第09話 世界最強のパーティ
氷の魔女リリスが仲間に加わり、フェンたちはガレイロへ向かっていた。
「ねえ、リリス」
カエデは目線だけを上に向けた。リリスがカエデの頭にちょこんと乗っている。
「あのさ。王国騎士団の本部って・・・その・・・元に戻るんだよね? 中の人たちも・・・」
リリスは申し訳なさそうに顔をふせた。
「・・・ホント、すまんかったのう・・・。あ奴ごときに操られるとは、無念じゃ」
「い、いや。リリスは悪くないよ。ごめん、気にしないで」
リリスが少し笑みをこぼす。
「カエデは優しいのう。・・・本部はわしが責任をもって元通りにする。心配するニャ、『破壊』しなければ中の勇者たちはみな無事なはずじゃ。わしの魔法はそういうやつだからのう」
カエデは胸を撫でおろした。
ガレイロに帰還後、カエデとの約束通りリリスは本部の凍結を解除した。王国騎士団の精鋭たちも全員無傷。だが、勇者たちはユピから厳しいお叱りをうけ、それぞれが猛省していた。
街を囲っていた魔王軍はユピが指揮をとる王国騎士団によって呆気なく掃討された。ガレイロの街は最小限の被害で魔王軍を退けたのである。
だが、今回の魔王軍襲来はアスガルド王国に大きな課題を残すことになった。
一つ目は単純な戦力不足である。
これまでアスガルド王国は王国騎士団を強化することで、兵力の増強を出来るだけおさえてきた。王国騎士団は一人で100名以上の兵力をもつと言われる屈強な勇者集団である。その王国騎士団が今回のように動きを止められてしまうと、たちまち国家存亡の危機に直結してしまうのだ。
二つ目の課題はより深刻だった。
この国はユピの力に頼りすぎているのだ。
ここ数年、小~中規模の魔王軍襲来はほとんどユピ一人で対応してきた。彼女に対する民の信頼は絶大だ。
魔王軍はアスガルドの民にとって親の仇も同然の敵である。血も涙もない冷酷無比な魔王軍を殲滅させることがアスガルドの民の悲願なのだ。それなのにこの国はユピを国防に専念させてしまい、魔王軍に攻め入るタイミングをつかめないでいる・・・。
国防大臣であるカムサムはあご髭をなでると、珍しく神妙な口調で言った。
「この状況を続けたらアスガルドは滅ぶね・・・」
カムサムがちらりとカエデを見る。
「姫が連れてきた悪魔君・・・。君がうちのパーティに入ったことで・・・やっとボクも魔王軍に攻め入る覚悟ができたよ」
ユピが鋭い目でカムサムをにらんでいる。そして腕組みをした。
「姫とカエデ君、それとボクのパーティは少数精鋭で魔王軍に攻め込むのには最適なメンバーだ。それでも、勝算は無い」
フェンとカムサムはユピをじっと見ている。
「ユピをパーティに加えるしかない」
ユピは黙っている。
「でも、ユピがいなくなったらアスガルドは誰が守るの?」
「仕方ない。徴兵に踏み切って国王軍を倍にする」
「それだけじゃ・・・。あたしとユピが抜けた王国騎士団の指揮は誰が・・・」
皆が沈黙した・・・。
「カムサム・・・、私に任せてくれないか・・・」
扉の影から声がした。そして、マイルズの肩を借りてガスパードが部屋に入って来た。
ユピは腕組みを解かず、目を閉じて聞いていた。
「団長殿。今まですまなかった。相手が団長殿やフェン様とはいえ、少女に二度も完敗した自分が許せなかったのだ。罪滅ぼしをさせてくれ。頼む」
ガスパードは頭を下げた。気位の高いこの男が頭を下げるなど、ユピは見たことがなかった。
ガスパード・ハインリヒ。35才。男性。二児の父。ユピに敗れ去る前、王国騎士団団長の座についていた男。貴族ハインリヒ家の現当主である。
彼の傲慢さが団員に批判されることはあったが、尊敬されていたことも事実である。ユピとフェンが不在となると、これ以上ない人選だった。
「ガスパード・・・」
「はい・・・団長殿・・・」
「王国騎士団は貴様に任せる。頼むぞ、団長代理」
ガスパードが拳を握りしめ胸にあてた。
そしてユピは立ち上がって金色のマントをひるがえし、カツン、カツンと音を立てて部屋を出て行った・・・。
こうして、王女フェンのパーティにあらたな仲間が加わった。
若干24才にしてすでに生きる伝説。王国騎士団団長『英雄ユピ・ロゼリア』。
ここに四人一組において事実上、世界最強のパーティが誕生したのである。
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フェン・アスガルド 勇者 :LV25
カムサム・マグナ 賢者 :LV28
カエデ・イチノセ 召喚士:LV19
ユピ・ロゼリア 勇者 :LV35
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「カムサム。これからどうするの?」
「うーむ。ボク達の最終目的は魔王を倒すことだからギルティアを目指すわけだけど、カエデ君のようにアスガルド大陸の北から船でというわけにはいかないなあ」
「どうして?」
「まあ、なんていうか・・・今まで誰もその航海を成功させたことがないんだよ。単純に。だぶんギルティアとアスガルドを船で渡ったのってカエデ君がはじめてじゃないか?」
「へえ。すごいねカエデ」
フェンは小さく拍手した。
「うーん。実は航海中ずっと気を失ってて。気がついたらアスガルドの浜辺にいたから何も覚えていないんだ」
カエデは頭をかきながら照れくさそうに言った。
「ふーん。じゃあ、どうする?」
カムサムがあご髭をなでる。
「リオロードを通ってクリシュナに行こうか。その後どうするかは・・・まあ、まず船を手に入れてからだな」
「オッケー。あたし、ユピに伝えてくる」
フェンはそう言って、駆け足でユピを追いかけていった・・・。
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