第07話 リリスの神殿~王国騎士団団長ユピ
エルミス湖。ガレイロから西に20マイルほど離れた静かな森の中にその湖はあった。底が見えるほど水が透き通っていて、世界で最も美しい湖のひとつと言われている。
それには理由があった。水上には神殿が立っており、この神殿の主によって、水が浄化され続けているからだ。その主がガレイロの守り神リリスである。
フェン一行が湖のほとりと神殿をつなぐ橋を渡りきると、神殿の奥から白いローブに身を包んだ二人の女の子が姿をあらわした。そして彼女たちは声をそろえて言った。
「フェン王女様。あなた方をお待ちしておりました。私達はリリス様に仕える妖精族。こちらへ・・・」
二人の案内で神殿に入る。中央の間につながる扉の前につくと、二人はそこで立ち止った。
「リリス様は、この先で囚われています。間もなく午の刻。ユピ様が参ります。フェン王女様、どうかユピ様とともにリリス様を解放してくださいませ」
と、その時。
- カツン、カツン、カツン・・・
足音に気づきカエデが振り向くと、そこには黒髪の美しい女性が立っていた。漆黒の鎧に金色のマント。威厳に満ちた姿は、とても若い女性のものとは思えない風格があった。
「ユピ!」
フェンが言った。ユピ・ロゼリアその人である。
「姫・・・。何故ここに・・・」
ユピはカエデのピアスに気がついた。カエデの顔をじっと睨みつける。その間、フェンは固まったように黙っていた。ユピは一切表情を変えない・・・。
「なるほど貴様、召喚士か。確かにいい目だ。姫と一緒にわたしの戦い方をみているがいい」
そう言ってユピは長い髪を後ろで束ね、扉に手をかけた。カエデとフェンが息をのんだ。
「ユピ、ボクを無視しないでよ~」
ユピに完全に無視されたカムサムが不満げに言った。
「黙れ! このド変態野郎! 貴様はわたしの回復に専念しろ!!」
カムサムが珍しくしおれていた。変態おやじもユピには頭があがらないのだ。
中央の間。扉を開けると玉座には意識朦朧とした女の子の姿があった。水色のワンピースに妖精の羽。リリスだ。
そのすぐ側で闇の衣をまとった男は元王国騎士団副団長ガスパード。
ガスパードは無言で剣を抜いた。彼の様子も尋常ではない。両目が赤く光っていた。
ユピは黄金に輝く剣を抜いた。エクスカリバーと並び称される神剣デュランダルだ。
ガスパードがユピに襲いかかる。両者の剣が交わり火花が散った!
ユピが呪文を唱えるとガスパードは白い霧に覆われた。霧が濃さを増していく。
ガスパードは剣を振り回していた。だが、ユピが居る場所とはてんで違う方向に切りかかっている。ユピの幻術にかかっているのだ。
ユピは再び呪文を唱えて、デュランダルに炎をまとわせた。魔法剣。勇者ユピの得意技だ。
ユピはガスパードから距離をとり、突きの構えをとった。赤い炎が徐々に青い炎に変わっていく。ユピの周辺が急激に温度を上げていった。
「ガスパード・・・いま救ってやる!」
― シュン!
ユピの一閃がガスパードの胸を鎧ごと貫いた!
ガスパードの鮮血が飛び散る。
するとガスパードの心臓のあたりから黒い煙が噴き出してゆらゆらと空を漂った。
ユピはカムサムにガスパードに回復魔法をかけるよう言い、体勢を整えて再び突きの構えをとった。
「さあ、出てこい! 悪魔!」
黒い煙が上から降りてきてすっと形を成す。
リリスとガスパードを操っていた正体。猿人悪魔だ!
猿人悪魔は魔王軍屈指の実力者。二大悪魔に最も近いと言われる凶悪な悪魔だ。禍々しい二本の角からは瘴気が漂っている。
猿人悪魔は唾をまき散らし、気色の悪い笑い方をした。そしてカエデを罵倒した。
「オマエ、ゲエーロの召喚士ジャネエカ。オマエみたいな奴が俺様に何の用ダ?」
頭に血が上ったフェンは一直線に猿人悪魔に切りかかった!
「フェン!! 駄目だ!」
カエデは咄嗟にフェンを止めようとしたが間に合わず、猿人悪魔の強烈な一撃がフェンにヒットした。かろうじて致命傷は避けたが、かなりのダメージだ。
すかさずカムサムはフェンに回復魔法を唱える。カエデはフェンを抱きかかえた。
チャンスと見たユピは猿人悪魔に攻撃を仕掛け、一騎打ちが始まった。
「カ・・・カエデ。ユピ・・・なんか戦い方がおかしい・・・。彼女はもっと強いはず・・・」
ユピの剣技はカエデには全くといっていいほど見えない。だが、フェンには太刀筋が見えていた。フェンの傷はだいぶ塞がっている。大賢者カムサムの力だ。
「もしかしてユピ・・・コンタクトしていないんじゃ・・・」
カエデは一瞬、フェンが何を言っているのか分からなかった。
「彼女・・・、ド近眼なのよ・・・」
「え・・・? 何て?」
「多分・・・自分で気づいてない。だって・・・彼女めちゃくちゃドジっ子だから!」
「エ!? エ――――――!」
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