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第97話 生産者

 試験は、俺的には楽勝であった。

 いつもやっていることばかりだったってことは、俺の実践経験はとても有意義であったということだ。

 なんて言ってて、他の人と比べた訳じゃないから実は未熟ですとか言われたら目もあてられないが。

 まあ、いい。

 終わったことだ。


 とにかく腹が減ったので、近くの食堂で昼ご飯にした。

 イモとベーコンの炒めものが凄く旨かったが、パンが堅くてつらかった……

 うちのは、元々柔らかい方だったんだな。


 そして驚くほど、甘い物を出している店がない。

 あまりにもなくて、こっそり魔法でクッキーを出して食べちゃったくらいだ。

 うちは甘い物天国だからなぁ……


 でもシュリィイーレには甘味を出したりしてる食堂は多いし、お菓子屋さんも沢山ある。

 甘党ばかりなのだろうか……

 そういえば衛兵隊の人達も、甘党が圧倒的だな。


 暫く歩くと田園風景に変わってきた。

 確か東側にゼルセムさんの畑と家があるって……あ、あったあった!


「ゼルセムさん!」

「お! おおっ、タクトじゃねーか! どうしたんだ?」

「魔法師の試験を受けに来たんだよ」

「ああ、そっか、今日だったのかぁ! まぁ、おまえなら絶対受かるだろうな」

「だといいけどねー。あ、今年は色々ありがとう! 甘薯はもの凄く人気になってるから、来年も頼むね! あと、人参も」


 ここで念押しをしておかなくては。

 来年はクッキー以外の野菜スイーツも視野に入れているのだ。

「そうだ。まだ時間あるか? 甘薯作ったやつに会わせるよ!」

「それは嬉しいな! 直接お礼も言いたいし」



 甘薯の生産者は、ちょっと南側に行った所の小さな畑の主だった。

 バーライムさんという方でとても……子沢山だ。

 五人ものちびっ子がいて賑やかなのだ。

 バーライムさんからは滅茶苦茶に感謝された。


「ありがとうございます! 君が全部買ってくれたおかげで、今年は冬が越せる。それに、あんなに美味しいお菓子にしてもらえるなんて思っても見なかった」

「こちらこそ、甘薯は大人気になりましたよ。来年も是非、よろしくお願いしますね!」

 ん……?

 なんかイマイチ元気がないのは、どうしてだ?


「実は……僕はまだ畑を継いだばかりなんですが、うちの畑は小さいし、収穫量も少ないので、すぐに採れるあのイモを作ったんです……」

「もしかして……耕作していない期間があったり?」

「はい……あのイモを採った後、すぐに冬になってしまいますので、春まで何もできなくて」


 なるほど……畑が空いてしまうってのはよろしくないな。

 休ませてもいいのかもしれないけど、土に栄養をあげながら別のモノを育てた方が収入が上がるはずだし……

 このお子様達の数からすると、あの程度のサツマイモだけでは苦しいだろう。


「ちょっと……机を借りてもいいですか?」

「ええ、何を?」

「できることがあるもしれないので、少し待っててください」


 俺はコレクションから農業関連の本をいくつか出して、サツマイモの後作ができないかを調べた。

 いきなり覗き込まれないように、袋などで手元を隠しつつ……だ。日本語の本だからね。

 ジャガイモや玉ねぎは、他の農家も沢山作っているから競合が多すぎる。

 大根……は、俺は好きだが、あんまりこちらでは食べられていない野菜だ。


 ほう……エンドウ豆とか空豆……落ち葉を混ぜたりすると畑にいいのか。

 エンドウ豆なら、うちで全部買い上げてもいい。


 俺はエンドウ豆の栽培を勧め、春になったら収穫できるのでサツマイモと一緒にうちで全部買ってもいいと持ちかけた。

 もちろん、今の時期に先にサツマイモを入れてくれてもいいのだが、運んでくれるゼルセムさんがこの時期はシュリィイーレに来ないのだ。


「ありがとう……! これなら、僕にでも作れそうだ。何から何まで……本当にありがとう!」

 いえいえ、うちとしてはよく使うエンドウ豆を確保できて、願ったりかなったりでございますよ。


「タクトぉ、ありがとうなぁ! うちの人参も、おまえんとこに沢山もっていくからな!」

「それは嬉しいな! ゼルセムさんの人参は甘くて美味しいから、何にでも使えるんで助かるよ」



 いい商談がまとまった俺は気分良く、試験結果を聞くために町の中心部に戻った。

 まだ結果が出ていなかったので、取りあえず町をぷらぷらしていたのだが、出店なんかも殆どないのですぐに飽きてしまった。

 シュリィイーレって、なんでもある町だったんだなぁ。

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