第06話 フェンと聖剣エクスカリバー
フェン一行はリオロードを東に外れて森のルートを進んでいた。首都アスガルドを抜けてガレイロに近づくに連れ、悪魔と遭遇することが増えてきたからだ。
ー 城塞都市ガレイロ
高い壁に囲まれたその街は、アスガルド王国の防衛拠点であると同時に歓楽街としても有名である。普段は壁の外にも屋台が広がり賑わいをみせる街だ。
フェンたちがガレイロの街を一望できる丘にたどり着いたとき、それは一変していた。悪魔たちであふれかえっていたのである。
かろうじて街の中までは侵攻されていなかった。街を囲う壁づたいに王国騎士団が張った結界があり、ほとんどの悪魔がそれ以上侵入出来なかったからだ。
「姫~。ガレイロの東門に結界を通り抜ける裏口があったハズです。そこから入りましょ」
カムサムの案内でこっそり茂みを進み東門に着くと、そこでも数十体の悪魔が壁内への侵入を試みていた。
木の影から様子を見ていたカエデたちは、結界が外れている裏口の位置を確認した。
(ガレイロを襲っているのはたぶん召喚士部隊だ)
カエデは身構えた。そして・・・。
フェンの合図で一斉に飛びだした。戦闘開始だ。
「いでよ! ブエル!」
カエデは本を呼び寄せた。目の前に本が浮かびパラパラとページがめくれる。
- きゅい――――――ん!
本の中からブエルが現れた。・・・だが、様子がおかしい。
何とブエルは居眠りをしているのだ。
(ブ、ブエル―――!?)
一斉攻撃に気づいた悪魔たちが、カエデに向って攻撃を仕掛けてきた。かつてカエデが召喚契約を結べなかった低級悪魔らだ。
「ゴミクズ召喚士ミーツケ、ケケケ」
悪魔の爪がカエデの身体を引き裂こうとした・・・その瞬間、カエデの視界に青い閃光が入った。
- ガシ―――ン!
間一髪、フェンのエクスカリバーがカエデの身を守った。そのままフェンが悪魔たちに向き直る。そして、刀身を鞘に納めて体勢を低くした。
「王国騎士団副団長、フェン! いざ参る! 飛竜一閃!」
フェンが凄まじいスピードで悪魔たちに飛びかかった。
刀身を抜いたのも束の間、すでに10体もの悪魔が倒れている。敵から敵へと青い閃光が直線を結んでいく。
火炎悪魔がフェンに向かって爆炎を吐いた。
フェンは爆炎にのまれた。たが、炎の中で青い閃光が円をつくり炎は消え去った。フェンはまったくの無傷。
瞬く間にフェンは20体もの悪魔を倒した。残る悪魔は召喚士のみ。フェンが切りかかろうとしたその時、カムサムの装束が風で舞い上がり、両手のひらから衝撃波が放たれた。
「ギャアァァァァァァァァァァァァア!」
「姫~。ボクにもいいところちょうだいよ~」
敵召喚士は消滅しフェンが刀身を鞘に納める。例によって勝利のファンファーレが鳴り響いた。
・・・と同時にブエルが目を覚ました。
「あれ~? カエデ呼んだ? もう眠くて眠くて・・・」
・・・カエデはフェンを見て「ごめん」と言って苦笑いした。
王国騎士団本部はガレイロの中心地にある。
そこには団長ユピ率いる精鋭部隊20名が常駐していて、アスガルド領の全域に眼を光らせている。
アスガルド王国騎士団は世界中に名の轟く勇者集団だ。その力は一国の軍隊にも引けをとらない。
これまで本部に攻めてくるものなど皆無だった。
だが、それが今この状況だ。街は閑散としている。
巡回していた王国騎士団がフェンに気づいて駆けて来た。
「副団長! 救援ご苦労様です!」
勇者マイルズと名乗るその団員は、ガレイロの状況をこと細かくフェンに報告した。
前触れなく王国騎士団本部を襲った者の名は、この街の守り神リリス。通称『氷の魔女』。
リリスは何者かに操られ本部の建物を凍結した。そのため団員数名が中に閉じ込められてしまったのだ。
そんな折、突如として街の門外に悪魔が現れ、凍結を逃れた団員たちによって、いま結界が張られているという。
「マイルズさん、ユピも本部の中にいるんでしょうか?」
「いえ、団長は今、リリスとリリスを操っている者を追っています。恐らく、西の湖にあるリリスの神殿に向かっていると思われます」
「そうですか。ユピが追ってるのなら心配はいらないでしょうね」
「はい。私も団長を信じてますが、ただ・・・」
「ただ?」
「リリスを操っていた者・・・あの方は・・・」
「???」
「元王国騎士団副団長、ガスパード殿・・・」
「ガ、ガスパード!? なぜ彼が・・・」
フェンと同様にカムサムも顔をしかめた。
ガスパード・ハインリヒ。元王国騎士団副団長。フェンが聖剣エクスカリバーを得て、団員最高の階位についたとき、掟に従ってフェンと一騎打ちをして敗れた男である。
貴族に生まれ育ったガスパードは、傲慢な性格がたたって団員たちからケムたがれる節があった。彼は降格を良しとせず、退団を申し出た後は生家に戻ったとフェンは聞いていた。
(闇落ちは考えられるけど・・・さすがに魔王軍に寝返るなんてことは・・・)
フェンは眉間にしわを寄せて腕組みをした。アスガルド城をでてから、フェンは一度も笑顔を見せていない。カエデはそんなフェンを気遣ってポンと肩をたたいた。
「フェン。考えてもしょうがないよ。リリスの神殿に行って確かめよう。元気だして」
・・・カムサムは少し顔が赤くなったフェンを見て、手をたたいて大笑いした。
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