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第109話 神典

「君は、今『三冊目の神典』を読んでいる……と言ったね?」

「はい。言い回しが難しいというか……一度読んだだけじゃ理解できなかったので」

 ここでセインさんは、大きく溜息をついた。

 なんで?

 俺、なんにもしてないよ?


「いいですか、タクトくん。神典はね、二冊しかないんです」

「へ?」

「『二冊』だけなんですよ。現存しているものは」

 いやいやいや、ライリクスさん、そんなことないですって!


「……でも、ありましたよ? 三冊……教会の司書室でも見たし」


 ふたりの顔が、信じられないほどの驚愕の表情に変わった。

 信じられないのはこっちですよ?

 だって、セインさん教会の人でしょ?


「あ、兄上?」

「知らん……見たことはない。司書室の本も全て確認したが、なかったはずだ!」

「下の部屋にあったじゃないですか」

 あの古本部屋は見てないのかな?


「下……? 司書室の、下、に……部屋?」

 あれ、セインさんは客分扱いで知らされていなかったとか?

「タクトくん、僕達をそこへ案内してもらえますか?」

「いいですけど……ライリクスさん、仕事は?」

「そんなものよりこっちの方が最重要事項なので、長官には後で報告しますから大丈夫です」

 最重要って……古くなった本が置かれているだけの部屋じゃないですかぁ!


 俺は半ば引きずられるようにして、ふたりに教会まで連れて行かれた。

 セインさんが、信じられないくらい早歩きなんだもん。

 焦らなくったって、本は逃げませんよぉ。



 教会に着き、セインさんの登場に神官の方々が面白いように礼を取る中、俺達は全部無視して司書室前までやってきた。

 あれ……なんか、嫌な感じが、する。

 司書室の中だ。


「ちょっと……ちょっと、待ってください。入らないで」

 俺はふたりを制止して、扉を開けてから隅々まで見る。


 ある。

 嫌な、ものだ。

『視ている』。

 何かが。


 部屋の天井付近に三個、そして一番奥の壁側、扉のすぐ脇にひとつずつ、青い石が埋め込まれた粘土の欠片を見つけた。

 壁にくっつけられていたり、部屋のコーナーに置かれていたり。

 まるで『監視カメラ』だ。


 俺はあの動く棚が見える位置の青い石だけ取り外して、廊下で待ってくれているライリクスさんに見せた。

「これは……魔法が掛けられていますね。おそらく『遠視とおみの魔眼』でしょう」

「遠視?」

「ええ、瞳と同じ色の石を使うことによって、その石を通してを遠方を視ることができるという魔眼です」


 こんなもの、この前来た時はなかった。

 俺が入った後、誰かが監視用に入れたのか。

 でも、ここの利用者は、全くと言っていいほどいなかったはず。

 ……なるほど、監視したかったのは、俺、か。


 道理で、嫌な感じだったはずだ。

 この青い石を粘土に埋め込んじゃえば、視えなくなるのかな。

 いや、どうせなら偽情報を与えてやろう。

 音も遠方で聞いてるといけないから、それも合わせて……


『部屋の中の人間とその人間の所持しているものは室外から視ることはできない』

『部屋の中の人間の会話・音は室外から聞くことはできない』

『部屋の家具・物品が動いても室外からは視えない』


 これを【集約魔法】にして部屋に付与する。

 セキュリティ、完了。


「セインさん、ライリクスさん、もう多分大丈夫です」

「何があったというのだね?」

「これです。なんか変な感じだったんで、取っちゃいました」

 さっきライリクスさんに見せた、青い石がくっつけてあった粘土だ。


「遠視の魔眼を使っていたとすれば、監視目的ですね」

「タクトくんがこの部屋で見つけたものが、どこにあったのか知りたかったのかもしれんな」

「えっと……仕掛けはここなんですよ」

 俺はあのスイッチを踏んで、本棚を動かして欲しいとライリクスさんに頼む。

 本棚は大した重さも感じさせずに動き、階段が現れた。


 俺は真っ先に入って、さっきの【集約魔法】をここにも付与する。

 念のため、だ。

 ここには嫌な感じはしないから、多分ないと思うけど。


 ふたりが降りてくる。

 ……ライリクスさん、怪訝な顔だけど?

「どうして、こんなに清浄な空気なんですかね……? ずっと開いていなかったとしたら、もっと臭いとかあるはずだし……第一、なんでこんなに明るいんです?」

「あ、上の司書室と一緒に俺が掃除したので。灯りは聖堂じゃなければ、魔法付与していいって言われたから付けました……外した方がいいですか?」


「あやつら、タクトくんに掃除までさせたのか!」

「タクトくん、ちゃんと料金を取りましたか?」

「いえ、本を読ませてもらえるので、その辺はご奉仕ということで」

 だって俺が言い出したことだし、汚れとかカビとかマジで嫌だったし。


「なんと、敬虔な……神官らに見習わせなくては」

「魔法はこのままで大丈夫です。便利ですし」

 よかった。

 本を読むのに、最適な環境は大切ですからね。


「しかし、ここの本は随分状態が良いですね」

「長期間誰も入り込まなかった部屋なのだろうから、そのせいではないのか?」

 いえ、俺がガッツリ補修したからです。

 だって、ぼっろぼろで読めなかったんだもん。


「あ、ありましたよ、神典」

「えっ! こ、これかね……?」

「はい。表紙に主神の星『九芒星きゅうぼうせい』が書かれています。『至れるものの神典』って名前ですね」


 ありゃ?

 ふたりが完全にフリーズしたぞ?

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