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第160話 帰る場所

俺は一刻も早く映像解析すべく、家の前へと一気に転移して戻った。

最近、各家々への付与魔法も外部魔力に切り替えたので、俺自身の魔力消費は少なくなっているはず。

だから転移魔法が惜しみなく使えるのである。


そして、まだ開店していないはずの食堂の扉を開けたら、ビィクティアムさんとライリクスさん、そしてセインさんの姿があった。

勢揃いでなんでこんな早くから……なんだか深刻な面持ちですけど?


「開店前にしておいた方がいいと思ってな…ちょっとおまえに確かめたいことがあるんだよ、タクト」

ビィクティアムさん、いやにシリアスな声だ。

「もちろん、ガイハックさん、ミアレッラさんにも同席いただきたい」

「父さん達も…?」

え?

もしかして、この間の騎士の件でなんか大事になっちゃったとか?



俺達全員で2階の居間に上がると、ビィクティアムさんがこの部屋で魔法を展開していいかと父さんに了解を求めた。

【境界魔法】という、ビィクティアムさんの持つ『聖魔法』だそうだ。

ありとあらゆる魔法も魔眼もこの境界の中へは通らず、外部から完全に遮断される結界魔法ということだ。


「すまんな。念のため…だ」

「ここまでしないとまずい話って…なんですか?」

「おまえ自身のことをもう一度確認したいんだ」

セインさんは立会人、ライリクスさんは嘘発見器…か。

質問者はビィクティアムさんひとりのようだ。


「おまえの魔法のことも含め、おまえが作り出した物はあまりに破格すぎる。それも含めおまえ自身のことをちゃんと把握しておきたい」

「…解りました。で?何を話せばいいんですか?」

「質問に答えてもらう形でいいか?」

そうだな、どう話せばいいか解らないし、余分なことを言っちゃうより聞かれたことに答える方がいいな。


ん?

ああ『録画』してるな?

ふっふっふっ、製作者の俺相手に隠し撮りとは…。

全部転送録画の記録石に魔力が流れ込むから解っちゃうんですぜ。


「いいですよ、なんでも聞いてください」

「まず、おまえの出身国について聞きたい」

は?そこから?


「どの辺にある国なのか、どのような国なのか」

「どの辺……と言われても、この大陸や世界全体の地理がまったく解らないので言えないですね…俺の国は周りが全て海で、他国とは陸続きでは接していない国でしたから」

「周り全てが海……では、どのような形か描けるか?」


この俺に絵を描けと……うーん、俺の画力で果たして伝わるだろうか…。

えーと、北海道がこんな感じで、本州が北から南へ…で関東辺りから西に延びて……四国と九州と、あとは周りに島が沢山…で、沖縄まで。


「こんな感じですね…もの凄く大雑把ですけど」

「この小さいのは『島』か?」

「はい。本当はもっと沢山あるんですよ、確か全部で6800以上です」

うん、日本は島国だからね。

有人、無人を合わせるとそのくらいの数があるんだって知った時は俺も驚いたものだが、聞いていたみんなは更に吃驚したみたいだ。


「…その島々全てが…ひとつの国なのか?」

「はい『日本列島』と言うくらいなので島が連なっているのです」

「『ニッポンレットウ』……なるほど…他におまえの国の呼び名はあるのか?」

「えーと…時代によっていろいろ…『大日本帝国』とか言ってたり『大和の国』なんて言ってたこともありましたねぇ…」

ジャパンとかジパングなんて言うのは、外国の説明が面倒だから言わないでおこう。


「うむ……では、国の神は決まっているのか?」

こっちでは本当に神々と人との距離が近いんだなぁ。

えーと、仏教は神じゃないから…神道の方が説明しやすいな。


「基本的には…『天照大神』ですかね。でも日本には沢山神々がいらっしゃいますから、個々に信仰している神は違いますよ」

「『アマテラスオオミカミ』…?とは、なんの神なんだ?」

「『天光』です。日本では天光のことは『太陽』という言い方をしていました」


「王が天光の神を祀っているのか?」

「『王』という方はいませんね。日本では『天皇』といいます。天皇家は天照大神の子孫…という神話があり、政治や経済には関わらず祭祀を主に司る『国の象徴』です」

「なるほど……祭祀…か。タクトの血筋もその天皇家に近いのか?」

「いえいえ、とんでもない!うちは全然そういう家系じゃないです!」

「謙遜ではなく?」

「はい。そもそも皇族なんて雲の上の存在ですよ」


「薔薇とか紅茶などといったものに日常的に触れる機会があったのだろう?」

あー…そこで勘違いされちゃってたのか!

「えーと、俺のいた国では薔薇も紅茶も全国民がなんの規制もなく手に出来るもので、国内どこに行ってもどこででも売られているものでした。だから全然特別ではないんですよ」

「どこで…でも?」


「はい。それもわりと安価で。品種によっては高級なものもありましたけど、決して手に入らないものではなかったんです」

「気候や天候も関わりなくか?」

「それを克服する物流や技術力がありましたからね。いろいろな花々や何十種類もの紅茶が流通していましたし、どちらも季節外れだとしてもちょっと高くはなりますが、買えない訳じゃあなかったんです」



「そうなのか……そういう環境だったということは知らなかったな…では、タクトのニッポンのご両親は何を生業としていたのだ?」

えーと…公務員ってなんて言うんだ?

「父も母も役人…ですね。あ、でも政治的なものではないですよ。どっちかというと行政です」

地方公務員だからそうだよな。


「ではおまえもその職を目指していたのか?」

「いいえ。両親は俺が13になった翌日に事故で亡くなりましたから、俺が目指したのは育ててくれた祖父と同じような職業で、今の俺の職業と一緒です」

「『文字魔法師カリグラファー』か」

「はい。まぁ……祖父は『書家』で、俺なんかよりずーーっと凄い人だったので同じって訳じゃあないんですけどね」


「『ショカ』とは?」

「文字を書く…芸術家…とでも言うんですかね?伝統文化のひとつでもあるし、祖父は国の権威有る賞を取るような大家たいかでしたからね」

「国から賞される程の方だったのか」

「そうですね、文化功労者に選ばれたり勲章をもらったりするような人でしたねぇ…いろいろと教えてもらってはいましたけど、俺なんか足元にも及びませんよ」


それから、文化的なこととか食糧事情とかいろいろ聞かれたが当たり障り無く嘘もなく答えられたと思う。

ただ、鉄道と飛行機の説明は…多分ちゃんと伝わっていない気がする。

こっちじゃ、まったく無いものだからなぁ。


「なるほど……どうやらおまえの国とこの国とは根本的に違うのだな…」

「そうだと思います」

なんせ、こっちには魔法なんてものがあるんだもん。

日本で必要だった技術も仕組みも魔法でどうにかなっちゃうからね。



「タクト……おまえは『転移』して来たのだな?」


……はい?

なんだ、いきなりその根幹をつくような質問は。

あ、でもリボルバーがミューラにあったくらいだもんな。

過去にも『転移者』ってのはいたのだろう。

しかしここは認めていいところなのか?


「この町に初めてやってきた時、白森に転移してきたのだろう?」

「その辺の事は…実はよく解らないんですよね…」

素直に行こう。

それが1番だ。

なんせ、俺から全く視線を外さないライリクスさんの魔眼は誤魔化せない。


「冬の始まりくらいのある日の夕方、俺が家に帰って食事にしようとした時に突然黒い渦みたいなものが部屋に現れて、俺はそこに吸い込まれてしまったんです」

「黒い渦?」

「はい。今思えば時空のゆがみとか次元のひずみとかそういうものかもしれないんですけど、何がなんだか解らないうちに飲み込まれてしまって、気付いたら白森にいました」


「ではおまえが来ようとして来たわけではなく、偶然の『事故』のようなものだったということか?」

「はい。魔獣なんて全く見たこともない奴が出てくるし、植物も似ているようで違うものが多かった。それに夕方だったのにやたら明るい真っ昼間になってるし、冬が近い寒くなる時期だったはずなのに昼間は少し暑かったし、訳の解らないことばかりでした」


「時空を超えた魔法を使ったということではないのか?」

「あの時の俺には魔法なんて使えませんでした。使えていたらその時点であっちに帰っていましたよ」


「今でも帰りたいか?」

「いいえ。全然帰りたくないですね。俺の家はここだし、俺が生きていきたいのはこの世界で、シュリィイーレから離れるつもりなんてありません」

あっちに帰ったって、たったひとりでの生活が待っているだけだ。

そんな生活は、こちらでの日々を過ごしてしまった今の俺には辛すぎて絶対に無理。


ビィクティアムさんの表情が、ふっと、優しくなる。

「そうか……安心したよ」

「え?」

「おまえがまったく別の国からやって来たことは解っていたが、全てが俺達の憶測で確信に至れなかった。そして、おまえが魔法の事や神典に携わるのが、帰るための魔法を探しているのではないのかと…勘ぐっていた」


「戻る気はないです。あちらは確かに豊かでなんでもある国でした。でも、俺には家族も友人もいませんでしたからね。こっちの方がずっと『帰る場所』だと思っていますよ」


ずっと黙って聞いていただけの母さんが、急に俺を抱きしめた。

びっくりして顔を見ると、泣いているみたいだった。

そっか。

いつか俺が向こうに戻っちゃうかもしれないって不安にさせていたのか。

もっと早く言えば良かった。


「母さん、俺の家はここだよ。どこにも行かない。ずっと、ここにいる」


そういった自分自身の胸が熱くなるのが解った。

ああ、俺自身も不安だったんだ。

何も言えずにいた自分が、ここにいてもいいのかって。


抱きしめられている母さんの腕に少し力が込められて、それがこの家こそが俺の帰る場所なんだと教えくれているように感じた。

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