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第98話 試験結果

 試験は無事に合格である!

 よかったー!

 まぁ、得意分野ばかりだったんでね!

 受かったから言えるけど、簡単でしたよ。

 はっはっはっ!


 更新してもらった身分証にはしっかり『魔法師 一等位』と表記されている。

 さて、帰ろうっと。


「君、タクトくん……だね? ちょっとこちらで話ができないかね?」

「はい、構いませんけど……」


 審査官のひとりに呼び止められ、俺は試験が行われた部屋に入った。

 なんか……嫌な予感がする。

 待っていてくれと言われたので、この隙に【文字魔法】で『全魔法防御』『状態異常無効』『全攻撃完全無効』を書き直し、改めてコレクションにしまった。


「実はね、君の魔法付与した剣と盾を、譲って欲しいという方がいるんだが……」

「……剣と盾? どなたですか?」

「それは……言えない」

「では、お断り致します。自分の作ったものが、どこの誰かも判らない人に使われるのは嫌です。ましてや武器は、絶対に使用して欲しくありません」


 誰かを傷つけるためのものは、使わせたくない。

 試験じゃなかったら、俺は絶対に武器に【付与魔法】など付けない。


「……どうしたんですか?」

「いや……君は、なんともないのか?」

 やっぱりなんかしてやがるな。


「なぜ、逆らうことができるのだ……?」

「他に御用がないのでしたら、俺はもう帰ります。失礼します」


 そう言って部屋を出ようとした時、大柄の男が俺の前に立ちふさがった。

 短髪の赤毛が鮮やかで真っ黒の鎧を身に着けた、いかにも強いですよって感じの大男だ。


「おまえは、これから王都に行くんだ」

「行きませんよ。俺は自分の家に帰ります」

「……やはり効かない。おまえ、何かしたのか?」

「何かしているのは、そちらでしょう?」


 男が手を伸ばしてきたので、すり抜ける。

 勿論、身体強化発動済であるからするりと抜け出せる。

 審査官達の顔が驚きに変わり、大男は怒りの表情に変わった。


「きさま、武術の心得があるのか」

「ありませんよ。俺は魔法師ですから」


 こいつはまずい。

 危険だ。

 かなり。


 万年筆を取り出し、空中文字で『絶対服従(透)』と書いて接近してきた大男の額に付けた。

 人体への付与は初めてだが……どうやら発動している。

 これ、ヤバイやり方だな……


「俺のことを全て忘れろ。二度と俺に近寄るな。あの審査官達には「もういい。諦めた」と言え」


 男にだけ聞こえるようにそう囁くと、俺はすぐに男から離れた。

 少しの間、男は焦点が合わない目をしていたがすぐに歩き出し、なんのことか解らないといった顔のまま審査官達に向かって口を開いた。


「もういい。諦めた」


 このやり方は、良くない。

 もう、これをやってはいけない。

 人を操るなんて、絶対にやってはいけないことだ。

 これは、禁忌だ。


 俺は振り向くことなく試験会場を後にし、制止を促す声を無視して走り出した。

 町外れまで来て、一息つき後ろを見たが追って来ている気配はなかった。


 とにかく、あの剣と盾を無力化しておこう。

 全部【集約魔法】で付与しておいてよかった。

 俺はその魔法を書いた紙をびりびりに破いて燃やした。

 あの剣と盾に付与した文字は、これでまったくなんの効果も持たない文字になった。


「……つまり、やり過ぎたってことなんだろうな……」

 独り言を言い、天を仰ぐ。

 試験での付与も、今の……魔法も『過ぎたるは及ばざるがごとし』ってやつか。

 嫌な気分のまま乗合馬車に向かうと、そこで待っていたのは審査官のひとりだった。


 面倒なことになったものだ……とにかく俺はその馬車には乗らず、町中へ戻った。

 裏通りの、人がいない行き止まりの道で少し考える。


 歩いて帰れないわけではないけど、そんなことしたらシュリィイーレに着くのは夜中になってしまう。

 当然門も閉まっているから、東門か南東門の前で野宿だ。

 それは流石に嫌だ。


 ゼルセムさんやバーライムさんに頼めば、もしかしたら泊めてくれるかもしれないけど、ずっとこの町で暮らす人達に俺のことで迷惑が掛かるような事態は避けたい。

 それに、今、俺はこの町にいたくない。


「うー……試したことないけど……準備はできているんだよなぁ。やってみるか……」

 ぶっつけ本番はいつものことだ。

 空間操作、まだ二位だったからなぁ……

 くっそーもっと試しておけば良かったー!

 そう、空間移動、いわゆる『転移魔法』だ。


 実はこの魔法、最初は青魔法かと思ったのだが、青では発動しなかったのだ。

 となれば黄色だろうと、黄色で転移目標を複数箇所指定してある。

 あ、いつでもここに来られるように、ここにも書いておこう。

『転移目標・レーデルス(透)』

 よし。

 それじゃあ、やりますか。


 俺は黄色い文字で書いた転移魔法の紙を開いて、転移目標を唱える。

「魔法師組合・表門!」




「……着いた?」


 目を開けると、見慣れた魔法師組合の門の前にいた。

 よかった。

 成功だ。


 もっていた黄魔法の札からは、色が完全になくなっていた。

 一回で文字色が消えるとは……かなり魔力を使うんだな。

 転移目標の方は……消えていない。

 こっちは複数回いけそうだ。


 誰かに見られた可能性はあるけど、特に今俺に注目している視線はなさそう。

 ……ん?

 なんでこんなこと、解るんだ?

 ……ま、いっか。

 そんな気がするってだけだ。


 早くうちに帰ろう。

 なんかすっごく嫌な気分だ。

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