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102.5 ファイラスとライリクスとセインドルクス

「タクトくんは……なんなんですかね? 僕等をどこまで悩ませる気なんですかね?」

「ううむ……これほどとは……」

「ところで、どうしてさも当然のように、僕の家までついて来ているんですか?」


「ここはタクトくんの付与魔法で、絶対に音が外に漏れないからね!」

「うむ、仕方なかろう。あのようなものを見せられては、すぐに帰ることなどできぬわ」

「そうそう、今の時間なら君の細君もまだ帰っていないから、取りあえず吐き出しとかないと」

「……解りましたよ。僕もどうしていいか解らなくて、困っていますので……」


「どうですか? 神司祭様、腕は痒くないですか?」

「ああ……以前は着けたその場で、真っ赤になってしまったのだが……痒みも、赤味も出ない。ううむ……法具である銀に、別のものも混じっていたとは……」

「ということは、タクトくんの言う『組成変更』は、見事成功しているということですね」


「あのさぁ、その組成変更? ってあんなに『得意』くらいでできることなの?」

「無理です。熟練の錬成師だって、法具にあんなことできません」

「ましてや、加護に何の影響も及ぼさずに加工ができるなど……歴史上初のことに違いない」

「……段々『破格』だけで済まなくなってきている気がするよ。怖くなって来ちゃった」


「おそらくタクトくんの魔法の秘密は、あの膨大な知識量です。三部屋が本でびっしりだったと言っていましたよね? そんなに本があることも驚きですが、タクトくんはそれを全て読んでいるということでしょう? 何年かかったのか……」

「……閉じ込められていたのかもしれんな。友達がいなかったというのも、そのせいであろう」

「そこに銀のこととか、翠玉のことなんかも書かれていたとすれば、神書級の本ばかりってことだ」

「この翠玉がああいうものであったとは……私も知らなかった。決して大きくはないのに、なぜ強い加護がかけられているのかと不思議であったが……」


「あの身分証入れの意匠を『九芒星きゅうぼうせい』と言っていましたね」

「その言葉も『至・神典』だけに出てくるものだ。しかも『しるべの星』とすぐに結びつけた。間違いなく、彼は原典を読んでいる。我らが欲してやまない、最も神に近い書物の知識が彼の中にあるのだ」

「教会的にとっても、タクトくんの重要度が跳ね上がってしまいましたね……どうなさるおつもりですか? 神司祭様」

「……ここは非公式の場だ。今まで通りで構わん」

「ありがとうございます……兄上」


「教会としては何もせん。彼のことは、今はまだ、私ひとりの胸の内に留めておこう。しかし、今後彼に目をつける者は必ず現れるだろうから、対策だけは立てておかんとな」

「『天に祈りを地に恵みを』……これも神典ですか?」

「それはシュリィイーレ大聖堂裏にある噴水の碑文だな。勿論、古代文字だ」

「タクトくんは、古代文字が完璧に読めるってことか……そういえば、教会の司書室に行きたがっていましたよね?」


「ああ、許可証を出したから近い内に行くだろうな。楽しみだよ、彼がどんな本を選ぶのか。来月又、ここへ来た時に聞いてみなくては」

「本当に毎月、いらっしゃるんですか?」

「当たり前だろう! そのためにここの教会に、王都との方陣門を設置したのだからな!」


「えー……そんなもの作っちゃったんですかぁ……うちの長官も知ってます?」

「ああ、自分にも使わせるなら、作っていいとぬかしおったわ!」

「使用条件、ちゃんと厳しくしておいてくださいね?」

「勿論だ。私の許可がない者は通れん」


「本当に、直轄地の視察が目的なのですよね? あの店に行くため……ではなく」

「……」

「兄上?」

「神司祭様?」



「そろそろ行かねば。明日の準備があるでな」



「逃げたね」

「逃げましたね……まったく、困った方だ」


「それにしても……いやー、タクトくんは相変わらずだよねぇ。『大出世』なんて言った時は、本当に吹き出しちゃったよ」

「僕はあれほど、頓狂な兄の顔を見たのは初めてでしたね。タクトくんに感謝しなくては。あんな面白いものが見られる日が来るとは、思いませんでした」

「あの冷徹無比と言われた、聖ドミナティア神司祭とは思えない変わりっ振りだよ」


「不思議です……家族と思っていた時は、全く目を合わすことすらなかったのに、家門を除名されてから、こんなに会話しているなんて……」

「これもタクトくんの魔法だったりして……ね?」

「否定できないから、怖いですねぇ」

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