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第113話 信用なんて簡単になくなる

 タセリームさんの所に行く前に、レンドルクスさんの工房が近いので事実確認をしておこう。

 大体、石細工だけ増産したところで、俺は絶対に金属部分の増産はしないし【付与魔法】も余分にやったりしない。

 となれば、別の台座や鎖で作ろうとしているのかもしれない。


 それが俺のデザインのものでないのなら、なんの問題もない。

 この四年の間に、レンドルクス工房がデザインしたものも沢山あるからね。

 その辺の確認が先だ。

 まぁ、雪の前にご挨拶には行くつもりだったから、丁度いい。



「何? 増産の件、聞いてねぇのか?」

 尋ねた時のレンドルクスさんのこの反応から、俺の意匠のものの増産のようだ。

 あの野郎、事後承諾にしてなあなあでやらせようとしたな?


「俺は何も聞いていないし、増産されても俺が作る金属部分は増やせないからね」

「タセリームに確認したんだよ……『ちゃんと話す』って言ってたから……くそぅ、あいつ……!」

 あの人は自分がやりたいことの行動は早いくせに、きちんと話を詰めるとかそういうことを面倒くさがるんだよな。

 商人として致命的だろ、それ。


「もう作製、始めちゃった?」

「始めたのは、俺のところで新しく作った意匠の分だけだ」

「なら、俺の意匠証明のものとか、以前俺が頼んだ意匠のものは暫く作らないで。話次第では、もうタセリームさんの店で売らなくなるかもしれないから」

「……解った。一旦止めておく。早めにおまえが来てくれてよかったぜ」


 うーん、レンドルクスさんは悪くないし、石工職人さん達にも申し訳ないが今は止めてもらうしかない。

「ごめんね。別件で頼みたいものが出て来たら、今度は直接契約してもいいかな?」

「ああ、その方がうちも信頼できるな。タセリームは、最近コデルロ商会と組んで舞い上がっちまってるからな」

「なるほどね……増産話も別の町での販売も、そっちから水を向けられたんだろうね」


 コデルロさんは俺じゃなくてタセリームさんをまず落としてから、俺を説得させようとしたってことなのかな。

 悪いけど、俺はタセリームさんに貸しはあっても借りはないからね。

 有耶無耶なまま、契約なんかしないぞ。



 魔法師組合に立ち寄って、ケースペンダント委託販売と魔法付与についての契約書を受け取ってからタセリームさんの店に向かった。

 うん、間違いなく契約書には一日の製作個数・販売場所の限定についても記載してある。

 契約の見直しについても……よし、ちゃんと『双方の同意がない場合契約は無効』『契約違反があった場合契約は無効』だな。


 確認した契約書には『意匠・及び付与魔法の権利者・タクト』『権利者の認めた物品の委託販売業者・タセリーム商会のみ』となっているので、タセリームさんがコデルロさんと既に契約していても、俺の作った物は卸せない。

 俺の了承と、俺とコデルロ商会との契約が必要ということだ。


 タセリームさんは権利関係にはちゃんとしている印象だったから、正直、唆されたのではと思わなくもない。

 でも、それに乗っかっちゃった時点でアウトだ。

 俺はもう、あの人を信用できなくなってしまった。



 店に着くと、タセリームさんの姿は見当たらなかった。

「あれ? 君、あの食堂の人だよね!」

 声をかけてきた女性は、先日うちに来てくれたタセリームさんの店で働くと言っていた新人さんだ。


「タセリームさんは出掛けているんですか?」

「そう、今もの凄い優秀だっていう魔法師さんを迎えにいってるのよ」

「そっか……」


 今日はトリセアさんもいない日だし、誰か客を迎えに行っているのだとしたら話はできないかもなぁ。

「じゃあ、タセリームさんに契約の件で確認したいことがあるから、明日来て欲しいって伝えてもらえますか?」

「……君、商会の代表者を呼びつけちゃうわけ? もう一度君が来るのが、礼儀じゃないの?」


 うわ、面倒くさい人だな。

 事情も知らないのに、その言い方はまずいだろう。


「あなたにそんなことを言われる筋合いはないよ。その通りに伝えてくれれば、タセリームさんなら判るから」

 俺の声は、結構ムッとしていたと思う。

 その女性は、俺を睨んで返事もしない。


 別にいいや。

 タセリームさんがいないのでは、話にならない。

 俺が帰ろうとすると、店の奥から見知らぬ男が出て来た。

「どうしたんだい? 困った客でも?」

「あ、セントローラさん。大丈夫です。ちょっと不躾な人がいただけで……」


 聞こえてるっつーの。

「ああ……聞こえていたよ。君ねぇ、誰かに伝言を頼まれただけかもしれないけど、言い方というものがあるよ?」

 うわ……この人も面倒なタイプだ。

 若い従業員の前でかっこつけたい、説教好きおっさんか?


 無視だ。

 うん。

 それが一番だ。

「おいおい、そういう態度は良くないなぁ!」

 帰ろうとする俺の前に立ちはだかってまで、何を言いたいんだよこいつ。


「この商会のご主人はね、我々コデルロ商会と大きな商いをするほどの方なんだよ。礼儀はわきまえないと」

 あの新人さんも頷いてるよ。

 あーあ、マジで面倒くせぇ……


「見ず知らずの人間にでかい態度に出るやつが語る『礼儀』なんて、価値がありませんね」

 コデルロさんとの取引も、そろそろ見直した方がいいな。

 こんなやつがシュリィイーレに来るようじゃ、俺の精神衛生上良くない。


 何かそいつが怒鳴っていたが、俺は無視してその場を離れた。

 そして、もう一度魔法師組合に行って、コデルロさんとの燈火の契約書も貰ってきた。



 感情的と言われようが、かまうもんか。

 絶対に、契約解消してやる。

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