第44話 海の落とし穴
航海は順調に進んでいた。今日もフェンとユピは朝から基礎体力づくりに励んでいた。腹筋、背筋、柔軟等々。たくさんのメニューをこなしている・・・。
カエデは少し付き合ってみたものの、昨日はひどい筋肉痛に襲われて一日中寝込んでしまった。そんなカエデにユピは容赦なかった。
「カエデ。だらしないな。男のくせに・・・」
(男のくせに・・・、男のくせに・・・)
カエデの頭の中にそのフレーズが何度も響いた。
(うっ! フェンに笑われてる気がする!)
実際そんなことはないのだが、カエデはがっくりと肩を落とした・・・。
「カエデ君。気にすることないから。あの二人がはっきりいって異常なんだよ。脳筋チームさ。ボクたちにはボクたちの戦い方があるんだからね」
カムサムがカエデの頭をポンとたたく。カエデは「ありがと」といってとぼとぼ船内に戻っていった。
「お年頃だからなあ~。ははは・・・は・・・ユピ! き、聞こえた?」
― ゴツン!
その翌日からカエデはフェンたちとは別に筋トレをはじめた。メニューはフェンたちにずいぶん見劣りするが自分なりに頑張っていたのだ。
そんなこんなでミーゼル出航から二週間。ほんの少したくましくなったカエデはフェンと一緒に遠くの海を眺めていた。そろそろ夕日が沈むころ。海が最も美しく輝くロマンチックな時間。
「フェン・・・。ほ、本当に綺麗な夕日だね」
「・・・そうだね。カ、カ、カエデ・・・」
夕日に照らされて二人とも顔が真っ赤になっている。日が完全に沈みきるまで他に会話は一切ない。この一週間・・・二人は毎日これを繰り返しているのだ。
カムサムとユピはマストの影に隠れてこっそりのぞいていた。
カムサムの苛立ちは最高潮に達していた。
「あ“ぁぁぁぁぁぁ。ガキどもが! じれったい!!」
ユピは「しっ!」と言って人差し指を口に当てた。
「まあ。そういうな、カムサム。よく見てみろ。昨日より5cm近いぞ」
大人二人は・・・退屈な船旅を存分に楽しんでいたのである・・・。
翌朝のこと。見張りをしていたカムサムが突然大声をあげた。
「お――――――い! みんな起きろ! 見えたぞ、ミストラ海峡だ!」
フェンたちが駆け足で甲板にでると、一同は目の前の光景に衝撃をうけた。
「さ、さすがにコレはボクも驚いたな・・・。まさか、ここまでとは・・・」
『海の落とし穴』の異名は伊達ではなかった。陸続きの岩場の端から端までわずか300フィート。その小さな海峡にあるのは、本当の穴。海水がその穴に流れていくこともない。物理の法則を全く無視した光景にフェン一行は全員開いた口がふさがらなかった。
「カ、カムサム・・・。あそこ・・・どう考えても船じゃ通れないよね・・・?」
フェンが言った。カムサムは呆けている。
「カムサムってば!」
「あ・・・ああ。すまん、姫。そうですね。無理だわこりゃ」
「折り返すにしても・・・ここを通る以外にギルティアに行く方法ないんでしょ?」
「そうですね・・・魔王軍みたいに空を飛ぶしか・・・、それか魔王やエキドナのように・・・」
カムサムがあご髭をさすって考え込んでいるとフェンが言った。
「あ! ブエルに・・・」
カエデは手をブンブン振っている。
「・・・は無理か。流石にこの船を抱えて飛ぶのはね・・・」
フェンが小さな声で言うと、何かに気づいたユピが穴の手前を指さした。
「おい! カムサム。あそこを見ろ。何か小さな人影が浮いてないか?」
「・・・?」
・・・船が少しずつ穴に近づいていくと、人影の姿がはっきり見えてきた。
「あ、あ、あれは『ピクモフーリン』じゃないか・・・珍しい、はじめて見た」
銀色の肌にクリっと大きな目をした小さな人型生物。頭から一本触覚がでていて、先っぽに丸い何かがくっついている。妙に愛らしいその生物は、じっとこちらを見ていた。
「ピクモフーリン?」
カエデがカムサムに聞いた。
「ああ。空間の狭間に棲む悪魔と妖精のハーフさ」
フェンとユピはピクモフーリンの可愛さに目がにやけている。すると、ピクモフーリンは何かに気づいたようなリアクションをして、カエデに近づいてきた。
触ろうとするフェンとユピをカムサムが必死に止める。
「二人とも駄目だ! ピクモフーリンはすごく臆病なんだから!」
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