第102話 法具改造
俺はセインさんと工房側へ行き、金属アレルギー対策方法の説明をする。
父さんは、地下の倉庫で材料整理をしているみたいだ。
後で手伝おう。
するとすぐにファイラスさんとライリクスさんが来て、衛兵隊にもそういう人が多いから、参考までに聞かせて欲しいというので一緒に。
そうか、未だにケースペンダントがタセリームさんのところで売れ続けているのって、金属アレルギーの人が多いからなのかもしれない。
この町は金属に触れる機会が多いから、アレルギーも出やすいのかな。
「まず、一番確実なのは腕輪に炎症防止の魔法を付与する」
「それは……駄目だな……魔法が付与された物を持ち込めない部屋が、王都の大聖堂にはあるのだ。これを外すことはできん」
なるほど。
そんな部屋があるとは。
王都はやはり、セキュリティが厳しいんだろうか。
「じゃ、炎症を起こさない素材を、腕輪の肌が触れる部分にだけ一体化で取り付ける方法。ただこれだと、少しだけ重くなるし色味の変わる部分ができてしまう」
「それもあまりよろしくないな。『銀』というのが条件なのだ」
「ん……としたら、銀の中に含まれる組成割合を、部分的に変える方法」
「組成……割合?」
そう、この銀細工の銀には銅とニッケルが、合計で二割ほど含まれているようだ。
だからニッケルを除いて、銅だけにした上で銅を肌が触れる部分に含ませないようにする。
「……銅が入っているのか……」
「純銀なら、殆ど過敏症は出ません。でも銅が含まれているから、その銅に反応してしまうんです」
「銅を取り除いちゃえば、いいってことかい?」
「それじゃ駄目なんですよ、ファイラスさん。純銀では柔らかすぎる」
純銀ではすぐに傷が付いてしまうし、加工がしづらい。
宝石を留める爪なども弱くなってしまって、石を維持できない。
「純銀を十割とした場合、七分五厘位は銅が入っていた方がいい。だから、肌に触れる部分を純銀にして、細工された部分や石を留めている部分は銀九割二分五厘と銅七分五厘の割合にする」
「そんなことが……できるのか?」
「やってみてもいいですか? 銀としての組成は変えずにできる方法は、これくらいだと思うんです」
「解った。頼む」
まず、余分なニッケルを完全削除。
次に肌に触れる部分を、純銀にしていく。
腕輪の中の銅を表面部分からなくし、純銀でコーティングするのだ。
宝石を保持している部分だけは、表面も銅を含んだものにしておく。
そのコーティング部分に付与ではなく、【強化魔法】を使って硬度を少し上げる。
傷対策はこれで大丈夫だろう。
今後の黒ずみ対策は……小まめに磨いてもらうことにしよう。
組成を動かしたことで傷が消え、表面の輝きが銀本来のものになった。
「凄いですね……輝きが戻ってる。銀の輝きだ」
「うむ……加護も変わっていないようだ……」
「加護?」
「ああ、こういう宝石が使われている銀製品には、加護がかかっているものが多いのだよ」
加護……か。
何かよくわかんないけど、俺の持ってる【守護魔法】とは別のモノなのかな?
そういえばこの腕輪のエメラルドの周りに、淡く青い光が見えるなぁ。
これなのかな?
加護って。
「これで多分、大丈夫です。なるべく小まめに磨いてくださいね。どうしても黒ずみが取れなかったら、持ってきてくだされば取りますよ」
「ああ……ありがとう……素晴らしいな、君の錬成は」
「組成分解と再構築は、得意なので」
……「得意、で済んじゃうのかぁ」
ん?
なんか言った?
ファイラスさん。
「それにしても凄いですね、この翠玉」
「どうしてだい? そんなに大きい物では、ないと思うが」
「だって中に傷がないですよ? 翠玉で傷がないなんてあり得ませんよ、普通。余程大きな物から傷がない所だけを切り取って加工したんですね。あ、そうだ……ちょっと待っててくださいね!」
ケースペンダント、渡しちゃおう!
あ、でも付与した魔法は取らないとまずいな。
強化と……一体化は【加工魔法】にして、意匠マークはちょっとだけ形を変えておけば大丈夫だな。
「これを私に……?」
「この金属だと過敏症の炎症はおきませんから、首も赤くなりませんよ」
「……! こ、この形は……!」
「はい。主神の杖の先に付いている九芒星です」
「あの杖の星は……空にあって、動かぬ星と言われる星だ」
「なるほど『標の星』なんですね」
『極星』ってことか。
じゃああの杖は地軸なんだな……地軸を主神が握っているってことは、星と大地を神様が支えているって事なのかな。
「輪郭の色が違うんですか……綺麗ですねぇ」
「うむ、夜空のようだな」
「中心の深い青から上に向かって玉虫色に、下に向かって緑になっていくようにしてみました。『天に祈りを地に恵みを』という事で」
「……これは……素晴らしい贈り物だ。ありがとう。タクトくん」
金属アレルギー、つらいもんね。
喜んでもらえてよかった、よかった。