさせている。

攻め込んでいたはずなのに、いつの間にか自分が地面に転がってしまったのだから当然だ。


「…攻撃魔法なしで…盾の扱いがなんて上手いんだ、君は!」

「お褒めにあずかり光栄です」

「ちょっと今のやり方、教えてくれ!」


いや、逆だよね?

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