第141話 真実について
エラリエル神官を衛兵隊に渡し、監視カメラは最後にライリクスさんと一緒に仕掛けたものだけ回収して俺達は秘密部屋を出た。
セインさんは騒動の顛末をハウルエクセム神司祭に話し、先に王都に戻ってもらう事にした。
この事件を教会本部に伝えるためだ。
そして、俺達は持ち出した二冊の本を戻し忘れた事に気付き、もう一度秘密部屋に入った。
「タクト……さっきのあれは何だ?何で奴に神典が開けなかったんだ?」
ビィクティアムさんが真剣な面差しで訪ねてくるのだが、ここは教えない。
「まぁ、神様のご判断でしょう。はっはっはっ」
「タクトくん、何かしましたね?」
「ご想像にお任せいたします」
ライリクスさんもスルーですよ。
閲覧制限は【制御魔法】になるだろうから、公開は出来ません。
「まぁ、いいじゃないですか。エラリエル神官は真実をすべて語ってくださるという事ですし」
「はぁ……おまえがすべての真実を語る日は来るのか?」
「やだなぁ、真実が人間にとって必ずしも必要なものとは限らないじゃないですか」
知らなくていい事もきっとある。
知ってしまったら後悔する事も沢山ある。
それが真実であったら絶望する事だってあるだろう。
そんな真実なら、俺は要らない。
俺はそんなに真っ直ぐ生きてはいない。
そんなに、強く在る事など出来ない。
「信じる事と、真実を知る事は常に同じというわけではないですしね」
ま、父さんの言葉の受け売りなんだけどね。
なるべく嘘のないように生きたいとは思うけど、欠片も嘘のない者などどの世界にもいない。
だから、嘘を言うのではなく、何も言わない事を選ぶ。
それを逃げだと言われてしまうのなら、仕方ない事だ。
でも、逃げて何が悪いんだ?
俺は、やっと、それが後ろめたくなくなったのだ。
『回避』も立派に戦術の一つなのだ。
「……辛くなったら、ちゃんと吐き出すんですよ?」
「ありがとう、ライリクスさん」
はーっ、と、ビィクティアムさんが大きく溜息をついた。
「近々、俺は王都に呼び出されて審問会に引き出されるだろうから、その間はおまえに頼むぞ、ライリクス」
「はい。こちらでは暫く動きはないでしょう。兄上も王都に戻られますよね?」
「うむ、私とハウルエクセム神司祭も、その審問会には出ないといかんだろうからな」
上位貴族家門の一人を捕らえた上に、ビィクティアムさんにはファイラスさん殺害の嫌疑が掛かる。
審問会には、無実の証拠が必要だ。
「今日の記録は、役に立ちそうですか?」
「ああ、あれは役に立つだろう。だが……あの映像……だったか?あれが真実であると説明するには、記録がちゃんと録れる事を説明せねばならん」
「じゃあ、あの箱ごと持っていってください。記録の石は……はい、これをもうひとつ差し上げますので、撮影する時はここの丸の所に魔力を流しながら押し、止める時にもう一度同じ場所に魔力を流してください」
「んん?」
「……ちょっと練習しましょう。はい、持って!」
俺はビィクティアムさんとセインさんに使い方を伝授した。
二人とも結構夢中になって、いろいろと撮影を始めた。
うん……初めてスマホで撮影する小学生が、こんな感じだよね……
書道教室の子供達を思い出すよ。
さて、なかなか上手に録れるようになったので、もう一度新しい磁石をセットして再生用の箱と一緒に渡しておく。
……実は、このカメラにはもうひとつ磁石が入っている。
二重底になっているので、この磁石を取り出す事は出来ない。
これは『魔力が上のに石に供給されたら、記録された全てを俺の手元の磁石に転送し続ける』石である。
勿論、この転送石の魔力も、大気中の魔効素からいただいているので切れる事はない。
審問会がどんな風になるのか、そしてあの緑の目が誰なのか知りたい。
「審問会の始まりからこの箱は撮影できる状態で出しておいてください。その様子を記録しておく事もきっと重要だと思います」
「そのつもりだが……審問会は何時間にも及ぶ。魔法が切れたり、おまえに負担が掛かったりしないのか?」
「その点は、克服済だと言ったじゃないですか。絶対に魔力切れも、俺が倒れる事もありません」
「ますます、その方法が聞きたいものだな……」
「魔法師が魔法の手の内を明かすとお思いですか?」
教えないもんねー。
てか、大気の組成分解とか、科学的な事が関わるので、俺じゃあ説明できないんだよねー。
あ、そうだ。
折角あの『希少魔法』の本がここにあるのだから、前にビィクティアムさんに聞かれた【時空魔法】を使える家門があるか見てみよう。
「ビィクティアムさん、この本に家門の独自魔法が載っているんですけど、前に言ってた事調べます?」
「……!解るのか?」
「多分、載っていたと思うんですよ……あ、ありましたよ【時空魔法】の家門……ドードエラス……かな?」
うーん、名前の読み方は難しいな。
でも、現代語だとそうなっているから多分合ってる。
ビィクティアムさんの顔が強ばった。
セインさんも、信じられないと言ったような顔だ。
「……ありがとう、タクト。これで全部繋がる……」
全部……?
……これ、伝えちゃって大丈夫だったのか?