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第94話 おっさんと問答・再び

 成人の儀から数日がたった。

 もー判らない魔法や技能は、取りあえず放置することにした。

 必要な時が来れば解るだろうってことで、保留にしたのだ。

 魔眼と言われても全く何も視えないので、こいつも保留。

 ぜーんぶ棚の上だ。



 秋も随分深まり、色々と美味しいものが沢山出回る時季になってきた。

 木の実系と茸系は、この時季の買いだめ商品である。

 しかし、今年は茸は買っていない。


 実は地下の貯蔵庫を少し広げてもう一部屋作り、何種類かの茸栽培を始めているのだ。

 自然物より安全だし、沢山取れるし、【文字魔法】で全部管理できるからコスト安いしサイコーである。

 と、いうわけで、今日の昼食は茸づくしだ。


「美味しいねぇ……この焼いた茸もいいが、肉と一緒に煮た物もとてもいい……」

「セインさん、パンは四個までなら無料でおかわりできるからね」

「ああ、ありがとう」


 セインさんは、あの公園でうっかり語り合ってしまったあのおっさんだ。

 態々《わざわざ》うちを探して、食べに来てくれたのだ。

 なんていい人なんだろう……


「あの時買った香辛料は、あまり使っていないんだね?」

「あれは別の料理用だよ。明日か……明後日辺り出すけど……辛いものは平気?」

「そうか、辛いのか……」

 あ、あんまり得意じゃないんだな。


「今日のお菓子は、あの時買った香辛料と玉子を使った焼き菓子だから、良かったらそっちも食べていってよ」

「香辛料が菓子に使われているのか。それは……食べてみたいね」

「じゃあ、食事の後、そのまま待ってて」

 本日のお菓子は、フレンチトーストのプリントッピングなのである。

 玉子とシナモンを使ったお菓子の定番だ。



 さてさて、お待ちかねのスイーツタイム。

 お菓子目当てのお客さんも来てくれてるね。


「こんにちはーっ! タクトくーん」

「いらっしゃい、ファイラスさん、ライリクスさん」

「……!」

 ん?

 ライリクスさん、どうかしたのかな?


「副長官、やはり僕は仕事に戻りますから……!」

「まあまあ! 大丈夫っ、付き合い給えよ、ライリクス!」


 あー、仕事中に無理矢理、ファイラスさんに引きずられてきたのか……急ぎの仕事とかあるんだろうなぁ。

 ファイラスさんにがっちり肩を掴まれて、店の奥の方に座らされちゃったよ。

 なるべく早めに出してあげるからね、ライリクスさん。



「はい、お待たせ、セインさん」

「……ありがとう。君も甘いものは好きなのかね?」

「勿論、大好きですよ」

「甘さ……というのは、堕落の始まりだとは考えたりしないのか?」

 相変わらずお堅いなぁ、セインさんは。


「この世に甘いものがあるのは必要だから、です。神が創った物だからこの世界に甘味が存在するんですよ。堕落なんてことは、絶対にありません」

「絶対と、言いきれるのかい?」

「だからー、前にも言ったじゃないですかー! 物覚え悪すぎですよ、セインさん」


 あ、ファイラスさんもライリクスさんも、吃驚した顔してる……

 そっか、流石に俺みたいな若造が、おっさんに何言ってんだって思うよね。

 うん、丁寧に、言葉を改めよう。


「『絶対』です。神様は間違えない。人がその甘さを感じて素晴らしいと思うことは神を讃えることです」

「神を讃える……?」

「だって、神様は必要のない物は創らないって言ったでしょ? 甘さを感じられるように人を創ったってことは、人にそれが必要だからです。それを与えてくれた神様に感謝するのは当然です」

「ほう……なるほどな」


「甘いものを食べて罪悪感を感じるのは、きっと『自分だけがこんなに素晴らしい神の恩恵にあずっていいのか』って考えちゃうからじゃないかと思うんですよ。だから、甘いものを食べることがよくないんじゃないかって思う人は、とても優しくて他人を思いやる人だと思うんです。しかし、食べないという選択肢は、寧ろ神への冒涜です! 甘いものは、正義なのです!」

「相変わらず、君の独自理論の展開は強引だねぇ」

「極論も暴論も論理の一端であると考えています……なんてね? さぁ、温かいうちにどうぞ。桂皮たっぷりで美味しいですよ」


 シナモンがいい香りで、蜂蜜の金色がキラキラしてる。

 トッピングのプリンも最高のできあがりなのだ。

 屁理屈だろうと暴論だろうと、食べたら間違いなく幸せになるのだ。


「ああ、しかしその罪悪感はどうしたらいいと思うかね?」

「簡単ですよ。他の人にも食べさせてあげればいい。『持てる者は持たざる者へ分けあたうるべし』です」

「……君は……神典も読んでいるのか?」

「ええ、好きな所しか覚えていないですけどね」


 カリグラフィーにも聖書などの知識はあった方がいいし、写経もいい文字の練習になるからね。

 こっちの神典も、いろいろとあちらの物と同じような教えがあって面白いんだよね。


「他には、どんな言葉が好きなんだね?」

「ああ……あと『汝自らの智を以て扉叩くべし。されば開かれん』ってのが好きですね」

「それを……誰かに教わったのか……?」

「この間行った、教会の大聖堂にある神像の台座に刻まれていたんですよ。神典からの引用でしょ?」


 おそらく、だけど。

 全部読み終わっていないから解らないけど、教会の大聖堂に神典以外の言葉が刻まれたりしないと思う。


「大聖堂の……台座」

「はい。いい言葉ですよねー」

「どういう意味が込められていると思う?」

「『自分の知恵と知識で物事に挑んでいけば未来は開かれる』……かな。格好良く言うと。ぶっちゃけ『てめーで勉強して考えろよ、自分のことだろ!』って感じでもありますけどね」


「……は、ははは……! 本当に、君の意見は暴論だな」

「いいんですよ、受け取り方なんて主観なんですから」

 セインさんはこういう禅問答的なの、好きなのかな。

 おっさんとの作麼生そもさん説破せっぱもたまにはいいか。



 セインさんは、このスイーツをとても気に入ってくれたようだ。

 全部綺麗に食べてくれて、また来るよと笑顔で帰っていった。

 うん、やっぱり甘いものは正義だ。


 あ、ライリクスさんが走って出て行った……そんなに急ぎの仕事があったのかぁ……

 頑張ってくださいねー。

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