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第145話 フローラ・フローラ

「花?」

「そうよ!花!」


トリセアさんの店に新しくサイズを変えた意匠マークの袋を納品に来た俺に、トリセアさんが次は花を作って欲しいと言いだした。

いやいや、生花なんて無理ですよ。

何を突然……。


するとトリセアさんは解ってないわね、と溜息をつきつつ教えてくれた。

「違うわよ。この間お祝いにってくれた造花の花束があったでしょ?ああいう、花よ」

そういえば硝子細工の造花を作って開店祝いにあげたんだっけ。

「あれは色ガラスだから、レンドルクスさんの方が専門家だろ?」

「あたしも、そう思ってあの人に作ってもらったのよ…でも、全然出来が違うの!あの人、花なんてちゃん見たことがないから解らないって言うんだもの!」


まぁ…確かに男性で、しかも鍛冶職人のおっさんはあんまり花には詳しく無さそうだ。

俺だってあれ作った時は花の図鑑を見ながらだったもんなぁ。


そういえばシュリィイーレではあまり生花を見かけない。

この土地で咲いている花もとても種類が少ないせいかもしれない。

特に牡丹のような大輪の花などは全く無く、菜の花みたいなものやスミレみたいな花が殆どだ。

あとは、果実のなる木の花…くらいだ。


俺が作った硝子の花はガーベラとドラセナみたいな葉っぱを適当に纏めた物だった。

薔薇は止めとけって言われたからさ。

ガーベラにいろいろなインクを使って着色したので結構綺麗に出来ていたと思うんだよねー。


「タクトくんの作ったあの花の作り方、教えて欲しいの!」

「花束でも売るの?」

「違うわよ!髪飾りとか、襟飾り、釦飾りにするのよ」


おお、なるほど!

花ってそういえばアクセサリーの定番だもんな。

「解った。作り方を教えればいいんだね」

「あ、勿論、魔法で強化とか防汚とかして欲しいから、タクトくんの印を入れてね?」


それくらいでいいなら全然大丈夫!

音源水晶に外部魔力が使えるようになったから負担にならない。


後日、俺がレンドルクスさんの工房へ行って教えることとなり、トリセアさんは魔法付与の指名依頼を魔法師組合に出してくれるということになった。

硝子細工の髪留めかぁ……。

メイリーンさんにはどんな花が似合うかなぁ…。




「……花?」

「そうだ。花、だ」


王都から戻ったビィクティアムさんが俺にお礼を言いに来てくれたのだが、今度は花で蓄音器を作って欲しいと言われた。

ビィクティアムさんが花って、どーして?

あっ!

もしかしてビィクティアムさんにも婚約者がいるとかっ?


「…違う。俺には婚約者などおらんし、俺が欲しいわけでもない」

貴族なのに婚約者、いないんだ…。

キラキラ縦ロール巻き毛のご令嬢とかが婚約者だったら面白かったのに。


どこか自嘲気味のビィクティアムさんだが、ワーカホリック気味のこの人はそういう事に無頓着なのかもしれない。

親に決められたりしないものなのかな?こっちの貴族は。


「俺の…伯父から頼まれてしまってな…今回の審議会の件でもかなり世話になってしまっていて……その…断れなくてだな」

「花…で、蓄音器を?」

「そうだ。花の意匠で作って欲しいのだ。伯母の誕生日祝いにしたいからと」

「それじゃあ、石工工房に依頼して…」

「いや、出来れば、この身分証入れを作ったおまえに是非作って欲しいと……すまん」


俺が魔法師で石工職人でないと何度も言っているのを知っているのだろう、ビィクティアムさんの声はとても申し訳なさそうに小さくなる。

あれ…加護が付いちゃったからねぇ…特別感、出過ぎちゃったよねぇ…。

親戚の伯父さんに見せてって言われりゃあビィクティアムさんは見せちゃうだろうし、あんだけ派手に目立っちゃったからその職人に!ってなるよねぇ…。


「解りました…他ならぬビィクティアムさんのお願い事ですからね。伯母様のお誕生日っていつなんですか?」

「剣月の9日だ。間に合うだろうか?」

「来月ですね…はい。大丈夫ですけど、意匠の花と曲は俺に任せてもらっていいですか?」

「ああ、勿論だ!本当にすまん、助かる…あの人には……逆らえなくてな…」


「いえいえ。で、どれくらいのご予算で?」

「おまえが欲しいだけ要求してくれ」

「は?」

「いくらでも、何でも、おまえの欲しい物を対価に支払うと約束させた」


ビィクティアムさん、最高ですよ!

ではでは、遠慮なく…。

「俺は今、苺の果実と何種類かの、出来れば産地の違う苺の苗…が欲しいのです」


ふふふ、ビィクティアムさんがなんだそれは?というような顔をしている。

無理もない。

シュリィイーレに苺は全く入ってこないのだから。


「先日、西の市場の行商人が王都でごく稀に、貴族の間でだけ食べられることがある…と言っていました」

俺はこんな果実ですよ、と絵を描いてみせるが…まぁ、俺の絵なので伝わるか微妙だが…。


「あ…ああ!あの赤い実か?そういえばそんな名前だったが…何に使うのだ?結構酸っぱかったぞ?」

流石大貴族の次期ご当主…食べたことがありましたか、そーですか。

「大丈夫です、果実が欲しいのは味を試して試作品の菓子を作るため。苗が欲しいのは品種改良をするためです」


俺の目指す理想の苺は栃木の超メジャーなブランド苺である。

形が可愛く、やたら甘すぎず、それでいて自然の甘みが心を掴む正に『甘い宝石』なのだ。

…まぁ、果実と言っているが、苺は厳密には野菜なのだけど。


「どうですか?手に入りそうですかね?」

「な…なるほど…なかなか…難しそうだな」

「まぁ、どーしても無理だというなら、カカオでもいいですよ。カカオならカタエレリエラ領の南方で作られていますから、比較的簡単に手に入れられると思いますので」

「……よし、両方ふっかけてみよう。あの人ならムキになってふたつとも何とかしそうだ」


ビィクティアムさんがとっても楽しそうな顔になったので、これはよい提案をしたのではないかな?

ふっふっふっ。

苺でもチョコレートでもスイーツ部にとっては最高の素材ですからな!


てか、先に米が来て欲しいんだけどな?

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