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第120話 新製品、販売

 まぁ、冬ですから。

 寒いですからね。

 お客さん、衛兵さんばっかりですよ。


 衛兵隊詰め所の専用食堂みたいな感じですよ、今日の昼は。

 ケースペンダントの新作は結構可愛い感じだから、彼らには刺さらないだろうなぁ……


 とにかく並べてみようと、手が空いた時に蓄音器と一緒に出してみる。

 真っ先に寄ってきたのは……あれ、メイリーンさんだ。

 そっか、デカ目の衛兵さんに隠れてて見えなかったのか。


「これ……木工?」

「そう。こういうのもいいかと思って。俺も今日は、これを着けてるんだ」


 自分用に作った、同じ柄のものを見せた。

 実はちょっと失敗したやつで、売り物にはできないけど、もったいなくて仕上げたものなのだ。


 彼女はささっと俺の意匠文字を確かめ、緑色のものを買ってくれた。

 そうか、緑が好きなんだな。

 そういえば前の、プロトタイプへの付与も緑色だったっけ……


「この箱も、綺麗だけど……何が入っているの?」

「開けてみて」

 彼女は手に取ったひとつの蓋を、ゆっくりと開ける。


 音楽が店内に流れ出した。


 驚いたのか慌てて蓋を閉めるともう一度、更にゆーっくりと蓋を開ける。

 音楽が箱の中から流れていることに気付いて、吃驚している。

 なんか、可愛いな。


「凄い……楽団がいるみたい……!」


 衛兵さん達も集まりだした。

 では説明しちゃおうかな、と俺は蓄音器と音源プリズムの説明を始める。

 一度蓋を閉めて、彼女に別のプリズムと差し替えてもらう。


「今度は違う曲だ……!」

「なんだ、この箱! 凄いな!」


「『蓄音器』って言います。この町の楽団に協力してもらってますので、これからもっと曲が増えていきますよ」

 俺がそう説明するとメイリーンさんはすぐに、石細工のものと木工細工のものをひとつずつ買うと言ってくれた。


「箱ひとつに付一曲分の音源は無料だけど、他の曲はこの『音源』だけ買ってくれれば差し替えて楽しめるよ?」

「いいの。ふたつとも綺麗だから、この箱も欲しいの」


 石細工と木工細工では入れている曲が違うのでふたつ買うのかと思ったけど、違うみたいだ。

 箱自体も綺麗だから欲しくなるのは解るけど、思いっきりがいいなぁこの人。


「この箱を開いている部屋の中だけにしか音が響かないようにしてあるから、隣近所や別の部屋を気にしなくて平気だよ」

 そう、音楽が漏れ聞こえるのは、他人にとっては騒音にしかならない場合が多いのだ。

 その辺は配慮済みである。


「俺、こっちの木工のやつ、買っていこう……冬場に家の中で聴いていたいし」

「僕は、石細工がいいんだけど……曲はこっちの、ゆっくりしたのがいいなぁ」

「じゃあ、差し替えますよ。どの箱にしますか?」

 ほっほっほっ、盛況じゃな!


 でもこれは多分、メイリーンさんのおかげだなぁ。

 目の前でスパッと購入を決めた人がいると、未知のものでも買いやすくなるよねぇ。


「メイリーンさん、ふたつも持って帰るの大変だろ? この袋に入れるといいよ」

「あ……ありがとう……」

「こちらこそ、ありがとう」


 彼女は座席に戻って、新しく買ったケースに身分証を入れ替えていた。

 そうだよね、新しいものってすぐに使いたくなっちゃうよねぇ。

 うん、うん。


 あれ、ケースペンダントも全部売れたぞ。

 もしかして、彼女へのプレゼントにするとか?

 くっそぅ!

 最近、俺の周りが甘々すぎるんだよっ!


 今日のスイーツは、めっちゃ甘いやつにしてやるぜ!




 その後の店内 〉〉〉〉



(寒い中毎日通ったかいがあったわ……一番に新製品が買えるなんて! しかも……今日のタクトくんと、お揃いの身分証入れ……ふふふっ……ふふふふふっ)



「身分証入れ、売らなくなってたからどうしようかと思ったんだよ」

「俺も。集めてるやつ、多いんだよな」

「僕はまだ、六個しかないです。もっと作って欲しいですよね」



「こっちに来てからまだ日が浅いから、どこで売ってるか知らなかったし、ここで手に入れられてよかったー」

「これで、痒みとオサラバだぜ!」



「この箱、凄く綺麗ですね……」

「彼女にか?」

「いえ、王都にいる母に贈るんです。足が悪くて演奏会に出掛けられないから、喜ぶと思って」



「まーた、タクトくんは、とんでもないものを作ったねぇ……」

「どうして彼は『平凡でいたい』とか言いながら、こういうことをするのでしょうかね」

「もう一度、常識講座やった方がいいんじゃない?」

「……いえ、このくらいでしたら大丈夫でしょう」

「誰か動くかな?」

「さあ……どうでしょうか」



(……名前……呼んでくれた……ふふふっ)

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