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第108話 注意事項

 家に戻ると父さんから、ライリクスさんが買ったものを持ちきれなかったから届けてくれと、レトルトパンの山を渡された。

 ……全部三十個ずつだもんな。

 ひとりじゃ、持てないよね。

 俺はすぐそのまま、ライリクスさんのところへ配達に行った。

 早く届けに行かないと、仕事で東門に行っちゃうよな。


「ライリクスさーん、配達に来ましたよー」

「ああ! すまないね、タクトくん。ちょっと一度に買いすぎてしまったよ」

「いえいえ、毎度ありがとうございます。大雪でうちも店を開けてなかったら、お腹空かせて倒れるんじゃないかと心配だったので、これで安心です」

「……あり得るね……うちは本当に料理をしないから……」


「人としての信頼がなさ過ぎじゃな、ライリクス」

 え?

 なんでセインさんがいるの?

「なんだね、不思議そうな顔をして……ライリクス、おまえ、まだ話しておらんかったのか!」

「……僕にどう話せと言うんですか。もう同じ家門ではないというのに」

 は……?

 同じ、家門って……まさか。


「ライリクスさんも『ドミナティア』なの?」

「『ドミナティアだった』だよ。もう、僕はただの臣民だからね」


「ああ……いや、それなんだがな……陛下が……おまえの除名を承認なさらなくてな……」

「はぁっ? 何を言っていらっしゃるんですか、今更っ! 結婚を解消する気なんかありませんよ!」

「うむ、それは、必要ない。陛下が、ドミナティアとセラフィエムスの和解の証としてだな、ふたりの結婚の保証人になる……と仰有ってのぅ。除名ができなくなった」


 あーあ、ライリクスさん口開けて固まっちゃってるし……

 つまり、このセインさんが、ライリクスさんとマリティエラさんの結婚をずっと反対していたお兄さんってことか……

 セインさんって父さんと年が近そうだし、随分年の離れた兄弟だなぁ。

 てか、皇王陛下が結婚保証人とか、どんだけ凄い家門なんだよ、ドミナティア。


「ライリクスさん……大丈夫ですか?」

「あ? ああ、すまない。もう、何がなんだか……まったく……」

「まぁ、よいではないか。結婚は認められたのだし」

「……そういうことにしておきますよ。でも、僕は絶対にマントリエルにも、王都にも戻りませんからね。陛下のご命令でも」

「それは大丈夫だ。寧ろおまえ達を、シュリィイーレから出すなと言われとる。ここが、一番安全だからな」


 貴族っていろいろあるんだなー……

 ご兄弟のお話の邪魔してはいけないよね……てか、巻き込まれたくない。

「あの……じゃあ、俺はそろそろ……」


「ダメっ! 寧ろ君に話しておかなくちゃいけないことがあって、来てもらったんだから!」

「なんで、俺?」

「タクトくんは、いろいろ迂闊なことを言い過ぎるのでな」

「……セインさんに言われたくない……迂闊とか」

「そこは、ちょっと置いておいてください、タクトくん。気持ちはとても解りますが」


 そしてふたりに無理矢理座らされて、お勉強(?)タイムが始まったのである。




「まずは、タクトくん。君の数々の発言で、今後気をつけた方がいい点を挙げていきますから忘れないように」

「はい」

 ライリクスさん、先生モードだ。


「まずは、薔薇」

 はい?

 めちゃくちゃ予想外のところから、指摘されたぞ?

「薔薇というのは皇家の花だ。普通の臣民は、見たことなどない花なんだよ」

 えええー……あっちでは道端にだって咲いてたのにぃ?


「しかも、薔薇はどの国でも国王の主王宮か、皇太子宮にしか植えられていないものだ」

 あ、ヤバさが解りました。

 不敬とかそういうことですね?

 そのお偉い方々を象徴する花を、一庶民が形取ったり語ったりするのNGってことですねっ?


「……すみません。昔いた所では、普通に庭に咲いていたし、道端にもあったから……普通の花なんだと思っていました」

「君の『普通』が、かなり特殊だということのいい見本ですね」

「はい、気をつけます……」

 今度から薔薇は止めて、桜とかにしとこう……

 うん、桜のお砂糖も可愛いよね。



「それと、紅茶もそういう部類だから。飲んだり店で出したりは大丈夫だけど、摘んだ時期とか、あんまり詳しいと疑われるからね」

「紅茶もなんですか……」

「君のいた所では、日常的な飲み物だったんだね?」

「はい……牛乳入れたり、何種類かの茶葉を合わせて楽しんだり。紅茶だけで何十種類もあったので。こちらでも、簡単に手に入ったから平気だと……」

「……な、なるほど。そういう環境であったのか。うむ、今後はあまり詳しいと思われん方がいいな」


 セインさんにまで、そう言われるとは……

 こっちの貴族文化の知識が、全然ないっていうのが致命傷だなぁ。



「宝石や貴金属の知識にしても、あまりに詳し過ぎる」

「うむ。一般の臣民には手が出ないものを知り過ぎていると解られるのは、大変危険だぞ、タクトくん」


 そうだ。

 こっちでは貴石も宝石も、全く庶民のアクセサリーとしては流通していない。

 鉱物として知っているだけと言い張るにしても、必要以上に詳しく説明したりしない方がいい。

 うううっ『庶民』の感覚も、あっちとはかなり違うってこと、忘れていた。


「すみません。女性が宝石を身につけていない時点で、気付くべきでしたよね……首飾りとか指輪なんて、普通だと思っていたので……」

 レアメタル系も、そうなんだろうなぁ。

 気をつけなくちゃ、またレーデルスの時みたいに変なやつらに絡まれちゃうかも。


「あと、私からもうひとつ」

 まだ、やらかしてるのか、俺?


「神典と古代文字だ」


 ……は?

 神典は全部、教会にあるものと同じだし……『古代文字』って何?

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