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第110話 古代文字

 どうしたんだ、ふたりとも真剣に神典を見ているだけで全く喋らないぞ。


「こんな所にあったとは……これは間違いなく、原典なのか……?」

「……駄目です。僕には全く読めません」

 え?

「私にも……部分的にしか解らぬ」

 えええ?

 読めないって……文字、ちゃんと出てるし、欠けたり掠れたりしてないよ?


「タクトくん、これは『古代文字』だ。今使われている文字ではないから我々には読めんのだ」

「古代……文字? でも……あちこちに彫られていたりしてますよね? 【付与魔法】でも使われてるし、現在も使っているものかと思ってたんですけど」

「君は、この国の文字が最初、読めなかったと聞いたが?」


「はい。知っている文字とは違ったので。そっか……古代文字と交ざっていたのかぁ……沢山あるなぁとは、思ったんですよね」

「魔法を付与する時は、解らなくするために態と意味のない文字を入れたりしますからね」

「そうじゃな。古代文字は、全く意味をなさぬ文字として扱われているものもあるくらいだし、そういう目くらましに使われていることも多いな」


 ははは、意味のない言葉まで、読み取っちゃっていたのかぁ……

 最初あの白森の小屋で見つけた手紙と、碑文の文字や【付与魔法】で使われている文字が随分違ったから、種類が多いのかと思ったんだよね。

 ひらがな・カタカナ・漢字、変体仮名とか旧字とかアルファベットとか、そういうのまで普通にある国で育ったからか、多くても疑問に思わなかったなぁ……


「もしかして、ここの本の文字って、全部古代文字なんでしょうか?」

「多分。背表紙が何ひとつ読めませんからね、僕には」

「……タクトくんは……全て読めるんだね?」

「はい」


 これ、『自動翻訳』のせいだよね。

 どの文字が古代文字なのかわかんないくらい、ちゃんと全部読めちゃうんだよね……

 俺はなんの疑問も抱かずに、だーれも読めない古文書をすらすら読んじゃっていたということなんだね。

 そりゃ、吃驚されるよな。


「この古代文字で書かれている神典……我々は『至・神典』と呼んでいるが、これのすべてを正確に訳したものが存在しないのだ」

「そうだったんですか……」

「そこで……頼みがあるのだよ。『至れるものの神典』……だったかね? これを翻訳して欲しい」

 翻訳……?

 あ、現代語にってこと?


「部分的には『至・神典』をご存知なんですよね? これがそれと同じかどうか解らないし……他のものと比べてみてからでも……」

「この本の中に『九芒星』と書かれた言葉は見つけられるかい?」

「えっと……あ、ここですね」


「うむ。私が知っているのもこの単語だ。では『大いなる星の支神にて子等にきざはしもといを与えん』」

「それは、確かこのあたり……ここです」

「今のふたつは『至・神典』にしか書かれていない言葉だ。この『至れるものの神典』こそ、我々が数千年探し求めていた原典に間違いない」


 ソンナニサガシテイタノデスカ……

 確かにここの本、めちゃくちゃ古かったもんなぁ。


 しかし、翻訳……か。

 現代語訳したら、当然、それを複製して本にするよね?

 で、そこに書かれた『文字』が『至・神典』の基準になるよね?


 ……

 ……

 それって、すっげーことなのでは?

 文字書きとして、途轍もなく名誉なことなのでは?


「翻訳……お引き受けします」

 こんな大仕事のチャンスなんて、滅多にないぞ!


「いいのか? タクトくん! この原典を読み解ければ、君のことを皇家にも教会幹部達にも隠しおおせなくなる!」

「それでも……俺はこの神典を『書いて』みたい、です」


「書き上がるのに時間を要するだろう。この神典は表に出さず、この部屋でのみ書く方がいい。そして、書き上がるまで、誰にも書いていることを伝えるべきではない」

「兄上、それでも危険度は変わらない!」

「なんで、そんなに危険なんですか?」

「この神典が読み解ければ、古代文字が他の者でも読めるようになる。つまり、今秘匿されている、古代文字で書かれた極大魔法が読めるようになってしまうということだよ」


『極大魔法』って……神話に出てきたやつ?

 あれって実在すんの?

 あれれ……?

 その本も……ここにあるよね?

 訳されちゃったらヤバイ系の本だったりするの?

 物語の中の想像っていうんじゃなくて、実際使える魔法だとしたら……あの神話も事実だったりしちゃうのか?


 ここの本、閲覧制限と移動制限をかけておいた方が良さそう……

 万が一の時のためのセキュリティに、かけておこう。


「そんな魔法を君が読み解けるということや、この原典と訳本が揃っていることが知られたりしたらどうなるか……」

「解りました。ここ以外での翻訳はしません。訳せた分はセインさんが来た時にできた分を渡すってことでいいですか?」

「すまない。よろしく頼む……必ず、何があっても君のことは護る。絶対に」


「タクトくん、本当にいいのかい? やらなくたっていいんだからね」

「ライリクス! これは崇高な使命だ!」

「使命は『ドミナティア』のものです! タクトくんを巻き込む理由にはならない!」


 ライリクスさんは、俺を心配してくれているのだろう。

 俺が、平穏な日常を捨てて神のために……なんてこと、するわけないじゃん。


「大丈夫です、ライリクスさん。ドミナティアもこの国も教会も関係なく、ただ俺が書きたいだけです」

「タクトくん……」

「嫌になったら止めます」

「……うん、解った……しかし、本当に危険なことなんだということは、覚えていてくれ」

「はい。俺、逃げるのは得意ですから」


 ああー本気で俺を心配してくれている人を、不安にさせちゃってるなぁ……

 でも、自己防衛はキッチリいたしますからね!

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