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第143話 原典審判

突然、カメラの画像が乱れた。

箱がはじき飛ばされた?

床に落ちたカメラに映ったのは、ビィクティアムさんに飛びかかったドードエラスの姿だった。


〈何故…!何故おまえにこのような時空を越えた魔法が使えるっ?おまえなどに……っ!〉


ビィクティアムさんは奴をふりほどき、立ち上がる。

〈いい加減にしてください!兄上!〉

……え?

ビィクティアムさんとドードエラスが…兄弟?

全然似ていないな。

あ、瞳の色だけは同じか。


〈あの日…あの成人の儀でおまえなどに聖魔法が出たばかりに…そうでなければ、私が!セラフィエムスだったのだ!〉

ど、どういう事だ?

〈おやめなさい、ドードエラス神官!九星家門を嗣ぐ者は神が決められた事!〉

〈そうです、あなたにはあなたの使命が…〉


神官達が飛び出して止めに入るが、ドードエラスが持つ短剣にビビっているようだ。


〈うるさいっ!こんな、私より何もかも劣る弟が、貴族であるくせに大した魔力量も持たぬ出来損ないが!ただ聖魔法があるというだけで!それだけでっ!〉

ビィクティアムさんは何も言わない。

ただ、ドードエラスを見つめて、泣きそうな顔をしている。


〈聖魔法は神のお導き。九星家門には聖魔法の者でなくては務まらぬ使命が……〉

〈セラフィエムスの使命は私にしか遂げられない!時の彼方に在る神を呼び覚ます事が出来るのは【時空魔法】を使える私だけだ!〉

審議長の声がドードエラスを止める事は出来ない。


〈では…兄上、神に裁決を賜りましょう〉

〈…なに?〉

え…?なになに?


〈ドミナティア神司祭殿!神典下巻の原典をお持ちですね?お貸し頂けますか?〉


あ…あああっ!

俺がやったあのハッタリ審判をやろうとしているのっ?

あわあわと俺はコレクションから閲覧制限の指示書を取り出す。

セインさんが持って行くって言っていたから、折り曲げちゃってたんだよ!


あっぶねーーーっ!

俺が中継をリアタイしていなかったらどうなっちゃっていたんだ……。


セインさんから審議長に神典下巻が渡される。

審議長が中を改め、古代文字である事を確認すると周りの審議員達からも感嘆の声が上がった。


〈素晴らしい……!間違いなく神典下巻の原典でございます。セラフィエムス卿、これをどうするのです?〉

〈その原典は正しき者のみ開くことが出来るのです。私の言い分が間違っているのであれば、私はそれを開くことは出来ないでしょう。ですが、ドードエラス神官が間違っているのであればそれを開くことが出来ないのは私ではなく、ドードエラス神官でございます〉


審議長が自ら段を下り、ビィクティアムさんに神典を渡しながら問う。

〈その審判に、どれほどの信憑性が?〉

〈そ、それは、わたくしが、証言いたします!〉

お、エラリエル神官だ。


エラリエル神官は自分が誤った行いをして、神典が全く開けなかったことを語ってくれた。

〈私はあの時、原典を開くことが出来ませんでした。ですから、こうして真実のみを語ると神に誓約し、ここにおります〉

どうやら会場の皆さんは半信半疑のようだ。

ううむ、信仰心の足りない者達じゃのぅ。


〈では、今一度あの日の映像をご覧ください〉

あー…やっぱり流しちゃうかー。

まぁ仕方ないよね。

一度は覚悟した事だし、ビィクティアムさんに良からぬ嫌疑が掛かったままにしておくわけにはいかないからな。

お、投影している映像が半分だけ見える…。



[ど、どうしてだ?何故、開けない?]

[どうやら神はあなたに何も示さないようですね…ビィクティアムさん、この本、開いてみてください]


うわー……俺、芝居下手だなぁ…。

カメラに背を向けててよかったぁ。


[俺にも…ほら、開けますよ?さあ、もう一度試してください]

[そ、そんな……私が間違っていると?間違っていると…神が仰せられているのか…?]

[お解りいただけたでしょうか?]



会場がどよめいている。

〈か、神が審判を…?原典にはそれほどの威光があると…?〉

〈やはり、神は正しきをご存知なのだ…!〉


〈では、試してもよろしいでしょうか?〉

ビィクティアムさんが手を伸ばすが、それを振り払ってドードエラスが神典を奪った。

〈ああっ!何を…!〉

〈こんなもの、なんの証明になるというのだ!ただの本ではないか!芝居もいい加減にしろ!〉


〈そう思われるのであれば、どうぞ開いてください。あなたが正しいのであれば神は言葉を示す〉

ビィクティアムさんの低く強い声に会場が凪いだ。


ドードエラスは不敵な笑みを湛えながら、本を開こうとするが全く開くことはない。

焦りが顔に浮かぶ。

何度試しても、裏返してみたところで本は開かない。


審議長が神典をドードエラスから取り上げた。

よし、ここで指示書を折り曲げる。


〈……開きますな…〉

〈ど、どうして……私にだけ……〉

〈では、セラフィエムス卿、あなたは如何ですか?〉

ビィクティアムさんは無言で閉じられた本を受け取ると、問題なく開いて見せた。


〈おお…っ!〉


〈真偽は決した!セラフィエムス卿は無罪!〉

審議長はそう叫び、壇上に戻ろうとするとエラリエル神官がどうか、自分にももう一度神典の審判を受けさせて欲しいと願い出た。

〈わたくしが真実を語ることが出来ていたか、今一度神に仰ぎたいのです!〉

〈よろしいでしょう…〉


そしておそるおそる神典に手を掛けたエラリエル神官が見事にそれを開くことが出来た時、会場には感動の声が漏れエラリエル神官は涙を流して神の許しに感謝していた。

…正直……とても居たたまれない……。

あの場にいたら、ごめんなさいって謝っちゃっていたと思う。

これ、今後もこのハッタリ神典審判やられちゃうのかも…指示書を『真実を述べている者のみ開ける』…とかにしとくべきかも。


ぱーーんっ!


突然響いた聞き慣れぬ音。

銃声。

ドードエラス、銃まで隠し持っていたのかよ!

〈認めないっ!私は絶対に認めないぞっ〉

銃をビィクティアムさんに向ける。


〈…俺を殺してあなたの気がすむのであればそうするといい。俺には、それくらいしかあなたにしてあげられることがない〉

ビィクティアムさん…。

〈俺は…俺はずっとあなたを尊敬していた。ずっと、あなたが一番正しいと思っていた〉

銃口に、寄っていく。



〈……シュリィイーレの水源に毒を入れようとしたのは、あなたですね?兄上…〉



ななななっなんだってぇっ!

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