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第126話 終わるもの・始まるもの

 これから北・赤通りに行ってみると言った彼らを見送って、俺もそろそろ帰ろうかと思った時に工房から出て来た人に呼び止められた。

 誰だよ、面倒な人だったら嫌だな……と思いつつ振り返ったら、ベルデラックさんだった。


 ベルデラックさんは一番最初に燈火作りを教えた五人のうちのひとりで、一番の年長のおじさんだ。


「え? 辞めたんですか?」

「うん……どうしても僕は、セントローラさんとは合わなくってね」

 あれと合うって人の方が、どうかしてると思う。

 一度自宅に戻るというベルデラックさんと一緒に、雪の歩道を歩きながら話を聞いた。


「あの簡易燈火だって、本当はもっときちんと作っていたんだ。それなのにこの一年は材料を削られたり、技術者を貴族用燈火作製に取られてしまっていてね」

「いくつか修理しましたが……そういう理由で品質が悪かったんですね」

「そうか、君が直してくれたのか! よかった。最近のは……本当は、売るはずじゃなかったものまで交ざっていたんだよ」


「売るはずじゃなかったもの?」

「ああ、僕が売れないと判断したものを纏めていたんだが、無駄なことはするなと会長に言われて、工房長のフィロスさんもこれくらいなら売って構わないと僕に黙って店に卸してしまってね」

 うわー……でもどうして、そんなにまでして売りたかったんだ?


「君のあの部品、どんなに研究しても王都の研究班は解き明かせなかった」

 あ、電池の部分か。

 そりゃそうだろうなぁ……俺の独自魔法だもん【文字魔法】は。


「それで似たようなものを作っているアーメルサスに、魔法師を幾人か派遣して研究させていたんだが、全く違う技術だということが解っただけだった」

 なるほど……研究費が嵩んで利益を圧迫しだしたから、安いコストで作って利益率を上げようとしたのか。


「それで、どんどん技術者が減らされたり、未熟な者を安く使って仕上げさせたりするようになってしまった。もう、僕にはついていけない……と思ったんだよ」

 そうだよな。

 ちゃんとした職人であれば、そんな不本意なものなんて作りたくないはずだよ。


「それに、別の町にも行きたくなかったんだ。ここは……シュリィイーレは、僕の父の故郷だから」

 えっ?

 元々この町の人だったのか。


「父には繊維関連の技術とか、鑑定しか出なくてね。この町より王都の方が仕事があるからって、移住したらしいんだ。僕に金属加工や石工技術が出た時は、とても喜んでね。一緒に、この町に戻って来ているんだよ」

 そうか、お父さんはこの町に帰りたかったけど、仕事がないから帰れずにいたのか……

 確かに繊維関連や縫製などは、この町ではあまり工房も店もない。

 布自体、あまり多くの種類が入って来ないからなぁ、シュリィイーレは。


「でも、それじゃあベルデラックさん、今後のお仕事は……?」

「少しは蓄えがあるからね。小さくても、自分の工房を持とうと思っている。この町は……僕もとても好きだからね」


 この人は、信頼できる人だ。

 是非ともこの人には、この町で素晴らしい職人になってもらいたい!

 俺に協力できることはあるだろうか……

 あれ?

 腕のいい職人で、燈火作りも全部できて……お父さんも繊維関連の技術と、鑑定ができる……?


「ベルデラックさんのお父さんって……木工か、植物加工の技術はある?」

「ああ……父には『植物加工』と『繊維加工』の技術があるけど……どうしてだい?」


 できるじゃないか!

 燈火本体もフィラメントも、ベルデラックさん達で作ってもらえるじゃないか!

 おっ、そうだ、もうひとつ確認。


「じゃあ、縫製技術は?」

「うん、できるよ。それは母もできる」


 神様、この出逢いに感謝いたしますっ!

「ベルデラックさんの工房ができあがったら、燈火とうちの商品を販売した時にお客さんに渡す袋を作って欲しいんだけど、どうかな?」

「え……? で、でも燈火は……あ、いや、燈火の権利は君のものか、元々……」

 そう。

 燈火は勿論、俺の権利だし、簡易燈火じゃなくて俺が今、修理しているものと同じものを『小燈火』として売ればいい。


 そして、布製品を作ってくれる工房が殆どない上に、伝手つてもなかったから自分で作っていたうちのトートバッグ。

 つまり、俺のマークの入ったショッパーを作ってもらえるなら、俺は魔法付与だけで済むのである!

 沢山作れるようになれば、ショッパーをトリセアさんの店でも、マーレストさんの妹さんの店でも使ってもらえるようになる。


「タクトくん……いいのかい? 僕に、作らせてもらって」

「ええ! ベルデラックさんなら絶対に、あんなおかしな製品は作らないでしょうから」

「父と母にも話してみる。もの凄く喜ぶはずだ……ありがとう!」


 いえいえ、いい技術者や職人を遊ばせておくなんて、それこそもったいないからね。

 俺としては、いいことづくめだし。


 ベルデラックさんの家の近くまで来たので、ついでにご両親にお会いしてその話を持ちかけた。

 ふたりともこの町で働ける、息子にだけ仕事をさせなくて済む、と喜んでくれた。

 うん、まさにウィンウィンである。


 そしてここはコデルロ商会が宿舎として借りている所だから、早々に出なくてはいけないというので南西の辺りをお薦めした。

 あの辺はシュリィイーレでは数少ない、布製品や繊維製品を扱っているお店が数件ある所だ。

 工房があれば、その他の注文も入るかもしれない。


 うちからもそう遠くはないし、燈火や布製品を作るなら冬でも凍らない南側の方がいい。

 あの辺には元々簡易燈火を売っていた店もあるから、新しい小燈火を卸すこともできるだろう。


 ベルデラックさんの新しい工房は、春には稼働を始めたいと言っていた。

 新工房開設には、俺も協力させてもらう約束をした。


 鉱石や布の仕入れ先とか、レンドルクスさんやトリセアさんに聞けば教えてもらえるかなぁ。

 あ、でもベルデラックさんなら、錆山に入れるか。

 来年の夏は、一緒に採取に入れるかもな。

 竹は竹籠を作ってくれているマーレストさんの工房に聞けば、仕入れや買い付け方法が解るかな。


 その後、コデルロ商会の燈火工房は春を待たずに閉鎖することになったようだ。

 もちろん俺は、今までの販売店には新しく『小燈火』を作る予定の工房が春にはできる、という情報だけは話しておいた。

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